倫理のススメ−主観を重要視する構想力において−

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第10回 2019.09.11 ゲストスピーカー紺野 登さん(多摩大学大学院教授)の授業をまとめています。

多摩大学大学院教授・紺野 登さんとは?

多摩大学大学院教授で、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどを務める。
デザイン経営、知識創造経営、目的工学、イノベーション経営など新たなコンセプトを広める。

イノベーションは昔からあった

この大学院の学部名の一部でもある「イノベーション」は何も最近の言葉ではないという。昔は企業が起こした発明を、どう社会に普及させていくかという意味で「グラスルーツイノベーション 」として使われていた。製品供給論理ともいう。一方で、最近は「破壊的イノベーション」の意味で使われていて、社会課題をいかに解決していくのかという社会や生活者側からイノベーションが求められている。

なぜデザイン思考にイノベーションが期待されるのか?

デザイン思考はデザイナーの構想力をモデル化したものであるが、なぜこの思考アプローチが良いのだろうか?それは、「知識創造プロセスモデル」という一橋大学大学院の野中郁次郎教授らが示したプロセスモデルに関係があるという。このモデルは、知識には暗黙知と形式知の2つがあり、それを個人・集団・組織の間で、相互に絶え間なく変換・移転することによって新たな知識が創造されることを示している。デザイン思考は、まさにこの知識創造の思考プロセスと一致しているという。

デザイン思考という構想力に倫理が伴う理由

デザイン思考とはデザイナーの構想力を思考アプローチとしてモデル化したものであるが、では、構想力とはなんだろうか?
それは、目的の世界と現実の世界のギャップを埋めることだという。「構想力とは感性と悟性を統合することである」と定義したカントに対して、さまざまな批判が起こったそう。その一つの考えにフッサール が生み出した「相互主観性」という概念がある。構想力には共感を得られる主観が重要であると唱えたのである。
この「主観」が構想力においては確かに重要であり、生活者/社会に顕在化したニーズが少ない環境においてはその「主観」がイノベーションの源になることも理解しやすい。書籍や記事、大学の授業においてもこの「主観」が重要であると語られていて、「パッション」「思い」「好き」といった言葉にまで対象を広げ、重要視されている。
この「主観」を大切にするからこそ、倫理が伴うのだという。フッサールのいう相互主観性と意図は近いと解釈したが、はじめて聞く指摘ではあるが、とても重要な考えであると理解できた。

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