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言葉の宝箱 0505【明日からなんて言ってる限り、実現できないっていうけど】

『ゾーン 豊洲署生活安全課岩倉梓』福田和代(角川春樹事務所2012/8/8)


日本全体が少子化で人口減に悩まされる中、東京都江東区豊洲は空前の人口増と再開発に沸き立っている。新たに設置された豊洲署生活安全課の女性刑事・岩倉梓のもとに持ち込まれる事件の数々。“児童ネグレクト” “貧困老人の孤独死” “震災詐欺”。生まれつつある街の中で、梓は自分に出来る仕事を、
悩みながらも一歩一歩模索していく新世代警察小説。
『橋の向こうのかぐや』『樹下のひとり法師』『ハーメルンの母たち』
『鏡の中のラプンツェル』『路傍のハムレット』5話連作短編集。


・しょせん、なるようにしかならない P33

・別の場所に行っても、結局は同じことだと自分は思います(略)
休みの日に出かけると、妙な光景を見かけることがあるんですよ。
十代、二十代の人たちが集まって、みんな自分の携帯を見つめている。
彼らは明らかに友達同士で、せっかく集まっているのに
目の前にいる友達とは話をせずに、携帯でメールを打っているんです(略)関わろうとしないんです P42

・あの子たちを救えたとは言わず、
あの子たちの命を救えたと八坂が口にしたことに、梓は気づいた。
――救えたのは命だけ。
これから彼らを待つ現実の過酷さや、もう少し彼らが大人になり、
事実を知った時に受ける衝撃から救うことはできない P48

・なんだか不思議な気がします。
人間ってのはネットであれほど見知らぬ他人の心配ができるのに P75

・自分でそうすれば良かったのだ。
帰りたい、帰りたいと呟くばかりで、
勇気を奮い起こしてどこかに行こうともしなかった P76

・新しい環境に飛び込んで行くのに抵抗を覚えない若さは、
歳月を共にした景色を離れることに憂愁を感じないのかもしれない P83

・本当は、死ぬのに理由など必要ないのかもしれない。ただ心が疲れた。
もういいかと思ってしまった。
――その程度のことで、魔がさすこともあるのかもしれない。
生き延びて、後から考えれば、なぜそんなことで死のうなどと考えたのか、自分で不思議に思うようなことでも、人は死ぬのかもしれない。
人を命の根っこにつなぎとめる力が、
近ごろ弱くなっているような気がする P121

・人を慰める言葉というのは、どうしてこんなに難しいんだろか。
慰めるつもりでかけた言葉が、
鋭利な刃物のように相手の心をえぐる可能性もある P137

・『私なんか』って言ったけど、あんな言葉を使わないほうがいいと思う。謙譲は日本人の美徳かもしれないけど、
自分で自分を縮めるような言葉を使っても、
いいことなんかひとつもない P207

・明日からなんて言ってる限り、実現できないっていうけど P286

・迷ったり、悩んだりしている暇は、今はない。
目の前にある仕事を、自分なりの力で精いっぱいやりとげる。
ただそれだけだ P287

・――助けてくれ、か(略)
「言ってもいいのよ、誰にでも(略)
自分の力で、必死になって頑張ることは必要だと思うし、
そうやって乗り越えられる壁もある。
だけど、どんなに頑張っても、
ひとりの力では乗り越えられない壁だってある。
そんな時には周囲に助けをもらっていいはずよ(略)
助けてと言っても、背中を向ける人もいるかもしれない。
ひょっとすると、そんな人のほうが多いかもしれない。
だけど、あきらめちゃダメ。
どこかにきっと、意外なところから手を差し伸べてくれる人がいるから。
恥ずかしいことは何もないの。みんな必ずどこかで通る道なんだから。
私も、あなたも」 P350

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