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ソウル在住の友人に韓国の「自炊料理」事情を聞いてみた

22年7月、私は韓国の食をテーマとしたメディア「METIZEN」(メティズン)からインタビューを受けました。「METIZEN」の編集者として働いている韓国出身の友人が自炊に興味を持ってくれて取材を受けることに。

彼女の紹介で出会ったソウル在住の料理好きな友人(30代・女性・子供あり)に、韓国の「自炊料理」事情を聞いてみました。「料理はやりたい人がやればいいから、外食や冷凍食品を食べる人がいても全然気にしない」というはっきりしたメッセージが強烈に記憶に残る取材になりました。

韓国の「一汁一菜」は「ご飯とチゲ、炒め料理一品」

――まず、韓国では作り置きのお惣菜と具沢山なスープのセットが、一般的な家庭料理のメニューと聞いたことがあって。実際のところはどうなのでしょう。
 
ご飯とスープ、お惣菜は3〜4品ですね。それが基本的な「韓国の家庭食」と言われています。スープの代わりにチゲを用意することもありますよ。チゲは水の量がスープより少ないんです。
 
――チゲって聞くと「辛いスープ」のイメージがあったけど、必ずしもそういうわけじゃないんですね。
 
辛いチゲが多いのは事実。でもスープより具が多く、水分が少ないものを呼ぶことを一般的に「チゲ」と呼びますね。
 
――韓国の家庭料理で「コレがないと困る!」という料理は?
 
やっぱりキムチとチゲはマストです。その一方、私はプルコギやビビンバのように日本でもポピュラーな韓国料理を、家で作らなくなりました。結構手順が多くて、手間がかかるんです。
 
――私は日々「一汁一菜」を食べて生活しているのですが、それの韓国版は「ご飯とチゲ、キムチ」がデフォルトになりそうですね。
 
そうなることが多いかもしれません。あとは「ご飯とチゲ、炒め料理一品」とか。
――日本では家庭料理でもイタリアンや中華、韓国料理など他国の料理が食卓に並ぶことは珍しくありません。韓国ではどうですか?
 
基本的には韓国料理ですが、いろんな料理を作る習慣はあります。海外旅行が好きな国民が多いので、料理系のYouTubeを観て、旅行先で食べたタイ料理を再現するような人も結構いる印象です。最近流行っているのは中華料理のマーラータン。火鍋がブームになっているんです。
 
――日本だと「時短」という言葉が流行っていて、Twitterではご飯の上にバターと醤油をかけただけのような「簡単で・早くて・美味しい」レシピが注目を浴びることも多いです。韓国で「簡単に作れるレシピ」って、どんな料理になりますか?

▲ラッポッキ(写真は食楽Webより引用

キムチチャーハンとかですかね。あと「ラッポッキ」という、ラーメンとトッポギを混ぜた料理とかはいわゆる「時短料理」です。日本と同様、SNSでは自宅で作れる簡単なレシピなどがたくさん紹介されています。日本のように「ジャンクで簡単な料理」が注目され、バズるのはあまり見かけません。
でも私が「簡単料理」だと思うのはやっぱりチゲ。チゲひとつで汁物にもなるし、具沢山だからおかずにもなるんです。作る家庭も多いと思いますよ。

食材はスーパーに代わり「ネットデリバリー」で買う時代へ

――チゲが日本でいう豚汁に近い存在なのかも、と感じました。ちなみに料理は毎日料理していますか?それとも同じメニューを作り置きして、数日間に分けて食べることの方が多い?
 
私の場合、自炊は1週間に2〜3回程度ですね。作るときはおかずを数品作りますが、料理を作り置きして食べることはほとんどありません。
 
――共働きでおかずを作り置きせず、その都度3〜4品用意するのは結構大変な気がします。
 
最近だと即席スープや、ミールキットを用いた簡単なおかずを作っています。あとはその日のうちに作られたお惣菜を購入することも多いんです。2〜3年ほど前から、韓国ではお惣菜のネット配送サービスが普及しました。「マーケットカーリー(Market Kurly)」というネットデリバリーサービスがあるんですよ。前日の夜に食材やお惣菜を頼めば、自宅の玄関前に専用のクーラーボックスへ、朝の5〜6時頃に届けてくれるんです。

▲マーケットカーリーのトップページ

 ――面白い!でも、実際に商品が届くまで味や品質が分からないってことですよね?つい当たり外れの差が激しそうなイメージを持っちゃいます。
 
味の評判がいいレストランの作ったスープなど、知名度の高いお店の商品が購入できるんです。だから、あまり抵抗なく買えるんですよね。最近では農場から直接食材を購入できるネットサービスも増えてきていて。私は無農薬で健康な食材や、農家のこだわりをもった野菜を取り寄せることが多いです。
 
逆に、スーパーへ行く頻度はすごく減りました。韓国では小さなスーパーがなくなり、コンビニに入れ替わりつつあるんです。いざスーパーへ行くとなると、車に乗って郊外に行くしかない。ちょっとした食材は、ネットで購入します。
 
韓国全体でも「家で毎日何かを作って食べる」人は少なくなっていると思います。私自身も料理が好きな方ですが、それでも自然と料理の回数は減っています。忙しいので外食か、先ほど説明したお惣菜のデリバリーを頼むことが多いんです。
 
――そうなると、もはや料理を「家事」ではなく「趣味」として捉える人も多そうですね。
 
おっしゃる通りです。料理教室やオンライン講座もあるのですが、そこで教わるメニューはヴィーガン料理やワインに合うような料理。トレンディな料理を教えている場合が多いです。
 
20〜30年前までは「結婚前に料理を勉強してからお嫁さんに行かなきゃ」という風習があって、家庭料理向けの料理教室もありました。でも、最近では「好きな人が好きなことをやる」という風潮が高まってきていて、「料理=女性」という考え方もタブーになってきています。
 
――じゃあ、日本では「料理が趣味」っていうと「女子力高い!」といまだに言われるけど…。
 
絶対ダメ!(笑)。50〜60代以上だと、まだ「女がやるべき」と思っている人もいるかもしれませんが、今やそういった発言は時代遅れになっているんじゃないでしょうか。

韓国で「自炊」に対するプレッシャーが少ない理由

――日本では「家族のためにも料理をしなきゃ」と感じている人や、冷凍食品や惣菜、外食に頼ることに罪悪感を抱く人が多くて。

本当に忙しい家庭だとキッチンに立つ余裕もありません。それを知っているからこそ「外食が多い/家で作らないからあの家族はおかしい」という視点はないですね。冷凍食品や惣菜に頼ることを気にかける家庭が無いわけではないけれど、利用することで「罪悪感」を抱く人は少ないのでは…と感じます。むしろ「罪悪感」を抱く、というのはちょっと不思議ですね。

――戦後、日本は急速に豊かになって、今まで手作業だった家事も機械化されたんです。今までは質素な食事だったけど、機械化によって家事に費やしていた時間が浮き、もっと手間のかかる料理も作れるようになりました。品数が増えて、豪華になったんです。
もちろん家庭によって違いはありますが「手作りでたくさん品数を作った方が豪華」という価値観で育ってきたのが今の60〜70代だと思います。その人たちの料理を食べてきたのが、今の30代。上の世代はまだ時間に余裕があったからこそ料理を豪華にできたけれど、今の世代は共働きで余裕がない。そのギャップに苦しめられている人が多いように思います。
 
なるほど。韓国はちょっと違う気がします。70年代に韓国も人々の生活が豊かになったのですが、余った時間は「自炊」ではなく「外食文化」へと向いたんです。だから、今も「家でご飯を食べなきゃ」というプレッシャーがないんだと思います。
 もう一つ日本と韓国の違いを挙げると、韓国の飲食店では一品メインメニューを頼むだけで、サイドディッシュがタダでたくさん出てくるんです。外で食べたほうが豪華に美味しく、栄養も取れる。何より安いんです。
私も外食ではサムギョプサルのような肉料理のお店へよく行っています。肉単品を1〜2人前頼めば、野菜もおかずもたくさん出てきますから。
 
――韓国料理を作る家庭が少なくなり、自炊が「家事」ではなく「趣味」になることをどう捉えていらっしゃいますか?
 
然るべき流れかな、とは思っています。キムチも以前は家族総出で仕込むものでしたが、今では60代以上ですら手作りしなくなったと聞きます。実際、キムチ作りって本当に手間がかかるんです! 大量に漬け込まないと美味しいキムチはできないし、小規模な家庭で作らなくなるのは仕方ないと思っています。

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韓国は自炊に対しての印象は寛容で、人様の家庭には口出ししない、好きにすればいいという雰囲気を感じました。料理好きな方でしたが作らない日も多々あるし、外食で食べた方が野菜も取れて安くて合理的!と考えるのはすごく今っぽいなと思いました。料理を義務に感じている人は韓国の方が圧倒的に少なそうで、そこから学べそうなことがあるなと思った取材でした。

編集協力 高木望

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