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完璧なホワイトアスパラの一皿みたいなご機嫌よう

以前どんな30代になりたいかなと思ったとき、最初に「美味しいものをたくさん食べて誰かの役に立ちたい」という願いを持った。
仲の良い後輩にそれってデリシャスパーティープリキュアじゃないですか…?と言われて爆笑したが、我ながらこの願いは端的かつ過不足なくて気に入っている。

だけど最近、もうひとつ願いが増えた。それは、「『また会いたい』と思われる人になれたらいいな」である。
これは、正直ハードルが高い。最初の願いはどちらも私の主観的な実感が得られれば叶うけど、こちらの主体は他者である。

私は持論として、どんなに頑張っても他者の真意は見えない、だからこそ慮るべきだし目の前にいる/あるものを全てとして大切にすべき、そして相手にどう思われているかを気にしすぎたり行動の指針にしてはいけない、と思っている。従って、「他者にそう思われた結果」がゴールなのはかなり難しそうに感じてしまう。

だけどいるのだ、また会いたい人というものは。見た目も中身もそれぞれに違うのでどんな人、とは一概に言いづらいけれど、確かにそういった方々にこの人生で何度かお会いして、このあとの人生も頑張れそうだと清々しい気持ちでお別れしてはいつかまた会えたらいいと願った。どなたかにとってのそんな大人になることができたら、それは素敵なことだなと思う。
だけど自分が誰かにとってのそんな存在になれるかどうか、その術があるのかは全くわからない。

もしかしたら、名残惜しいと思う別れがそうさせるのかなと思っていた。なんか私が実感持って話せるエピソードだと、なかなか買えない立地のお店で売ってるプリンがもうそれはそれはめちゃくちゃ美味しくて、だけど早々に食べ切ってしまい…というとき、「もうひとつ、もしくはまた食べたい」と思うあの感じというか。そこまで切実ではない、けれど確かな渇望にふわりと覆われるような。

しかし、ちょっと違うのだ。そこにある「また会いたさ」には、なんというか「消費したさ」というと直接的すぎるけど、そういうやつがある。「プリンに会いたい」ではなく「プリンを食べたい」なのだ。人間に置き換えても、私の場合は「足りない」と思う別れの時は大抵実らない片思いがほとんどだった。そのひとの何かが惜しかったり、何かを欲しかったりした。

うーんそういうやつじゃないんだよな〜、けどわっかんないな〜、ま、いつかわかるか!と思っていたが、先日やっとわかったのだ。

京都の北大路に、『middle』という素晴らしいレストランがある。様式はフレンチだが、お店の設えや味わいのベースは和を感じる。信じられないほど洗練されたお料理を供してくださるのだが、素材や味わいに徹底的に拘っているのが口に運ぶたびに感じられて、だけどそこに厳しさや押し付けがましさは一切なく、強いて例えるならば望む距離感で寄り添われているような気持ちにさえなるレストランだ。
このたび友人の勧めで別の友人と連れて行ってもらい、大好きになってしまった。

そんなmiddleさんで頂いたお料理たちのうち、コースの終盤にホワイトアスパラの一皿があった。そのお料理に、私は理想の別れを教えてもらったのだ。

つるんと柔らかく下拵えされた立派なホワイトアスパラに、自家で丁寧に作られたまろやかなマヨネーズとグリルされた猪のベーコンをあしらい、木の芽を添えられた一皿。まずはこんなに綺麗なホワイトアスパラの素材の味を知りたいと思い、丁寧に磨かれたナイフで切って口に運ぶと、はる、と平仮名で書いたような風味が甘味とともにふわりと広がる。続いて同じくらいの大きさに切ったアスパラでマヨネーズを掬い取りつつ、ベーコンと一緒に頂いた。
これが、もう…完璧だったのだ。全ての要素が独立しているのに、お互いに不可欠で。それぞれが揃った結果、これ以上ないほどに味わいが完成されていた。春の夜の満月を食べたらこんな風かしら、と思った。

そうして食べ終えて、私の感想はただひとつ。
また会いたいな、だった。

会いたいというか食べたいな、なのだが、こういうことだったとわかった。構成されているものがそれぞれ素晴らしく、それらを以て完成されていると思うほどに満ちていて、奥深くやさしい、そういう存在。これが私の願う「また会いたい」だった。さようならではなく、ご機嫌よう、と別れるような。もしかしたら最後かもしれなくてもちっとも寂しくなくて、だけど未来にもう一度があるならこんなに嬉しいことはないと思うような、そういう別れ際だった。

そんなひとに、なれるのだろうか。だけど欲しいと願った答えを教えてもらったからには、そこに向かって歩んでいくのが筋だ。どう思われるかわからないけど、こうありたいと伝えることはできるかもしれない。あのお料理のような佇まいのひとになれたら、いいなと思う。

蛇足だが、その後美味しいスイーツが何品も出てきてお腹いーっぱいになり、うわこういうの最高!楽しい!こういうまた会いたさもいいな!と楽しく終わった食事だった。
middleさんにも、あの楽しい席を共にした友人たちとも、また会いたい。

ホワイトアスパラ、大好き。

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