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攻殻機動隊の原点「機動警察パトレイバー」

ちょっと古いアニメになるが、今回は「パトレイバー」について少し書きたい。
「パトレイバー」といえば少年サンデーに連載されてたゆうきまさみの漫画がある為、それを原作としたアニメだと誤解してる人も多いだろう。
それは、少し違うんだ。
この作品の原作者は「ヘッドギア」というグループで、その中には漫画家のゆうきまさみの他、デザイナーの出渕裕(メカ)と高田明美(キャラ)、
脚本家の伊藤和典、そして監督の押井守がいたわけね。
この5人の合議で「パトレイバー」は作られたらしいんだが、グループの中でも特に押井さんの発言力が強かったらしく、実質的には押井さんの作品だといってもいいだろう。
当時の彼は「うる星やつら」で好き勝手にやりすぎて高橋留美子にブチ切れられてしまい、業界からホサれてた境遇だったっぽい。
作家性の強い彼は「パトレイバー」でも当然やりたい放題だったんだけど、ここでは彼自身が原作者の権利を保有してる為、何の気兼ねもなく伸び伸びとやれた感じだね。

「パトレイバー」は1988年に漫画とアニメOVAが同時に発表され、その翌年に劇場版が公開、そしてその3ヵ月後にテレビアニメを開始したという流れである。
メディアミックス、怒涛のラッシュだね。
80年代は「ガンダム」でリアルロボット人気に火が点いた時代なんだが、そのリアル追求の究極形は間違いなく「パトレイバー」だろう。
どのぐらいリアルかというと、レイバーが土木作業機械の発展形として誕生したという設定自体もそうだし、そのレイバーの整備をする工員たちの悲哀とか、もうリアルすぎて笑えるほどである。
そして何より、警察組織の描写がまたリアルなんだ。
普通、警察を舞台にする物語なら刑事部を描くものだろうに、ここではそれまでスポットの当たらなかった警備部の活躍を描いている。
そして特にクローズアップされたのが、いかに警察官が官僚であるかを痛感させられる、縦割り組織の縄張り争い。
このへんの弊害を広く世に知らしめたのは90年代の「踊る大捜査線」なんだろうが、実はそれよりずっと早く「パトレイバー」がそこにメスを入れてたんだよね。
聞けば、「踊る」の本広克行は「パトレイバー」から影響を受けたことをちゃんと公言してるらしいじゃん。

「レインボーブリッジを封鎖できません!」と言った「踊る」に対し、
「パトレイバー」ではベイブリッジを爆撃して破壊してしまった・・(笑)

押井さんがここで描いたものの発展形が、後の「攻殻機動隊」だろう。
両作品とも対テロ組織を描いてるものだから似てくるのは当然ともいえるが、特に「パトレイバー」劇場版2作目とか、雰囲気からしてめっちゃ「STAND ALONE COMPLEX」に似てる。
個人的には、これが「パトレイバー」シリーズの中の最高傑作にして、最も押井色が強いものだと思う。
実はこのシリーズ、色々な制作会社が手掛けてるのよ。

・OVA(1988年制作)⇒スタジオディーン
・劇場版1作目(1989年制作)⇒スタジオディーン
・テレビアニメ版(1989年制作)⇒サンライズ
・新OVA(1990年制作)⇒サンライズ
・劇場版2作目(1993年制作)⇒Production I.G
・劇場版3作目(2002年制作)⇒マッドハウス

劇場版2作目が抜きん出ていいと思ったら、やっぱりProduction I.Gだったんだね。
この押井守+Production I.Gのタッグは後に「攻殻」を生むことになったわけで、まぁそれも納得である。
この1993年当時はまだテロというものに現実感がなかったものの、この2年後には地下鉄サリン事件が起き、そして8年後には9.11テロが起きてるわけで、ある意味「パトレイバー」は時代を先読みしてたということだろう。
だから今の時代に見た方が、かえってリアリティを感じるかも。
ちなみに、「攻殻」公安9課はエキスパート揃いのプロフェッショナル集団だが、「パトレイバー」の特車2課第2小隊は基本ポンコツ揃いである。
とはいえ、皆ひとつぐらいは取柄があるので、それを隊長が采配して事件を解決に導くという「このすば」方式。
公安9課のカッコよさに酔いしれたいか、第2小隊のダメっぷりで笑いたいか、そこは個人の好みにせよ、どっちもやってることは基本的に同じさ。

押井さんも「パトレイバー」には思い入れがあるのか、2014年に続編「THE NEXT GENERATION」という実写版を監督している。
なぜか、アニメ版でシゲさん役の声優だった千葉繁が、この実写版では自らシゲさん役を演じてるという謎のキャスティング。

左がシバシゲオ、右が千葉繁
もともとシゲさんは千葉繁がモデルだったんじゃないだろうか?

どうやら「THE NEXT GENERATION」はアニメ版のずっと後という時代設定らしく、ここには後藤隊長も泉野明も篠原遊馬も出てこない。
シゲさんのモノローグによると、あの第2小隊メンバーは全員警察を辞めたようだ。
どうやら、野明と遊馬は篠原重工に入って今でもコンビを組んでるらしく、既に結婚してるっぽい。
あと、進士はソフトウェア会社を始めて成功してるみたい。
太田は、なぜか暴力事件を起こして収監中(笑)。
そして、後藤隊長は警備会社を立ち上げるもすぐに倒産し、今は消息不明とのこと。
あの人のことだから、どこでも生きていけるだろうけど・・。

コメディ色の強いテレビ版・OVA版は若い野明と遊馬が主人公なのに対し、
シリアス色の強い劇場版は後藤隊長が主人公となるという切り替えがあった

割と古い作品だから若い人たちの中には「パトレイバー」を見たことないという人もいると思うけど、できることなら劇場版の1作目と2作目だけでも見ておいてほしい(3作目は個人的にいまいち・・)。
これは「攻殻機動隊」の原点であり、また同時に「PSYCHO-PASS」の原点でもあるんだから。
テレビアニメ版・OVA版はコメディ回と対テロ回の温度差が激しいんだが、「攻殻」「PSYCHO-PASS」が好きな人は対テロ回だけピックアップして見るスタンスでも全然構わんぞ。
超オススメです。

特にアニメ史に残る名作とされるのが劇場版2作目
この作品のヒロインは野明ではなく、第1小隊の南雲隊長である


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