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ワークショップにおける"良い問い"とは?

ワークショップにおける「良い問い」とは、どのような問いだろうか?「良い問い」とは、どのようにすれば立てられるのだろうか?

そのような素朴な疑問から、これまで安斎が主催する研究会に参加してくださった300名以上のファシリテーター(初心者から熟練者まで)を対象に、それぞれが考える「ワークショップにおける良い問いの条件」について尋ねてきました。ワークショップらしく、それぞれが思い浮かべる条件をひとつずつ付箋紙に書き出してもらうと、実にさまざまな意見が飛び交います。

<良い問いの条件(参加者の回答例)>
・わかりやすくシンプルな問い
・正解が一つに定まらない問い
・考えていて楽しくなるポジティブな問い
・五感を刺激する問い
・それまでに考えたことのなかった問い
・専門知識がなくても考えられる問い
・参加者の問題意識に合致した問い ...など

あわせて「悪い問いの条件」についても尋ねてみると、こちらも同様に多様な答えがかえってきます。

<悪い問いの条件(参加者の回答例)>
・わかりにくく複雑な問い
・YES/NOで答えられる問い
・相手が不快に感じるネガティブな問い
・答えが用意されている誘導的な問い
・専門知識がなければ考えられない問い
・参加者が自分ごとに感じられない問い ...など

さすがに現場の実体験から浮かび上がってきた条件だけあって、どれもが納得のいくものです。けれども、面白いのは、付箋に書き出されたこれらの条件をみくらべながら、吟味をもう一歩深めていくと、ファシリテーター同士で意見が割れ、討論に発展するケースがしばしば出てくるのです。

「今日の朝ごはん」は良い問いか?

たとえばワークショップの参加者同士の自己紹介の際によく用いられている問いに、「今日の朝ご飯は何を食べましたか?」という問いがあります。この問いは、「良い問い」でしょうか?「悪い問い」でしょうか。

ワークショップのテーマが「食」なのであればともかく、本編となんら関係のない文脈で「朝ごはん」について尋ねることに、安斎はとても批判的です(笑)。アイスブレイクの内容はメインアクティビティの「伏線」となっていることが鉄則ですから、この観点からいえば、この問いは「悪い問い」といえるでしょう。

ところが、悔しいことに、実際に使ってみるとこの問いは意外に強力で、誰でもすぐに答えることができる上に、初対面でもそれなりに話題が続き、それぞれの価値観やライフスタイルも垣間みえる場合もあります。仮に朝ごはんを食べない主義の人がいたとしても、それはそれで「なぜ食べないのか」と次の話題が続くので、初対面の参加者同士が打ち解けるきっかけとしては十分の機能を持っていることがわかります。自己紹介の問いとして広く活用されているだけあって、一定の「良さ」も認められるわけです。

"悪い問い"の効用

研究会でのファシリテーターの討論に話を戻すと、研究会における意見の"すれちがい"も、多くの場合は「悪い問いの条件」としてあげられていた要因に対して、「こういう側面からみると、意外に良い問いなのではないか」という意見がきっかけとなって、討論に発展しているケースが大半でした。

・わかりにくく複雑な問い
→多少の誤解を生むほうが、かえっていろいろな発想が生まれるのではないか?

・YES/NOで答えられる問い
→導入で参加者の興味を引くために、こうした軽めの問いは使いやすいのではないか?

・相手が不快に感じるネガティブな問い
→不快なのは本質を突いているからであり、そういう問いのほうが参加者に深い思考を促すのではないか?

・専門知識がなければ考えられない問い
→知識がなくても考えられる問いは、あまり深い問いではないのではないか?

といった具合です。挙句の果てには「ファシリテーターが"的外れな問い"を投げかけてしまったために、参加者が腹を立てて自発的に本質的な議論をしはじめた!」などといったエピソードまで披露され、いったい何が「良い問い」で、何が「悪い問い」なのか、この議論をしていくと、毎回ますますわからなくなってきます。

問いの要件と評価スパン

どうやら安斎が投げかけてきた「ワークショップにおける”良い問い”とは何か?」という問いは、残念ながら、それ単体ではあまり"良い問い"ではないようです(笑)。そしてこの実践者間の"すれちがい”の背後には、少なくとも問いの「良さ」に関する複雑な評価軸が走っていることがうかがえます。

当たり前のことですが、つまりは「何を目的として問うのかによって、問いが満たすべき要件は異なる」ということです。またもうひとつ付け加えると「問いの"良さ"はどのタイミングで評価されるのか」という評価のスパンも、実はこの議論を複雑化しています。

議論をここから先に進めるためには、そもそもワークショップは何を目的として実施されるのかについて整理し、ワークショップにおける問いの機能の位置付けについて再考する必要があります。また記事を変えて、別の機会に整理を進めていければと思います。


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