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トリコ


久しぶりに泳いだ。

やっぱり水の中は
私にとっての安全地帯だ。

ゆるくぬるくまとわりついてくる水は
私を拒まない。
初めは苦しい呼吸もあるところを境に
ふっと軽くなる。
どこまでも、どこまでもいけるような
幻想をみせてくれる。

泳いだ後は
銭湯に限る。

銭湯はより深く温かく
私を迎え入れてくれる。

ただ、今日は
驚かされた。

先客が本を読んでいる。

たしかに、
自宅の湯船に本を持ち込むことはある。

でもここは、
公衆浴場だ。
テルマエロマエだったら
私の代わりに
阿部寛さんが倒れているだろう。

だからどうしても気になった。
この人をこんなに虜にする
作家さんは誰なのか。

温かい場所を探しているふりをして
近づく。
危険を察知して
先客はじりじり遠のく。

湯気が私たちの動きにあわせて
ゆらゆら遊んでいる。

「ラプラスの魔女」

見えた。
ラプラスの魔女!
東野圭吾さん!!!

すごい。
すごすぎる東野さん。

「あなたの書いた本は
銭湯に持ち込むくらい
人を惹きつけてます。
人を狂わせています。」

そう、伝えたいくらいに
興奮した。


プールへ行く前、
海に行った。

紅茶を片手に本を読んだ。
車の暖房をつけて
少し窓をあけると
波の音と風、潮の匂いがちょうど良い。

「西の魔女が死んだ」


久しぶりに読みたくなって
引っ張り出してきた。

今日は魔女と水に縁がある。

明日の朝は
ことこと煮込んだジャムを
パンに乗せて食べよう。

いつか誰かの日常に寄り添えるように。

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