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君に教わったこと

君により 思ひならひぬ 世の中の
ひとはこれをや 恋といふらむ               在原業平

ーーーー人を好きになるってどういう気持ちなのか、恋に落ちて初めてわかる。君という存在が教えてくれた。みんなが言っている恋とはこういうことなんだと。
実際に恋をしてみなければその気持ちはわからない。その気持ちを自分で感じてみないとその暖かさや多幸感、寂しさや苦しさはわからない。それを教えてくれるのは、他ならないあなたが恋しているその人です。ーーー


小学生の頃はクラスが変わる度に好きな子がいて、でも結局想いなど告げられずただ遠くから眺めて憧れていた。見た目だったりちょっとした言葉だったり仕草だったり、何かしら自分の心に好ましく響くものがあったから好きという想いが芽生えて、学校に行くたびに視線の端で追いかけながら存在を感じていた。クラスでの佇まいとか国語の時間の朗読だとか給食当番の姿とか。それらが僕の幼い恋の記憶になっている。

けれども年齢を重ねるにつれて、好きに至るみちのりはだんだんと変化していった。ゆっくりと時間をかけて、人となりを少しずつ知るうちに、いつしかその人の方に傾いていく自分の気持ちこそが恋心なのだと気付くようになった。

それは暗がりの中灯される小さなランプの光のように心にほのかな温もりを与えるけれど、同時に想いの全ては伝わらないというもどかしさを強く感じるその始まりでもあった。どんなに言葉を尽くしても、どんなに態度で示しても、心を割ってその中を見せることはできないから、全てが間違いなく伝わるわけではない。だから言葉では伝わりきらない部分は身体で伝え合うようになるのだけど、その行為によってより深い愛情を交わすことができる一方で、次第に行為そのものが目的になってしまうこともあって、想いの伝達というよりは、なんとなく互いの性欲を満たすことでごまかしているのではないかという気さえしてくる時もある。

恋とは如何にも複雑で難しいもの。
それは君に教わったことだ。




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