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アリのちょうじょう【フォトギャラリー短編】

アリのタロウは、今日も行列の真ん中を歩いていた。
昨日も行列の真ん中を歩いていた。
その前の日も行列の真ん中を歩いていた。
もう思い返せない昔の日々も行列の真ん中を歩いていた。

そして、虫の死骸や花びらを見つけると、せっせと運ぶのだ。
仲間と同じように運ぶのだ。

それが、アリのタロウの仕事だった。
それが、アリのタロウの生き方だった。

そのネコに会うまでは。

そのネコは、枝を1本持って、ひょいと、タロウをすくい上げた。
ねらってしたものではなかったのかもしれない。
何気なく、振っただけだったのかもしれない。

しかし、ネコに振られた枝は、確実にタロウをすくい上げた。

「あっ。」タロウは、枝にしがみついた。そして、枝を振ったネコよりも高くすくい上げられた。
「高いーーー。」タロウは目がくらんだ。今まで地面を這って歩いていたのだ。せいぜい石か岩の高さが、タロウが知る精いっぱいの高さだった。

しばらくタロウは枝にしがみついていたが、だんだん慣れてきた。
「もう少し上まで行けるぞ」タロウは枝の真ん中あたりにいる。
勇気を出して、登ってみた。振り落とされないように、ゆうくりと。

ネコはタロウを気にすることなく、ただ枝を持っていた。振り払う様子もなかった。

タロウは、ネコが枝を振り回さないことを祈りながら、上へ、上へと登って行った。

「ちょうじょう」に着いた。

枝の最先端に、タロウは立ったのだ。

風がタロウの横を吹き抜けていく。気を緩めると飛ばされそうだ。
タロウは、自分が空の真ん中にいることに気が付いた。
手足は枝をつかんでいるけれど、自分は空の中にいる。そんな感覚だった。
下を見ると、足がすくんでしまう高さだけれど、上を見ると、雲が近く感じられた。風が近く感じられた。太陽が近く感じられた。自分は空の一部になったのだ。

ネコは、しばらくすると、枝を地面に捨てていった。タロウのことには気づかなかった。

タロウは、あの高さを、もう一度思い出してみた。

そして、ゆっくりと周りを見渡した。

「あの樹に、自分の力で登ってみよう」
一番高い樹を見つけたタロウは、力強くそう言った。


(お礼)syudynoteさん、素敵なイラストをありがとうございました。アリのタロウの気持ちになって書いてみました。

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