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舞台 「もうがまんできない」 観劇レビュー 2023/04/29


写真引用元:大人計画 公式Twitter


公演タイトル:「もうがまんできない」
劇場:本多劇場
劇団・企画:大人計画
作・演出:宮藤官九郎
出演:阿部サダヲ、仲野太賀、永山絢斗、皆川猿時、荒川良々、宮崎吐夢、平岩紙、少路勇介、中井千聖、宮藤官九郎
公演期間:4/14〜5/14(東京)、5/18〜5/31(大阪)
上演時間:約2時間5分(途中休憩なし)
作品キーワード:ドタバタコメディ、笑える、お笑い芸人
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


劇団「大人計画」に所属する宮藤官九郎さんが、「今やりたいこと」をストレートにするシリーズである「ウーマンリブ」のvol.15を観劇。
私自身、ウーマンリブの舞台作品を観ることが初めてであることに加え、宮藤官九郎さんが作演出された舞台作品の観劇も、大人計画の舞台作品を観劇することも初めてとなる。
今作は、2020年4月に予定されていたウーマンリブvol.14『もうがまんできない』の再演となるが、その公演は新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の発令で、無観客配信のみされた作品となっている。
そのため、観客を入れての舞台公演で本演目を上演することは今回が初めてとなる。
なお、vol.14で配信された内容と今作の内容も、コロナ禍を挟んで脚本にも加筆変更がなされたようである。

ステージ上には、下手側に「SAUNA」と書かれた看板のかかったサウナ用施設の屋上があり、その上の5階には劇場がある雑居ビルのような建物がある。
一方で、上手側には高級マンションが建っていて、そこには木下(宮藤官九郎)という会社の上司が暮らしている。
物語は、この一見対称的なビルディングの屋上とベランダで巻き起こるコメディである。
雑居ビルの屋上で、沢井理(仲野太賀)と隅田太陽(永山絢斗)はお笑いコンビを組んでおり、高校野球の野球部員と監督というポジションでネタ合わせしていた。
しかし、訳合って二人はお笑いコンビを解散することになる。
一方で、高級マンションのベランダでは、西権造(阿部サダヲ)と同僚の羽生秀太郎(宮崎吐夢)が社長である木下の誕生日を祝ってケーキを用意していたが、お互いがゲイのようにベランダでこそこそイチャつきあう。
しかし、西権は結婚しているにも関わらず会社の上司である木下の妻のちづ子(平岩紙)と不倫をしており、木下にバレたらまずいとヒヤヒヤしていた。
そんな彼らは、雑居ビルの屋上のお笑いコンビ2人やデリヘル嬢やそのデリヘル店長が登場して、他愛もないドタバタコメディを繰り返すというもの。

今年30歳になる筆者だが、私が小学生や中学生の頃は、民放テレビで「バカ殿様」や「笑う犬の冒険」「はねるのトびら」のようなお笑い芸人たちが体を張ってドタバタコメディを繰り広げ、お茶の間の笑いを取っていた印象である。
しかし、最近はテレビをあまり観ていないのだが、そういった体を張ったコメディというのがテレビで放送されにくくなった印象を感じている。
漫才やコントでも、相方の頭を引っ叩いたりする人はいなくなったし、上半身裸になって熱湯風呂に入るみたいなコメディは逆に今の御時世テレビで放送されるとひんしゅくを買うような時代になってきている。

そんな時代に逆行するかのように、今作では神田崎ふみお役を演じる皆川猿時さんがほぼ全裸の状態で舞台に登場したり、知的障害の持つ典子という女性を演じる中井千聖さんの頭をひっぱたくようなシチュエーションが見られて、個人的には最初はかなり度肝を抜かされた。
時代的にNGでは?と思われるようなネタやコメディが連発したので、前半は若干引いてしまっている自分がいた。

しかし、客席の笑いも舞台を構成する一つと言っても良いくらい笑いで盛り上がっていて、後半に差し掛かると私自身もそういった観客の波に飲み込まれて、演劇なら今のテレビで出来ないことをやっても問題ないかと思い始め、徐々に楽しむことが出来た。
こうやって、時代的にテレビでは出来なくなり始めていることを、敢えて舞台で表現するという手法も一つアリなんだなと痛感させられた。

「ダウ90000」や「東京03」、演劇でいったら「ヨーロッパ企画」のようなコメディとはまた違って、テレビでかつて放送されていたドタバタコメディに近いので、コメディ演劇が好きでもハマれない方は沢山いるかもしれない。
しかし、「ダチョウ倶楽部」とか「ドリフターズ」など昭和から平成のテレビ放送されていたコメディが好きな方には、劇場でこの笑いの渦を堪能してみて欲しいと思った。

写真引用元:ステージナタリー ウーマンリブ vol.15「もうがまんできない」より。(撮影:田中亜紀)


【鑑賞動機】

宮藤官九郎さんが作演出される舞台作品は観たことがなかったので、観てみたいと思っていた。というか、2020年春の段階で『もうがまんできない』を観に行こうと思って公演中止を喰らっている自分なので、今回の上演はあのとき叶わなかった願いがようやく叶ったと思って嬉しかった。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

「SAUNA」と書かれた看板が掛かる雑居ビルの屋上、中から野球部員の格好をした隅田太陽(永山絢斗)と監督の格好をした沢井理(仲野太賀)がやってくる。どうやら隅田は9回裏のツーアウトからしくじってチームを敗退に導いてしまったらしい。
隅田はその痛恨のミスが絶えきれず、ビルの屋上から飛び降りようとしていた。それを必死で止めに掛かる沢井。沢井は隅田の飛び降りを慌てて止めるあまり、隅田に対して「好きだ!」と告白する。実はずっと隅田のことが好きだったんだと言う沢井、これからは一緒に生きようと。それにときめく隅田は飛び降りをやめて沢井に抱きつく。

一方、上手側の高級マンションのベランダには、西権造(阿部サダヲ)と羽生秀太郎(宮崎吐夢)が屋内から出てきた。二人はケーキの入った白い箱を抱えている。どうやらこの高級マンションは木下という西権と羽生の会社の上司の自宅らしく、二人はそんな上司の誕生日の祝いに来たようである。西権と羽生は会社の同僚同士のようである。
雑居ビルの方で沢井と隅田が男同士抱き合っている中、高級マンションにいる西権と羽生もお互いイチャイチャしている。お互いゲイだと言いながら。そして、西権は羽生の髪をぐしゃぐしゃといじってトランプ大統領とかやっている。

雑居ビルの方では、隅田と沢井がイチャイチャし合っている所に、神田崎ふみお(皆川猿時)がサウナ上がりに全裸で屋上にやってくる。神田崎は何も服を着ておらずすっぽんぽんの状態で、股をタオルで隠しながら、しかし尻は見えている状態で登場し、何かご機嫌で鼻歌を歌いながら屋上をウロウロし、そしてサウナチェアに座ってリラックスする。
その時、屋上にはもうひとり典子(中井千聖)がやってきた。彼女は「へぇ」という言葉を繰り返しながらポカンとベンチに座っている。そして、神田崎は何かずっと鼻歌を歌いながら屋上から履けていった。沢井と隅田はもちろん、高級マンションにいた西権も、その神田崎の言動に釘付けだった。

高級マンションのベランダで、西権は一人になっていたが、そこにちづ子(平岩紙)がやってくる。ちづ子は木下の妻であるが、西権の不倫相手でもある。ちづ子は西権とイチャイチャする。しかし、この様子を木下に見られてしまったら自分の信頼は一気に落ちてしまうと警戒する。そして、如何せん今日の木下の誕生日パーティに自分が呼ばれている訳ではなく、自宅にいるはずだと木下は思っているので、ここにいることを木下に見られてしまったらマズイという。
そんなことを言っていた西権だったが、ちづ子は心配しなくて大丈夫と、キスをしてくる。西権は焦る。

雑居ビルの方では、実は先ほど野球部員の隅田と監督の沢井が抱き合っていたが、実はそれは漫才のネタの練習をしていただけであり、実は隅田も沢井もお笑い芸人であった。しかし、今日を最後にこの二人のコンビは解散することになってしまう。
コンビ解散というシリアスな話をしているのに、典子は物凄いタイミングで「へぇ」という言葉を発してきて二人は彼女にキレる。
沢井は屋上から退出する。高級マンションでは、西権と羽生がスマホを使ってポケモンGOのようなAR的なゲームをして遊んでいる。ゴキブリーズというAR空間上に敵がいるみたいなのだが、そいつを倒そうとしている。雑居ビルからは隅田に加え、神田崎も参戦してきて一緒にスマホでそのゴキブリーズを倒そうとし、連携プレーを見せて見事倒すことになる。

そのARのようなゲームには、みちる(荒川良々)も最後参戦していた。みちるもお笑い芸人をやっており、先ほどの沢井と隅田のネタを見て非常に彼らのネタに憧れたのだと言う。
そこでみちるは、コンビを解散したばかりの隅田に、一緒にコンビを組んで欲しいと懇願する。隅田は同意する。
一方で、西権は木下に見つかったらどうしようとずっと心配していた。どうやら西権は、木下の奥さんとマッチングアプリで知り合ったらしい。最初は木下の奥さんだとは知らず、実際に会ってみたら自分の会社の上司の奥さんであることに気がついたのだそう。西権も結婚しているのにマッチングアプリを使って悪い奴だが、ちづ子の方も木下と結婚していながらマッチングアプリで出会いを探していたとは。

雑居ビルの屋上では、神田崎が典子との関係について打ち明ける。実は典子は神田崎の娘なのだと言う。典子は知的障害も持っているから「へぇ」しか言うことが出来ない。しかし、デリヘル店の店長をしている神田崎は、典子にデリヘル嬢をさせることで彼女にも仕事を与えているのだと言う。
典子は、肩車しているような着ぐるみを着てきて暴れる。そして神田崎に思いっきりぶたれる。
そこへサウナ上がりの沢井が戻ってくる。隅田がコンビ解散してから早速みちるとコンビを組んでいて驚く。まだ解散してから時間が経っていないというのに、隅田がコンビを他のお笑い芸人と再結成しているとは。
みちるは、隅田と沢井の野球のネタに憧れを持っていたため、先ほどコンビを組んだばかりであるにも関わらず、もう野球のネタを完コピできるようになっている上、役割を逆にしても完璧に披露できる所に沢井は驚愕する。

西権は、色々あって用意していたケーキを高級マンションのリビングに向かって投げてしまう。すると、木下(宮藤官九郎)に見事ケーキが的中して顔面に喰らってしまい、ベランダにやってくる。木下は丁度そのときVRゴーグルをしていたので、VRゴーグルにケーキを受けてしまって顔は無傷だった。
ベランダには羽生と西権がいたが、西権は木下に見つかってしまってはまずいとベランダの観葉植物の影になって隠れる。木下は羽生と会話をする。木下はずっとVRゴーグルをしているので現実世界が見えていない。その隙に、西権が羽生を捕まえて気絶させる。木下は会話の途中から羽生がいなくなってしまったことに気が付かず、ずっと喋り続けている。そしてだいぶ時間が経ってから、羽生からリアクションがないなと気づき始めていた。そして、VRゴーグルを取ると羽生が倒れているのに気がつく。羽生は意識を取り戻す。二人はサウナに行こうと、高級マンションを出ていく。

神田崎がドリアを食べたいと言う。西権が高級マンションからちづ子に渡されたドリアを届けようとする。そこで雑居ビルにいる人々は近くにはしごがあるのを発見して、はしごを雑居ビルと高級マンションの間にかける。このはしごを使って西権にドリアを届けるように言う。
西権は、背中に熱々のドリアを乗せてはしごで高級マンションから雑居ビルへ向かおうとする。しかし、そこへ雑居ビルの屋上に羽生と木下が現れる。西権は木下に見つかってしまう。西権は慌ててしまうが、背中に熱々のドリアを乗せている上、はしごの上である。木下になぜ、自分の自宅にやってきていたのかと問いただされる。西権は嘘を付くことも出来ず、ちづ子と不倫していたことを告げる。
そこへちづ子がやってくる。しかし木下はちづ子とは誰?という素振りをする。うちの妻はちづ子ではなく、ひかるというのだがと。そして今現れたちづ子だと思っていた人も、自分はひかるだと言いはる。西権は狐につままれた感覚に陥る。がしかし、木下の信頼を失うことはなかったのなら良かったと思う。そして、無事ドリアを雑居ビルに届けることに成功する。

音楽が流れ始め、ゴキブリーズを倒した場面を劇場で再現する。背景にはプロジェクションマッピングでゲームの画面が表示され、大量のゴキブリをキャラクター化したようなモンスターが登場する。
下手側からは、スーパーマリオに登場するテレサのような巨大な白いおばけが飛び出てくる。キャストたちは、音楽に合わせてダンスする。

雑居ビルには典子がいる。典子はビートたけしのモノマネをしている。浅草キッドの話を振ると、タップダンスなどを踊る。しかし、浅草キッドを歌えない所からするとやっぱり偽物なんだとバレてしまう。
みちると隅田が入ってくる。みちるは顔面血だらけだった。みちるは隅田に食いかかってくる。どうして、ネタの本番だというのにステージに上がってこなかったのだと。なんで自分一人にさせているんだと叱る。
隅田は、舞台袖で小梅太夫に話しかけられたからだと言う。そこから小梅太夫のモノマネをしたり、なぜか話が小梅太夫から小梅三太夫という人物の話になっていって、「毒蝮か!」と突っ込まれる。

いつの間にか典子が行方不明になっていることに気がつく。神田崎は慌てる。木下も自分のVRゴーグルが行方不明になったと言う。典子とVRゴーグルを探さないとと一同は思う。
そこへ救急車の音が聞こえてくる。神田崎は雑居ビルの屋上を後にする。
高級マンションにはちづ子だけがいて、こちらにやってこようとする。西権も雑居ビルの屋上に来てしまったので。まるでちづ子はスパイダーマンのようにビルの壁を這いつくばって高級マンションのベランダから雑居ビルの屋上にやってきた。
雑居ビルの5階の窓からシャーク(少路勇介)が現れて、何か叫んでいる。
みちるは結果的に隅田とはコンビが上手く行かず、みちると隅田のコンビは解散となる。そこへ、沢井が手を差し伸べる。もう一度「ずっとまってるズ」というコンビでやっていこうと。こうして、隅田と沢井はコンビを再結成する。

沢井と隅田はブルーのキラキラしたジャケットを着て、「ず〜とずっとずっとまってるズ」と言って漫才を始める。
UberEatsをする姥の話で、その姥は89歳だか、98歳になるのだそう。でもその姥はまだ母乳が出て、その母乳を全国に宅配しているのだそう。
今日は京都まで届けるというので、UberEatsで京都まで配達する。色々と沢井は突っ込むがネタが終わり、「ず〜とずっとずっとまってるズ」と言って上演は終了する。

脚本全体として、ゲイをネタに使ったり、知的障害者をネタに使ったりと、今の日本社会で公になったら色々NGでは?というネタもいくつかあった。私は、個人的にそういったネタがあまり受け入れられなかった。特に序盤の方では。
しかし、後半に差し掛かっていくことによって、そういったネタに対する抵抗は徐々になくなっていったように感じる。観客の方々が皆温かくて終始大笑いしている人も沢山いたので、そういった笑いの渦の効果で徐々にステージの雰囲気にも馴染めていった。やはり観客が入った方がこの類の演劇は盛り上がるものである。
ネタのノリとしては、「ドリフターズ」や「バカ殿様」「はねるのトびら」のような少し昔のお茶の間のドタバタコメディのノリなのだが、そこにARやUberEatsやVR、サウナといった今の時代の流行も取り込まれていて、なんだか妙な感覚だった。凄く目新しいし昔ながらの良さもあるようなそんな演劇だった。
ストーリーに関しては、色々やりたい放題だなと感じていたが、結局はコンビが解散して、他のお笑い芸人とやってみたけれど、結局うまく行かなくて、元のコンビで再結成して終わる話で、私はNETFLIX映画の『浅草キッド』やNETFLIXドラマの『火花』が凄く好きなので、そういったお笑い芸人のヒューマンドラマ的な面白さもあって良かった。個人的には、もっとドラマ的にやってくれた方が好みではあったが。
久々に昔子供の頃にテレビで見ていたドタバタコメディを観るのは良いものだなと痛感させられた。

写真引用元:ステージナタリー ウーマンリブ vol.15「もうがまんできない」より。(撮影:田中亜紀)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

場所は日本であるのだけれど、舞台美術全体の印象はどこかアメリカンで好きだった。また、テレビのドタバタコメディで登場しそうなセット(例えば「笑う犬の冒険」「はねるのトびら」「エンタの神様」に出てくるセット)にも雰囲気が近くで、どこか懐かしさを感じさせてくれるセットだった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは、舞台装置から。
下手には雑居ビルの屋上が、上手には高級マンションのベランダのセットが用意されている。下手側の雑居ビルには、一番下手に一つのドアノブ扉があり、そこから雑居ビルの屋内へ入れる。中にはサウナ施設があると思われ、その扉の上部に大きく「SAUNA」と書かれている看板がある。この「SAUNA」の看板がアメリカンで好きだった。その横にはアナログ時計が設置されていて、リアルタイムの時間と全く同じ時間を指していた。観客は、自分の腕時計を見なくても、この時計から劇中どのくらい時間が経ったのかすぐ分かるようになっている。屋上にはサウナチェアとベンチ、そして少しスペースがあってそこで沢井と隅田が野球部のネタを披露していた。屋上には柵も用意されていて、後方には巨大なはしごが用意されていた。中盤で西権が使う。
上手側の高級マンションは、下手側の雑居ビルよりもう少し高級感が漂う落ち着いた造りになっている。一番上手には、横に開閉出来るようなサッシが設置されていて、そこが木下のリビングに繋がっているようである。そのサッシにはカーテンもかかっていた。ベランダは広く、奥から手前まで伸びている。
雑居ビルと高級マンション以外でも、ステージ後方には別の建物の壁面が仕込まれていて、おそらく雑居ビルの5階と思われる箇所には窓も設置され、そこから少路勇介さん演じるシャークが顔を覗かせていた。
抽象的な舞台セットではなく、具体的に雑居ビル、サウナ、高級マンションと分かる舞台セットだったので、観劇慣れしていない方でもすぐ場所とかをイメージ出来るわかりやすい構成だった。

次に舞台照明について。
舞台照明は基本的に、一つの場面を描くことが多かったので、何か特殊な演出は「ゴキブリーズ」のシーン以外にはなかった模様。
逆に「ゴキブリーズ」のシーンでは、音楽劇、ミュージカル仕立てに豪華にカラフルに照明を駆使して印象に残った。
あとは、ラストの「ず〜とずっとずっとまってるズ」の漫才で、二人に白いスポットが当たる演出も良かった。NETFLIXドラマの『火花』を思い出した(ラストが漫才というだけで、全く設定もストーリーも異なるが)。

次に舞台音響について。
音楽は「ゴキブリーズ」のシーンのダンスの部分だけだったかなと思うが、なかなか楽しい楽曲で良かった。向井秀徳さんの音楽がウーマンリブの雰囲気と絶妙にハマっていた。
あとは、救急車の音だったり、スマホの「ゴキブリーズ」のゲーム音楽。あのリアリティがない感じの効果音が、またコメディらしさを醸し出していてハマっていた。

最後にその他演出について。
とにかく、「ドリフターズ」「笑う犬の冒険」「はねるのトびら」に出てくるような、体を張ったドタバタコメディが多かった印象だった。「玉田企画」や「ダウ90000」のようなウィットに富んだような知的な会話によって笑いを生み出すのではなく、ただただ誰が見ても分かるようなパフォーマンスによって笑いを取る感じが、ドタバタコメディだった。例えば、神田崎がサウナから上がってきて、ほぼ全裸の状態でステージに登場して笑いを取ったり、西権がはしごの上を危なっかしく渡りながらドリアを運んだり、はたまたケーキ(おそらく偽物)を木下にめがけて投げてパイ投げみたくなっていたり。民放テレビでやっていた大爆笑のネタを存分に詰め込んで演劇にしたみたいな感じを受けた。
あとは、ゲイだったり知的障害みたいなのをネタに入れてくるあたりは、かなり攻めているなと思った。人によっては顰蹙を買うかもしれない。客層が結構年齢層高めで、おそらくダチョウ倶楽部とか出川哲朗さんとか、その辺りのコメディが好きな人たちかなと思うから、最近のZ世代の価値観とは違う人々が多いイメージだったので、そこに関してもゲラゲラと笑っている人が多かった。
一方で、VRやUberEats、マッチングアプリといった今流行しているトレンドも上手く脚本に落とし込んでいる点も面白かった。決してリアルには感じないのだけれど、最近の流行りをネタとして取り込んでいるのは、今のお客さんにも新鮮に感じられて良いものなのかなと感じた。
脚本には、かなりお笑い芸人にスコープが当てられている場面が多かったかなと思う。沢井、隅田もコンビを結成していたという設定もそうだが、ビートたけしが登場したり、小梅太夫が話の中で登場したりと宮藤官九郎さんがお笑い好きというのもあるだろうが、そういったテレビのお笑いの延長線上に今作があるような印象を感じた。逆に森崎ウィンさんのようなイケメン俳優をディスるネタは面白かった。
さらに、お笑いコンビを組んで解散して、そしてコンビでも喧嘩してしまうという、お笑い芸人の生き様への解像度の高さも面白い。そこだけ非常にリアリティを感じてしまって、これは宮藤官九郎さんの好みの部分なのかなと思った。

写真引用元:ステージナタリー ウーマンリブ vol.15「もうがまんできない」より。(撮影:田中亜紀)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

大人計画所属の俳優さんを中心に、皆体を張って演技する人たちばかりで、テレビ上がりな芸人さんたちな印象を受けた。非常に楽しませて頂いた。
特に印象に残ったキャストを中心に見ていく。

まずは、主人公?の西権造役を演じた大人計画所属の阿部サダヲさん。阿部サダヲさんの演技を舞台で拝見するのは実は初めて。
阿部サダヲさんの演技を生で観られたのでとにかく満足だったが、やっぱり不倫していることがバレてしまうのではと終始慌てふためく演技が印象に残った。はしごに登りながら恐る恐るドリアを運ぶくだりも好きだった。

次に、沢井理役を演じた仲野太賀さん。仲野さんの演技を拝見するのも初めて。
やっぱり仲野さんの芝居はこういったコメディに向いているなとつくづく感じた。決して羽目を外したような芝居は皆川さんのようにはやらないけれど、コメディ作品に出演されると凄く映える感じがして良かった。
あと野球部の監督は凄く似合っていた。野球やっていそうな感じのある仲野さんなので自分の中でしっくりきた。

一番強烈な役を演じられていたのは、神田崎ふみお役を演じた大人計画所属の皆川猿時さん。皆川さんの芝居も初めて拝見。
登場から全裸というインパクトがやばかった。そこから日本語だかなんだか分からないようなことをずっと口走っているので、もう私は最初観たときに言葉を失った。そのくらい衝撃を受けた。
だが、物語が進むにつれて、彼はデリヘル店の店長として典子を娘として育てている父親だと分かる。そして、典子が行方不明になったときも娘のことを思っていち早く探しに行く娘思いな父親だった。そのギャップが素晴らしかった。

みちる役を演じる大人計画の荒川良々さんも素晴らしかった。
非常に良くない言い方だが、IQが低そうなテンションの高い感じが凄く面白くて、キャイ~ンのウド鈴木さんのようだった。

ちづ子役の平岩紙さん、典子役の中井千聖さんも素晴らしかった。
平岩さんは、あの甲高くて色っぽい感じの話し方が面白かった。ちょっと違うけれど林家パー子さんみたいな面白さがあった。そしてそれが作風に非常に合っていて好きだった。
中井さんは、ずっと「へぇ」と言っている難しい役のように見えた。そこからスイッチが入って、ビートたけしさんになりきったりするのが印象的。凄く殻を破った演技で好きだった。

写真引用元:ステージナタリー ウーマンリブ vol.15「もうがまんできない」より。(撮影:田中亜紀)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

私は、2020年4月に無観客で上演されたウーマンリブvol.14の『もうがまんできない』は視聴していないが、今作を観劇してみてこういった作風の舞台は、やはり観客が入らないと盛り上がらないなと感じた。もし私がこれを配信で視聴していたら、客席で観劇したときよりは気分は乗らなかったような気がする。それだけ、演劇を上演する上で観客の笑い声や反応というのは大事なもので、コロナ禍が徐々に明け始めて客席に観客が戻ってきたのは良かったことだなと思う。
ここでは、初めて大人計画を観劇した私が思ったことを色々書こうと思う。

上記で触れてきた通りだが、最近は私自身「ダウ90000」や「画餅」「玉田企画」といったウィットに富む会話劇で笑いを取る団体を沢山観てきた。だからこそ、ウーマンリブのような10年以上前にテレビで放送されていたようなドタバタコメディをしばらく観てこなかったので、今あらためてそういった作品に触れると、ちょっと時代を感じる部分もあったというのが個人的な発見だ。
昔はバラエティ番組でも、男性が女性の頭を引っ叩いたり、全裸で踊りまくったり、パイ投げされたりと体を張って笑いを取る番組は沢山あった。最近はあまりテレビ番組を観なくなってしまったが、そういった「笑う犬の冒険」や「はねるのトびら」「ドリフターズ」のような番組はあまり見受けられないような気がする。
特にコロナ禍に入ってから、密になるようなものは尽く禁じられてテレビでもできなくなったので、そういった感染症対策の影響も大きいかもしれない。

そして感染症対策によって減ったというだけでなく、そもそもお笑い自体の主流も変わりつつある。昔は漫才でも相方の顔をひっぱたくコンビなども多かったが、そういったものはマイルドになってなくなりつつあって、あまり相方を叩いたりする漫才やコントは避けられる傾向にあるような気がする。「ダウ90000」の『いちおう捨てるけどとっておく』に出てくるツッコミもそういった相手を配慮したツッコミが見られて、それが若い世代でのお笑いのトレンドなのかなと思う。
今のご時世、ありとあらゆることに対してハラスメントが告発される時代なので、優しく、相手に配慮するみたいなマインドはどんな業界においても取り沙汰される精神なのかなと思う。

だからこそ、昔あったような過激なツッコミや体を張った面白さは失われつつあるのかもしれない。そこを敢えて上手く演劇に落とし込んでいる所に、今作の良さはあるんじゃないかと思う。
私も前半観劇しているときは、この若干古く感じられたノリとテンションと笑いに辟易した。しかし、これは私が小さい頃にテレビでよく登場したドタバタコメディだった。今のご時世、テレビでやることも色々と厳しくなった世の中だからこそ、演劇という狭い空間でなら出来ることに挑戦した結果なのかなと思う。
ウーマンリブは、宮藤官九郎さんが「今やりたいこと」をストレートにするシリーズ。テレビでやったら多少グレーと思われるようなシーンをやっても良いなら、演劇で存分やろうじゃないか。自由度のきく演劇だからこそやりたいことをやる、そんな精神を感じられて徐々に私も作品を受け入れられ、こんなやり方もアリだなと痛感させられた。

写真引用元:ステージナタリー ウーマンリブ vol.15「もうがまんできない」より。(撮影:田中亜紀)


↓宮崎吐夢さん過去出演作品


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