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【年齢のうた】爆風スランプ●哀愁あふれる「45歳の地図」とその続き

13日の火曜日、DOMMUNEに出演してきました。
ご覧いただいたみなさん、ありがとうございました。

よシまるシンさん、ああいう作風で、ああいうキャラなのか……内側というか、脳内に抱えるものが大きそうな人である。物腰は柔らかい、けど、ヤバい。
DOMMUNEに出たのも宇川直宏さんと話したのも初めてでした。スタッフのみなさんにもお世話になりまして、感謝しております!

それから、加藤和彦のドキュメンタリー映画の試写会に参加してきました。最近、人間って育ちとか環境ってものすごく大きいものなのだなぁと(←当然ですけど)考えることが多いのですが、彼は豊かな環境で育たれて、その上で鋭敏な感性と破格の才能との融合で、その果実を次々に実らせていった方だったのだなと再認識した次第です。


さて、今回は爆風スランプです。
曲は、「45歳の地図」。

中年の悲しみを叫んだ「45歳の地図~COME BACK青春!~」


僕は10代の頃に爆風スランプが好きで、ライヴにも何度か通ったものである。骨太でありながらシュールなサウンドには洋楽ロックの幹があり、そこにサンプラザ中野(当時)の知的かつ斜め上からの視線を持つ言葉が融合した、画期的なバンド。パンク/ニューウェイヴが根付いた時代においてでも、彼らの音楽の批評性は卓越していた。

ただ、90年代に入ってからの自分は爆風を追うことが減り、彼らも活動を休止することになったりした。そんな経緯もあり、この仕事を始めてからもずっと縁がなかったのだが、3年前に、中野に初めてインタビューをする機会が訪れた。その取材の時に、メジャーデビューの頃に梅田のバーボンハウスでハチャメチャなライヴをするあなたたちを観ましたよ、なんて話をしたら、めちゃめちゃウケてくれた。現在ではサンプラザ中野くん、なのだが。

雑誌『昭和40年男』で
インタビューしました。
中野さん、その節は
どうもありがとうございました

そんな長いキャリアを持つ彼を思うと、今回取り上げる「45歳の地図」はかなり初期の作品になる。

まずこの曲、タイトルは一目瞭然、尾崎豊の「十七歳の地図」のパロディである。
爆風の「45歳の地図」が入ったアルバム『I.B.W』のリリースが1989年の11月。尾崎のデビューアルバムの発表はその6年前だ。

もっともパロディとはいえ、それはタイトルを変えているだけで、尾崎のことは何もいじられていないし、皮肉も悪意のようなものも皆無。年齢の表記も漢数字が英数字になっているし、そもそも尾崎の作品の題名だって中上健次の作品『十九歳の地図』が影響元にある。


ただ、80年代から90年代にかけて、尾崎がひとつの象徴のような存在ではあったのはたしかだ。たとえばまっすぐなこと、理想めいたことを言うと「お前は尾崎豊か!」とツッコまれるような。その意味で、この爆風の曲のタイトルにはクスッとしてしまう感覚があった。

それから爆風も尾崎もレーベルとしてはCBS・ソニーの所属だったが、尾崎のほうはこの時期はちょうどソニーから離れている(翌1990年に復帰するが)。

さて、本題。爆風のこの「45歳の地図~COME BACK青春!~」は、サラリーマンの悲哀を描写した歌だ。仕事人間で生きてきた45歳の男が自分のこれまでと今置かれている立場を嘆き、青春を返せ!と叫んでいる。

この曲を出した頃の中野は、実際には29歳。だから実体験ではなく、あくまで彼の目線による、中年のサラリーマンを題材にした曲である。この後に取り沙汰されるようになった言葉だが、ミッドライフクライシス、「中高年の危機」を先取りしている感もある。

元ファンとしてひとつ思うのは、爆風にしてはずいぶんストレートな表現だな、ということ。優れた曲ではあるのだが、初期の彼らの姿勢を思うと、ポップな曲調も、この青春を返せという歌詞も、あまりにそのまんまだ。爆風にしてはちょっと角が削ってある。そんな印象さえ受ける。

しかし、よくよく考えてみれば……まだ若いバンドで、若いファンが多いのに、あえて中年の心理を唄っている、ということは重要だ。そんなの、絶対に普通のロック・バンドがするようなことじゃない。やはり爆風は型破りなのだ。

ただ、彼らはこの時期、すでにメジャーバンドの仲間入りをしていた。「Runner」「大きな玉ねぎの下で」はヒット済で、テレビの歌番組への出演も、日本武道館のような大会場でのコンサートも経験していた。そう思うと、そうやって付いてきたファン層まで相手にするには、このぐらいわかりやすい曲のほうがいいと判断したのではないかと思う。

リアル年齢路線に転換したリストラバージョン、そして還暦バージョン


爆風はこの後、90年代に入っても作品を出し、活動を継続していたが、1999年にはその動きを休止するに至っている。

そして、以後の彼らは時おりメンバーが集まって活動をしたりしていたのだが……2005年に、なんとこの「45歳の地図」の次なるバージョンをリリースした。
これは中野が本当に45歳になったことに起因しており、タイトルは「45歳の地図~リストラバージョン~」とされていた。彼のリアル年齢の曲になったのである。

今度は青春ではなく、仕事を返せ!と唄っている。なるほど、それでリストラバージョン……こういうブラックユーモアこそ、中野らしい。オリジナルの発表から16年も経ってからのこの流れにこそ、爆風というバンドの特異なあり方を感じる。

しかも、そこからさらに15年が経過した2020年。サンプラザ中野くん名義の『感謝還暦』というアルバムに、今度は同曲の還暦バージョンが収録された。もはや完全に中野のリアル年齢の曲としての連作である。

今度は、まだバリバリやらせろ!と唄っている。70歳、80歳、100歳超え……! そして息子はフリーターで三十路という設定に。

この歌詞が自虐のようでありながら、それでいて前向きにしているところもあって、そこも中野らしいと言えば、らしいと感じる。高齢者になっていく自分自身を鼓舞してもいるのだ。

それにしても爆風というか、中野。彼はこれまでにも過去の人気曲をたびたびバージョンを変えて出すことをしてきており、この曲もそのひとつになっているわけだ。そしてこれを芸風にしたまま現在に至っているのが、すごい。
というか、ここまで活動を長く続けていると、スタイルのひとつひとつはすべて芸風になっていくということなのだろう。その意味でサヴァイヴしてきたベテランはしぶとく、たくましいと思う。

観点を【年齢のうた】的な方角に変えると、若い世代の年齢を唄った歌は世の中に数多いが、中年から上の世代を描いた曲は少ない。しかもそのネタをこうまで引っ張るケースは珍しい。そういう意味でもエポックな曲と言える部分はある。中野自身のリアル感の高まりとともに。

中野には、ぜひ70歳になっても、そして100歳になっても、「45歳の地図」を新バージョンで出し続けてほしいものである。


バレンタインに妻子からもらいました。
感謝しつつ、食べます

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