見出し画像

待てない私たち

お店をやっていると色んなお客さんに出会います。

静かな店内で急に「すいません」と呼ぶ人、コーヒーを淹れているところで無人のレジの方から勝手にオーダーを言い出す人。(おそらく僕に向かって言っているのでしょう)

もう「とにかく待てない」んです。いまの時代。

仕方ないことだと僕は思っていて、誰もがファミリーレストランやファストフードのお店で慣れてしまったんですよね。ボタンを押せばお店の人がすぐ来てくれる。何かにつけて「はい喜んで!いますぐに!」そんな風に扱ってもらうことに慣れすぎてしまったんです。「今このお店は私を中心に回っている!」

もちろん、僕らのほとんどが小さい時から大人になるまでの期間に、何かのきっかけでそういうお店を利用することがあるでしょう。お母さんとミスタードーナッツ、家族でガスト、友達とサイゼリア。そのシチュエーションは尊く、それは罪じゃない。

美味しんぼで
「鰻を焼くのは時間がかかりますが…」
「まともな蒲焼きは、時間がかかるなんてことは承知しているよ。」
みたいなシーンがあるんですが、もうそんな時代ではない。美味しいコーヒーを淹れるのには時間がかかる。いいものは時間がかかる。それを想像できなくなった。プロセスに価値を感じてもらえなくなった。

スーパーで売られている魚が切り身の状態で海を泳いでいるとか、IHが主たるものになってきて火(ガス火)を知らないとか、そんな嘘みたいな本当の話もあるらしい。(まだまだ一部だとは思いますが)

本当に便利な世の中で、技術革新やイノベーションは必要不可欠。
それによって飲食店の待遇や利益率がこれからもっと良くなるかもしれない。
「ファストであること」は大きな価値だし、それ(回転)によって利益を出してこそ存在意義があるお店もある。

その弊害として「粋なお客様」は減ってしまいました。僕がお店を始めた約10年前に比べると状況は悪化しています。平成生まれだからとか、関係なくてファストなお店を利用することを覚えた年配の方もそうです。朝からみんなでドトールコーヒーに集まっていて、スターバックスでさえクレームが多い。スターバックスエクスペリエンスを求めるのではなく「自分の思うままに」したいお客が一定数存在しているんです。

「少したりとも待てない。お客さんを待たせるなんて…」みたいな空気を毎日感じています。
「もう少し待っててよ。忙しんだから。見てわかんないの?」って誰も言えなくなってしまったんです。お店側もそれが異常な状態だとは感じなくなった。思考停止です。

僕の父は「急がなくても待ってれば来るんだ」というタイプでした。だからファストなお店が悪いんじゃなく、家庭教育だよね、と思う。知っているか知らないか、なんだから、見せてあげるだけでいい。そういう振る舞いを見るためにも僕らはもっともっと色んな飲食店に行って、色んな粋な大人の振る舞いを勉強するべきだと思います。もちろんお店の人が教示してくれることもある。お店がお客さんの教育の場になるような、そんなお店が増えるといいな、と思います。

「レストランの新人はいいワインを飲む機会がないから、お客がいつもわざと残して帰る。若い人間にそれを飲んで勉強しろ、ということだ」っていう話がすごい好きです。


それでは!


定期購読マガジンはこちら。


お店にも来てくださいね〜〜!!