セントエンノハナシ。

「美味しそうだね。」

目の前には、ロールケーキと湯気の昇るコーヒー。
つけっぱなしのテレビからは、ローカルニュースが流れている。
少し肌寒いこの季節でも、少しだけ暖かく感じるこの短い時間の為に、僕はロールケーキを買ってきたのだ。
けれど彼女は、右手にフォークを持ったまま、考え事をしているのか、ロールケーキを見つめながら、ぼーっとしている。

「どうかしたの?何かあった?」

僕は彼女に尋ねる。

「ねぇ?どうしてロールケーキは3当分できるのかな?1を3で割ると、0.3333…だよ?」

さっき買ってきたロールケーキを、僕は彼女の妹に残しておく為に、3当分した。
彼女はその事に疑問を感じているようだ。
テレビでは、隣町の祭りの様子が流れている。

「直線を3当分するから、割れないんだよ。円で考えたら良いんじゃないかな?120°の角度で切れば、綺麗に3当分できるよ?」

僕はそう言いながら、ロールケーキを倒して彼女に説明する。

「ほんとだ!でも、どうして円にすると割れるの?」

彼女は目を見開いて驚くと、また丸いロールケーキを見つめて考え込んでいる。
テレビでは、進む円高について専門家が難しい話を繰り広げている。

「あ、分かった!100セントは3で割ると33.3333…セントで割り切れないけど、円にしたら120円だから、3で割れる!そういうこと?」

彼女は、子どものように笑うと、ロールケーキのクリームをフォークですくって舐める。

「ちょっと違うけど、そんな感じかな?」

僕は彼女につられて小さく笑うと、彼女の笑顔を見つめて、また笑った。
彼女のフォークから零れた、小さな生クリームの破片は、コーヒーに落ちると、小さく白い円を描いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?