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きっとアイスティーは夏の雨の生まれ変わり

夏に飲むアイスティーが好きだ。
透き通った飴色に浮かぶ透明の氷、ガラスのコップには小さな水滴が磨りガラスのように凹凸を作る。ミルクやガムシロップは入れたり入れなかったりするが、モヤモヤと水中で踊るみたいに解けてゆくさまを見るのは楽しい。

華やかな香りの冷たい液体はいつも体に染み付いた熱に行き届くみたいに渇きを潤してくれる。真夏に雨が降ると少し涼しくなるが、例えば私が陽炎のゆらめく酷暑のアスファルトだとしたら、アイスティーは雨の如し。もはや道路も雨を美味しく嗜んでいるんじゃなかろうか。

今も仲良くしてくれる高校時代の友人は、昔からいわゆる"おもしれー女"だった。

おもしれー女といっても、例えばチヤホヤされがちな男にまったくときめかない気質があるとか、そういうことじゃない。彼女は生活を豊かにする天才なのである。あらゆる嗅覚が鋭く、またそこでキャッチした香りに素直に近づいていく。そうして豊かにした生活を、しかしひけらかすことなく自分のために静かに味わい続けてるような、そんな素敵なひとなのだ。

初めて彼女にリスペクトを覚えたのが、アイスティーだった。

なんのタイミングだったかは忘れてしまったんだけど、喉がカラカラだったのに水筒を忘れて飲み物を買いに行く時間もなかったような流れだった気がする。私は彼女に頼んでひと口、水筒のお茶を分けてもらったのだ。
そのお茶が、信じられない味わいで…

魔法瓶に入った冷たいそのお茶は、かつて飲んだことがなかったくらい香り高い紅茶だった。決して渋くなくむしろまろやかなくらいで、花や果実にも似たアールグレイの香りが華やかなのに、スルスルと喉を滑り落ちて体に染み渡っていった。興奮気味にこれ何!?と聞いたら彼女は涼しい顔で

これね、美味しいでしょ!
水出し用の茶葉なの。綺麗な水にほっとくだけ。

とにっこりしながら教えてくれた。

こんな美しい味のものを日常として楽しく嗜んでいる友人の存在は本当に喜ばしい衝撃だった。お湯で煮出して冷ましたやつしか知らなかった私に水出しの紅茶というものは甘露の如くうるわしいものだった。

そしてこれだけじゃなく、さまざまに人生のあらゆる機会を楽しく彩ることのできるひとだと、そのときから度々トキメキに似た衝撃を感じている。自分の生活を大切にし、自分の機嫌を取り、自分の人生を豊かにする。よく聞く話だが、しかし容易くはない。まず何をもって自分を大切にすればよいか、それを解らないことの方が多かったりするわけで。
彼女は近しい友人として今も美味しいご飯を共にする機会があるが、ずっとリスペクトしてやまない。そのきっかけがアイスティーなんだよな、と、今も熱まみれの体に能動的に夏の雨を招くたびに思い出すのだ。

アイスティー、大好き。

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