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読書メモ『彼女の体とその他の断片』カルメン・マリア・マチャド著

『彼女の体とその他の断片』(原題:Her Body And Other Parties)
カルメン・マリア・マチャド 著
小澤英実 小澤身和子 岸本佐知子 松田青子 訳
エトセトラブックス 2020年

「こんな小説が読みたかった!」 思わず心で叫んだ短編集でした。

奇抜とも奇妙ともいえる独特の設定に一瞬でとらえられ、切なさとユーモアのにじむ美しい文章と巧みな構成で最後まで連れていかれます。すでに存在する物語を下敷きにした作品もいくつかあるそうですが、完全に作者の味にしてしまっているところにも感じ入りました。

ときにグロテスクでこわくもあるのは、心のクレバスから奥底をのぞきこむからなのでしょうか。自分が大切にしているものをひとに明け渡す瞬間、すべてが死に向かうなかで連ねられた性(生)のエピソードの鮮やかさ、この世界での自分自身の「かたち」を求めてやまない姿など、興味深く読みました。

「クィア文学」としても、書く行為そのものが政治的な試みであることが伝わってきます。わたし自身は学生時代に高度生殖医療を研究テーマにしていたことから、「わたし」や「からだ」、「性/生殖」「語り」の領域に関心を寄せるようになったのですが、本作を読んで「小説はこんなふうに人の心に切なく刺さる形で、やわらかく世界を広げていくことができるのだな」と、ため息をついてしまいました。

翻訳者の方々の顔ぶれもとても贅沢な一冊!

いつもつい「(誰かにとって)正しい/適切な服」を着ようとしてしまいがちなのですが、そこが変わると、自分が書く作品も変わってくるのかもしれません。


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読書メモです。英語の勉強を兼ねて、対訳があるものを中心に楽しんでいます。よろしければ、こちらもぜひ。


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