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拙著『ビジネスエリートが知っている教養としての発酵』の『はじめに』をご紹介します

久しぶりのnote投稿になってしまいました。

さて、2024年1月16日に、あさ出版様から、初の著書『ビジネスエリートが知っている教養としての発酵』を上梓いたしました。

さて、どんな内容なのかというお話しも良く聴かれますので、ここでは、発刊への思いも含めて、『はじめに』をご紹介させていただきます。

どんな本なのか、是非、ご興味を持たれたら、ご購入いただければ幸いです。

『はじめに』


はじめに――「発酵」は全方位から教養を学べる最高の教材である

「発酵」と聞いて、皆さんはまず何が思い浮かぶでしょうか。

 和食、腸活、ダイエット、自然食品、日本の伝統、職人、微生物学、バイオテクノロジー、遺伝子工学……。なんとなくわかるようでわからない、という方が多いかもしれません。日本の伝統的な食文化の1つでありながら、発酵について詳しく話せる人はほとんどいないのが現状です。

 しかし実は今、世界中で発酵について知りたいと考える人が増えています。なぜでしょうか。


 それは、発酵は未来のテクノロジーとしての側面を持ちながらも、伝統的な食品加工方法として、歴史や文化の面、あるいは、自然と共生するライフスタイルという観点からも注目されているからです。


 今、ビジネスパーソンが発酵を知るべき理由は、大きく次の3つといえます。

 1つは、日本の発酵技術には多くのビジネスチャンスがあるからです。

 詳細は本書の中でお話ししますが、最新の食(フード)と技術(テクノロジー)を掛け合わせたフードテックと呼ばれる分野において、新しい食料生産や消費のあり方、食料と環境の両立、食に関わる様々な社会問題の解決のため、日本が培ってきた発酵技術が役に立つと考えられています。発酵について知り、その技術を活用することは、これから世界中でますます求められるでしょう。

 また、観光産業においても、世界各地で発酵食品を活かしたレストランが数多く生まれています。

 このように、発酵ビジネスは近年急成長を遂げています。


 2つめは、発酵を理解することで、日本文化をより深く語ることができるからです。

 2013年、「和食」がユネスコの世界文化遺産に登録されました。この和食を支えるのが、味噌、醤油、酢、みりんなどの調味料の他、清酒や焼酎などの発酵食品です。

 また、2023年には文化庁が食文化推進本部を設置し、日本食文化の魅力発信に力を入れて始めました。

 これからはビジネスの様々な場で、海外の方から和食について、より深い質問をされる機会が増えることでしょう。そのとき、「和食」を支える発酵について文化的背景から知っておくことは、海外に日本の魅力を発信する際の大きな力となります。

 今、海外の方は和食の美味しさはもちろん、健康への効果や、文化的な背景にも高い興味を寄せています。

 日本の文化を様々な角度から話す手助けになるテーマが、「発酵」なのです。


 3つめは、発酵は、自然科学、社会科学、人文(科学)など、様々な分野の「教養」への入口となるからです。

 「教養」は英語では「culture」ですが、「リベラルアーツ」とも言います。

 外資系コンサルタントの経歴を持つ著述家の山口周氏は、著書『自由になるための技術 リベラルアーツ』(講談社)の中で、「リベラルアーツは私たちを取り囲む常識の正体を見抜く感度を養ってくれるもの」とし、「経営リーダーにとって重要な判断の縁を養う」ものと話しています。

 私は「発酵」は、教養を学ぶことに直結している、すなわち、モノの見方や判断力を養うきっかけになるテーマだと考えています。

 なぜなら、発酵を通じて、多くの学問分野の教養を身につけることができるからです。

 「発酵食品が製造されるメカニズムや製造技術」や「発酵食品に関わる微生物の働きや動き」であれば「農学」「生物学」ですし、「発酵が培ってきた日本文化」であれば「史学」、「発酵が培ってきた地域の人との関わり」であれば「社会学」、「発酵という産業の成り立ちを通した地域のまちづくり」であれば「地域学」、「発酵食品を日常の食生活に取り入れた料理」であれば「家政学」、「発酵食品と健康」であれば、「保健学」の分野になります。

 一口に「発酵」と言っても、多くの学問分野が絡み合っており、だからこそ発酵というレンズを通じて、様々な学問分野の「教養」を身につけることができます。

 「発酵こそ、教養を学ぶ最短経路である」と言えるでしょう。


 このように、発酵について知り、話せるようになることは、発酵業界だけでなく様々な分野のビジネスシーンで役に立つはずです。また、日本について話せることが増えることも、大きな武器の1つになるでしょう。

 私は、「種麹」を代々製造・販売してきた糀屋三左衛門の第29代当主を務めています。

 味噌、醤油、清酒、焼酎、味醂(みりん)、酢など、麹を用いる醸造メーカーの9割以上は、当社のような種麹メーカーから麹菌を購入して商品を製造しており、当社も現在では、全国3000社以上に種麹を販売しています。
当主になる前は、大学で微生物のコンピューターシミュレーションを学んだ後、アメリカでMBAを取得し、大学院にて修士号をとりました。「経済学」「環境情報学」「芸術学」などから「発酵」「麹」を見直し、その無限の可能性に改めて気づき、今では、最先端の研究機関の研究者の方や、文化産業に携わる政府の方、ガストロノミーレストランのトップシェフ、家庭で発酵料理を振る舞いたい人々まで、様々な人と出会い、発酵の可能性を広げています。

 その経験をもとに、発酵の歴史から最先端の技術から文化的な話まで、本書では様々な視点から発酵を取り上げています。

 日本の食の根底に関わる麹菌を生産する仕事に携わる幸せと責任を感じるとともに、より一層、発酵の魅力を多くの方々に知っていただくことが私の願いです。

 この本が、少しでも皆さまの人生のお役に立てれば、大変嬉しく思います。


最後までご覧いただきありがとうございました。 私のプロフィールについては、詳しくはこちらをご覧ください。 https://note.com/ymurai_koji/n/nc5a926632683