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舞台 「愛しのボカン」 観劇レビュー 2022/03/19

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【写真引用元】
悪い芝居Twitterアカウント
https://twitter.com/waruishibai/status/1479274637951668226/photo/1


公演タイトル:「愛しのボカン」
劇場:本多劇場
劇団・企画:悪い芝居
作・演出:山崎彬
出演:赤澤遼太郎、山脇辰哉、伊藤ナツキ、植田順平、東直輝、潮みか、香月ハル、齋藤明里、中村るみ、難波なう、中西柚貴、井上メテオ、川鍋知記、采乃、渡邊真砂珠、佐藤新太、池岡亮介
公演期間:3/18〜3/21(東京)
上演時間:約135分
作品キーワード:音楽劇、舞台美術
個人満足度:★★★☆☆☆☆☆☆☆


昨今では舞台「ヴァニタスの手記」といった2.5次元舞台や、宿泊型イマーシブシアター「泊まれる演劇」の演出を務める山崎彬さんが主宰する劇団「悪い芝居」の新作公演を観劇。悪い芝居の舞台作品は、「アイスとけるとヤバイ」「ミー・アット・ザ・ズー」「今日もしんでるあいしてる」に続き4度目の観劇となる。

劇中で「この劇は事実を元にした物語です」と語られていたため、おそらくこの作品を作った山崎さんの経験を元に作られた物語かなと個人的には思っている。
明日野不発・アスノフハツ(赤澤遼太郎)は、渋谷にある岡本太郎の絵画「明日の神話」を見て衝撃を受けた後に、飢田殉平・ウエダジュンペイ(植田順平)らに誘われて演劇を観てこれまた衝撃を受けることになり、やがて彼は演劇の世界へと足を踏み入れることになるのだが、その劇団というかまるでホームレスの集まりのような集団は、皆がやりたいことを自由にやって「ボカン」と自分の感情を放出させていた。

悪い芝居の観劇が4度目となる私に映ったこの作品の印象は、「今日もしんでるあいしてる」に通じるような役者たちのエゴに満ちた人間臭い感情が満ち溢れる舞台であったということ。
その作風はひょっとしたら「今日もしんでるあいしてる」よりも強くなっていたのかもしれない。
常々役者を続けている方たちが思っていることを全部舞台上で包み隠さず発している感じ、きっと役者・表現者・芸術関係の方がこの作品に出会ったら非常に気分爽快な作品として映るかもしれないが、私は一観劇者という立場なので少々そういうエゴに対して苦手意識があっていまいち刺さらなかった。

無本悶・ナシモトモン(池岡亮介)が率いる「ボカン」という集団の中には様々な役者が存在していて、一時期アイドルをやっていた青壁修羅・アオカベシュラ(齋藤明里)や、なかなか自分の感情を表に出すことに抵抗を感じて馴染めていない春原冬・スノハラフユ(伊藤ナツキ)などそれぞれに物語があって、きっと役者をやっていたら誰かに感情移入出来るのだろうなとも感じた。

そして舞台装置と衣装はとても豪華だった。
少しヒッピーを感じさせるような民族衣装のようなものと、学生寮のようなホームレスのすみかのような、けれど素敵な舞台装置に見応えを感じた。
それに加えてサブカル系の音楽劇が相まって、演劇やサブカルをこよなく愛する人たちにはグッと来るであろう世界観として仕上がっていた。

役者は必見、それ以外のサブカル好き・小劇場演劇好きには刺さる舞台作品だと思う。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/470379/1783829


【鑑賞動機】

正直個人的に悪い芝居の前回公演「今日もしんでるあいしてる」が自分に合わなかったので、今回の作品の舞台観劇は見送ろうかと思っていた。しかし、もしかしたら自分にも刺さるような舞台作品に変わっているかもしれないし、1年前の自分の観劇時の感性と今とでは違うかもしれないと思い観劇することにした。
また、今作は知っているキャストも結構出演しており、且つそれらのキャストが最近舞台で演技を拝見していないキャストだったので観劇するに至った。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

関西で生まれ育った明日野不発・アスノフハツ(赤澤遼太郎)は上京して、渋谷にある岡本太郎の「明日の神話」を見て衝撃を受ける。そこへ飢田殉平・ウエダジュンペイ(植田順平)らが面白い演劇を下北沢でやっているから観に来ないかと誘ってくる。そういってお金を巻き取る連中なんじゃないかとアスノは疑うが、そこで観た演劇にアスノは衝撃を受ける。

オープニング音楽が流れる。

シーンが変わってバスの中。ロケバスで撮影現場に向かっている最中である。そのバスの中にアスノはいた。アスノは近くに座っていた地巻軽人・チマキカルト(東直輝)に話しかけられる。チマキはアスノのイケメンぶりに是非俳優としてスカウトしたいと申し出る。アスノはそれを受け入れる。
バスは到着し、青壁修羅・アオカベシュラ(齋藤明里)を主役に据えた撮影の準備が始まる。スタッフたちはバタバタとその準備に追われ、その様子はアスノは見ていた。
撮影が始まり、アオカベが登場する。彼女は以前アイドルとして活躍していた。プロデューサに叱られながらアイドルとして活動する毎日。しかしある日、アオカベは女優を目指すためにアイドルを卒業することを伝える。以後、決してアイドル時代よりメディアへの露出は減ってしまったけれど、今は自分らしくやれていると語る。
その光景を見て、春原冬・スノハラフユ(伊藤ナツキ)はアオカベのことをずっとファンでいたため、彼女のことを憧れていた。

アスノは、美波未来・ミナミミライ(潮みか)というゴージャスな衣装に包まれた女性と出会う。アスノは以前カルトに「イケメンだね」と言われて「いやいや」と言うと嫌味に聞こえると言われたため、ミナミから「イケメンだね」と言われて全く謙遜しなかったことで逆に気まずい空気を作ってしまう。
アスノの自分の立場をわきまえない行動によって、現場では彼をおかしな奴扱いしていた。
アスノは自分の過去について語る。関西の大学に入学し、新歓では様々なサークルから勧誘を受けた。イケメンだったため、女性たちから引っ張りだこだった。しかしその時、演劇サークルの勧誘を受けたことがきっかけで演劇に出会うことになった。

アスノはまたしても渋谷で、ウエダたちに出会うことになる。この前演劇を観ないかと勧誘してきた彼ら。ウエダたちは下北沢に自分たちが所属する「ボカン」という集団があるから来てみないかと誘う。アスノはウエダに導かれて下北沢のその「ボカン」の集団に出会う。
その集団は無本悶・ナシモトモン(池岡亮介)がリーダーの、劇団のような芸能事務所のような集団で、皆が自分がやりたいように自由に活動出来る場を創っていた。そこには、アオカベやミナミ、カルト、スノハラらが所属していた。お金はどうしているのかと聞くと、アオカベがアイドル時代に稼いだ金を全てこの集団のために寄付しているような状態だった。
この集団に属した彼らは皆口を揃えてこう言う。初めて演劇に触れた時、自分の中で感情が爆発するような「ボカン」を感じた。この「ボカン」という内なる爆発を、自分が役者として演じることで観ている人にも「ボカン」してもらいたい。そんな活動をしている時にドキドキするからやりたい、続けたいのだと。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/470379/1783830



スノハラは自然に笑顔を作ることが難しい性格から、なかなかオーディションに受からずにいた。マネージャーの果宮彩子・ハテミヤサイコ(中村るみ)には、そんな内気なスノハラの性格のせいでいくつオーディションに落ちているのかと落胆される。
逆に仮海羽織・カリウミハオリ(香月ハル)は、自然と笑顔を作ることが出来る明るい女性だったため、オーディションでの受けも良かった。
スノハラはそんな自身の殻を破ることに非常に苦労している様子だった。そして、同じくオーディションに落ちていたアスノに対して、彼と自分にもう一度オーディションのチャンスを与えてほしいと依頼する。

増垣煙太・マスカキエンタ(山脇辰哉)は泥酔したような状態で、今の生き辛さのようなものを吐露し、集団に属しているみんなで「ボカン」するような何かを企画しようと声をあげていた。
そこでこの集団を立ち上げることになった経緯について一同が興味を持ち始め、ナシモトモンへ注目が集まった。ナシモトは居酒屋などを見渡して、自分がやりたいことをやれる、目指せる場が必要だと感じ、そういった役者たちを集めてそして彼らを率いる集団を創った。

マスカキのみんなで一緒に何かを創って「ボカン」したいという思いに答えて、ナシモトは下北沢の本多劇場に進出して演劇をやろうと決意する。一同は準備に取り掛かる。
ミナミと馬路卍・マジマンジ(井上メテオ)の2人(だった気がするがよく覚えていない)が準備の間、アドリブで場を盛り上げる。客席の中でトイレに行きたい人を行かせたりと場を繋げる。
一同の準備が完了すると、全員横一列に並んで、岡本太郎の絵画に出てきそうな派手で芸術性に富んだお面を被って、音楽に合わせて踊りだす。「BOKAN MY LOVE」の幕の後ろには、ずっと自分を出し切ることが出来なくて悩み続けていたスノハラとアスノが、豪華な衣装を身にまとって登場する。
一同は高らかに歌を歌い上げて、そして「ボカン」して物語は終了する。

きっと役者をやってらっしゃる方がこの舞台作品を観劇したら、ここに登場する誰かしらに感情移入してみんなで「ボカン」するラストシーンで気分爽快するんだと思う。それくらい熱量に満ち溢れた作品であった。ただ、一観劇者である私からすると、ちょっと俯瞰して観すぎているせいであろうか個人的に刺さるものはあまりなくて満足度としては低めだった。
私の好みの部分もあって、ストーリーに脈絡がなくてただ役者たちが「ワーワー」言っている舞台にはあまり魅力を感じられず。ちょっと好き勝手やり過ぎている印象も受けて最後まで乗り気にはなれなかった。
山崎さんの脚本はいつも時系列をゴチャ混ぜに描いて難解に見せるものが多くて、今回の作品も多少時系列が前後する内容にはなっていたのだが、コロナ禍以前の作品ほど難解にはなっていなかったのかなという印象。それでもいつも山崎さんの脳内は一体どうなっているんだ?と思わせるくらいド派手でハチャメチャな作品を作られていて、そこはしっかり踏襲されているのだが。
岡本太郎との関連や、山崎さんの経験自身とこの作品との関係性については考察パートで触れようと思う。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/470379/1783843


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

いかにも悪い芝居の舞台美術といった感じで、ヒッピーを感じさせるような民族衣装と、まるでロックフェスのような「BOKAN MY LOVE」と書かれた幕と剥き出しの鉄パイプの感じがサブカルっぽさを上手く演出されていて素晴らしかった。
舞台装置、衣装、照明、音響、その他演出の順番でみていくことにする。

まずは舞台装置から。舞台中央にはステージを想起させるような立方体に組み立てられた鉄パイプと、木造のステージがセットされていた。そこでアオカベが自身の身の上話を語る撮影に挑んだり、ラストシーンでスノハラが豪華な衣装をまとって登場する。また、このステージの手前側の面には「BOKAN MY LOVE」と書かれた幕が吊り下げられるシーンもあり、まるでロックフェスのようなサブカルチックな舞台美術になっている。
舞台上手には、その中央のステージの天井と同程度くらいの高さを持っていて、且つ一番上まで階段で登ることが出来てそこもステージとして使用されている、同じく鉄パイプで作られた舞台装置があった。要所要所に布切れのようなものもかかっていて、どこか民族の住処のような野生っぽさを感じさせる。
舞台上手下にはトンネルのようなデハケがあった。
総じて、ホームレスの住処と言ってしまったら汚らしく聞こえるのだが、造りは簡素に見えるけれども非常に舞台映えするなんと形容して良いか分からない素晴らしい舞台セットだった。悪し芝居の舞台美術らしさを感じさせる。

次に衣装。衣装はとても豪華。まるでヒッピーを想起させるような民族衣装のような、そして岡本太郎に影響を受けたこともあって赤・オレンジ系の色彩が目立った。
まず、アオカベシュラのあのお姫様のような衣装が好きだった。齋藤明里さんだからこそ着こなせるというか非常に彼女にぴったしの衣装で好きだった。
スノハラフユのちょっと地味だけれど、ヒッピーを感じさせるお洒落な衣装も好きだった。以前「ミー・アット・ザ・ズー」で田中怜子さんが演じていた恋住闇の衣装のような控えめだけれどお洒落な感じに近かった。その衣装もあって、一瞬伊藤ナツキさんが田中怜子さんにも見えた。
ミナミミライのあのゴージャスな衣装も好き。これは潮みかさんだなと遠くからでも一発で分かった。あそこまでゴージャスな衣装を着こなせる女優はなかなかいない。
そしてナシモトモンの衣装が、とても山崎彬さんご本人なのではないかというくらいそこに寄せられていた印象で、池岡亮介さんを序盤は山崎彬さんなんじゃないかと見間違えていたほど。あの眼鏡かけてちょっとインテリっぽい感じが素敵だった。
そしてやはりウエダジュンペイのお化けのようなオレンジ色の毛糸みたいなものが頭から沢山生えだしている衣装がなんとも民族感あって、そして良い意味で浮いていて好きだった。植田さんは悪い芝居で演技を観るといつも怪物に見えてしまう。
一番は、やはりラストシーンでのスノハラとアスノのあの真っ赤な衣装。スノハラの頭の上の大きなリボンは本当に印象に残っている。これでやっと自分の殻を破れたというか、自分をしっかり出せたというニュアンスがよく伝わってきた。そしてアスノのあの頭の目玉のような飾りは、2025年の大阪万博のロゴを想起させる。1970年の大阪万博は岡本太郎の「太陽の塔」が象徴的だが、それが2025年の大阪万博に繋がっている、つまり未来に繋がっていることを実感させる良い演出だった。
あとは、ラストシーンでメンバー一同が被っていた面が本当にユニークで素敵だった。岡本太郎の「明日の神話」に描かれている芸術的な物体を再現していると思われるが、私にはガンダムに見えてしまった(自分だけだろうか)。

次に舞台照明についてみていく。
舞台装置全体的に豆電球のような照明器具が設置されており、非常に可愛くも感じたし民族っぽさ?みたいなものも感じられた。それと、蛍光灯のような照明器具が中央に斜めにお洒落にセットされていたのも印象的。
照明演出としては、「ボカン」の時の白色に舞台全体がパっと光る演出が好き。音響と相まってとてもセンスを感じた。
それから、スノハラの独白で夜のシーンのような全体的に紫色に暗くなるシーンでの照明演出も印象的だった。
あとはオープニング、ラストシーンでの音楽が鳴り響きながらカッコよく照明が切り替わるシーンは、全部好きだった。

舞台音響は、もうオープニングとラストシーンの音楽劇のかっこよさに尽きる。まるでロックフェスに来たかのようなロックミュージックに乗せて役者たちが全力で歌い上げているのが印象的だった。
あとは、「ボカン」の効果音。まるでウルトラマンの怪獣が地面に降り立ったような(たとえが唐突過ぎるか)、ズシーンという響きが上手くハマっていて好き。

最後にその他演出について。
終盤の方で、おそらくミナミと卍(違ったかもしれないが、誰だったかよく覚えていないので)で漫談をするシーンがあって、そこで「トイレに行きたい人いますか?」と客席に向かって尋ねるシーンがある。おそらく出演者たちは誰も手を挙げないと想定していたと思うが、私の観劇回では実際に手を挙げてお手洗いに行った方がいらっしゃったので、予想以上に漫談の時間が長くなったと思う。そこで、客席と一体感を作る演出がユニークで面白かった。個人的にはもう少しああいったシーンを増やしてもいいのかなとは思った。「今日もしんでるあいしてる」でも一体感を作るために、同じ演出手法があったと思うが、今回も同じくらいの尺で演出されていたので、この作風ならもっとやって良いと思った。
本当なら、こういったご時世でなければ、劇中歌のパートは客席の方にも一緒に歌ってもらう的なロックフェス的参加型の舞台演出にしても楽しいだろうなと思った。ぜひ今のご時世が明けたらやってみてほしいと思った。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/470379/1783838


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

脚本が脚本だからか、キャスト全員が非常に和気藹々と楽しそうに演じている印象を受けた。それはそうだろう、前述した通り役者たちが日々胸に抱えている心の叫びを代弁したような台詞が満載なのだから。
特に注目したい役者に絞り込んで紹介していこうと思う。

まずは主人公のアスノフハツ役を演じた、赤澤遼太郎さん。赤澤さん2.5次元舞台を中心に俳優として活躍されていて、ミュージカル「憂国のモリアーティ」などが主な出演作品となっている。
私は初めて赤澤さんの演技を拝見したのだが、あまり2.5次元俳優らしさを感じさせないといったら失礼かもしれないが、凄く小劇場演劇に溶け込めそうな俳優だと感じた。たしかに劇中でもある通り、顔の整ったイケメンなのだが、凄く平凡で主人公という感じがしなかった。これはあまり褒め言葉になっていないように聞こえて申し訳ないが、今回の役でいうとハマっていたと思う。

次にマスカキエンタ役を演じた山脇辰哉さん。彼はどちらかというと小劇場演劇で活躍されている俳優。
私は演技拝見が初めてとなるが、凄く印象に残ったシーンが一つあって、というかそのシーン以外の彼の演技は覚えていないのだが、まるで泥酔したかのように「ボカン」のメンバー一同に向かって、みんなで「ボカン」出来るような企画をしようと声を上げるあのシーンが非常にグッときた。
本当にあれは役者の素の言葉なんじゃないかと思えるほど身に沁みてきた。台詞でないように感じられて、本当に心の底から叫んでいるような感じの喋りっぷりが非常に好きだった。あれは確かに心動かされるわと思った。
山脇さんの演技を観て、感激していた役者の方ってどう思ったのだろうか。自分が今感じていたことを高々に代弁してくれたと思うんじゃないかと思う。お芝居がしたいってきっとそういう気持ちだと思うから。

スノハラフユ役を演じた伊藤ナツキさんも非常に良かった。伊藤さんは2.5次元ミュージカル「デュラララ!!」やミュージカル座の公演、アンカル旗揚げ公演「昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ」などに出演されていた女優である。
彼女の演技拝見も初めてなのだが、非常にクールビューティな印象を最初は抱いていた。アオカベに憧れて、自分もあんな感じで思う存分自分を発揮したいと切実に願っていたが、内気な性格のせいかそれがなかなか出来なかった。スノハラに感情移入してしまう方はきっと多いんじゃないかと思う。
でも最後に大きなリボンをつけて自分を精一杯演じることが出来て素晴らしかった。彼女の存在は、どこか良い意味で他の「ボカン」のメンバーとは浮いていて、だからこそ惹きつけられる魅力を感じていた。

ウエダジュンペイ役を演じる悪い芝居所属の植田順平さんは、安定して怪物演技で観劇できて嬉しかった。役名と本名が彼だけ同じというのも良い。
植田さんの演技は悪い芝居の本公演で何度も拝見しているが、今回は「今日もしんでるあいしてる」以上に役どころが多くて怪物らしさが垣間見られて良かった。あの「〇〇だにー」という話し方が個人的に凄くツボだった。あの甲高く優しそうな声も好きでそれと相まって非常にインパクトがあった。
そして衣装も植田さんらしくてナイスデザインだった。

ミナミミライ役を演じた悪い芝居所属の潮みかさんも存在感あって好きだった。悪い芝居の舞台には欠かせない女優の一人である。
あのゴージャスな衣装を着こなせるのも彼女だけだと思うし、なんか大物感を感じさせる潮さんの演技を観たのが今回初めてだったように思える。潮さんのいつもとは違った一面を出してくれた役だった。

アオカベシュラ役を演じた柿喰う客所属の齋藤明里さんは、今回非常にお姫様っぽさがあって役と合っていた。
斎藤さんはプリンセスっぽさを備えた女優だと以前から思っていたが、そこを深堀りした舞台作品を観たのは今回が初めてだったように思える。アイドルとしてもたしかにいけるキャラクター。
柿喰う客の「夜盲症」以来久しぶりに彼女の演技を観ることが出来てよかった。

カリウミハオリ役を演じた、悪い芝居所属の香月ハルさんの明るくて無邪気に駆け回る演技も好きだった。なんとなく劇団4ドル50セントの堀口紗奈さんに似ているなと思いながら観劇していた。

そして、「ボカン」のボスであるナシモトモン役を演じた池岡亮介さんも素晴らしかった。
序盤はナシモト役は山崎彬さんじゃないかと思って観ていたのだが、途中から違うと気がついた。そのくらい山崎さんらしいインテリっぽさとリーダーみたいなオーラを出した演技に少し意外性を感じた。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/470379/1783835


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

悪い芝居の舞台作品は、コロナ禍以前の作風は非常に好きだった。「アイスとけるとヤバイ」(観劇レビューは残っていない)や「ミー・アット・ザ・ズー」など、脚本は非常に難解で時系列がゴチャ混ぜなのだが、脚本と舞台美術が上手く融合していて非常に面白いエンターテインメントとして仕上がっていた。
しかしコロナ禍に突入してから、悪い芝居の作風はガラリと変わったと感じた。2021年2月上演の「今日もしんでるあいしてる」では、コロナ禍によって上演することも危ぶまれて演劇業界の人々は窮地に立たされたが、役者を続けたいというエゴを素っ裸でドストレートな台詞として脚本に散りばめることによって、役者たちから共感の声を沢山もらって盛り上げた作品となった。
つまり悪い芝居のコロナ禍以降の作風は、役者による役者のための舞台作品になりつつあると感じている。

今回の「愛しのボカン」は、その要素をより強めた印象を感じた。コロナ禍に入ってからどんな役者も、自分が表現活動をし続ける理由みたいなものを必死に模索しているんじゃないかと思う。それを上手く言葉として体現して肯定してくれる作品が「愛しのボカン」なんじゃないかなと解釈した。
役者を続けている方はきっと、どこかで頭に雷が落ちたかのような人生を揺るがす経験を演劇でしたから続けているのだと思っている。それがこの作品でいう「ボカン」である。
その「ボカン」を多くの人にも感じて欲しいし与えたい。そんな動機から役者を続けている人が多いだろう。そう思いながら活動を続けるとドキドキして楽しいから。

ただ一観劇者の私からすると凄く蚊帳の外の話に聞こえてしまう。別に役者をやったこともやってみたい訳でもない。上手く感情移入も出来ないし、作品を観ることによって表現者と観劇者に一線を引かれているような感覚もある。だからあまり自分はこの作品を楽しめないんじゃないかと思う。

ここからは私の感想は交えずに、作品そのものを考察していく。
山崎彬さんは関西の立命大学出身で、大学のときから演劇を始められた方である。丁度アスノフハツと同じような境遇。大学にある様々なサークルに勧誘されたが、演劇というサークルに出会って「ボカン」した方である。
山崎さんが学生時代に所属されていた劇団西一風は、残念ながらコロナ禍の現状では活動を続けることが困難となってしまい廃部となってしまった。2021年3月のことである。きっと山崎さんが「愛しのボカン」を創作する上で、この劇団西一風の廃部も大きく影響を受けているものと思われる。
表現者たちが自由にやりたいことを出来る場、この場というものの儚さを痛感したからこそ、「愛しのボカン」は「ボカン」という表現者の集団の物語になったんじゃないかと思う。

そして岡本太郎である。1970年の大阪万博と聞いたら誰もが彼の「太陽の塔」を思い浮かべるだろう。あのなんとも形容し難いけれど力強さと迫力は伝わってくる芸術の産物は脳裏に焼き付く。
渋谷駅に飾られている「明日の神話」という彼の描いた絵画も、何か得体の知れない力強さを感じた。
2025年に大阪万博が再び開かれる。この大阪万博のロゴもまるで岡本太郎の精神を受け継いだかのように複数目のついたインパクトのある赤いロゴが採用されている。これをアスノが衣装として身にまとうことで、私は岡本太郎という偉大な芸術家の意志を受け継ぎながら未来を切り開く姿にも見えて非常に心動かされた。
「芸術は爆発だ」、有名な岡本太郎の言葉を「愛しのボカン」という気持ちに置き換えて、エネルギーを放出していく役者たちの姿を描くことによって、未来を切り開いていこうという前向きな姿勢がこの作品から感じられた。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/470379/1783842


↓悪い芝居過去作品


↓齋藤明里さん過去出演作品


↓池岡亮介さん過去出演作品


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