見出し画像

言葉の宝箱 0390【人間は不愉快な記憶は忘れてしまおうとする。しかし、記憶のほうはしっかりと脳細胞に刻み込まれているから、ひょっとしたはずみで意識の上に飛び出してくる。いやな思い出――とくに恥ずかしい記憶が蘇ったりすると、鬱々とした気分で、ほんとうに死にたくなるほどだ。自殺願望とは、そういう気分のことをいうのかもしれない。ところが、そのわりには、他人に与えた不愉快については、案外、本人は気づいてもいないし、当然、記憶もしていない】

『黄金の石橋』内田康夫(JOY NOVELS 2001/1/25)

テレビドラマで浅見光彦役を演じる俳優絵樹卓夫が軽井沢のセンセに相談を持ち掛けた。鹿児島に住む絵樹の母親が金の石橋の古文書を渡せと謎の男に電話で脅迫され、浅見光彦による解決を願っている。折しも「旅と歴史」の藤田編集長から南九州の石橋の取材と女子大生緩鹿智美の素行調査を頼まれた浅見はセンセの要請も併せて引き受けることにした。
鹿児島を訪ねた直後、智美の交際相手の父親が殺された。
金の石橋と恐喝と殺人、三つの絡み合った謎に挑む。

・人間は不愉快な記憶は忘れてしまおうとする(略)
しかし、記憶のほうはしっかりと脳細胞に刻み込まれているから、
ひょっとしたはずみで意識の上に飛び出してくる。
いやな思い出――とくに恥ずかしい記憶が蘇ったりすると、
鬱々とした気分で、ほんとうに死にたくなるほどだ。
自殺願望とは、そういう気分のことをいうのかもしれない。
ところが、そのわりには、他人に与えた不愉快については、
案外、本人は気づいてもいないし、当然、記憶もしていない P106

・時間がいつか、
すべてを忘れさせるにしても、真実は明らかにしなければならない(略)
死んでしまった人たちが何も言わない以上、
それは生き残った者の義務だと思う P185

この記事が参加している募集

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?