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フォリア工房の「更紗」について

日本で「更紗」と呼ぶものは、インド更紗、インドネシアのバティック、ヨーロッパ更紗、和更紗、それらに影響を受けた形式の文様などを総称してそう呼ぶようです。

更紗は、それが渡ってきた昔から、布好きの日本人に絶大なる人気があります。茶人は更紗が日本に到来して以来珍重し、愛好していますし、表具などでも良く使われています。また、和装の世界では昔から現在も根強い人気があり、貴重な舶来品の更紗を継いで着物や帯にしたり、更紗から派生したいろいろな形式で文様染めが制作されています。

フォリア工房の更紗は独立当初より「フォリアの更紗」として評価をいただいており、ありがたく思います。

フォリアの更紗の特徴は「古典的な更紗の特徴と雰囲気の核心を捉えていつつ、日本的で使いやすい」というところです。

技法的には、日本の伝統染色技法の糸目友禅と、ろうけつ技法を組み合わせて「日本の技法で、本歌の更紗の波長を出す」ことが多いです。

更紗は独自の濃厚な味わいと、細密で重層的な技法が魅力ですが、どんなに精密でも複雑でも、どこかトボけたようなユルい味わいがあるところが日本人には人気です。

しかし、オリジナルの更紗がいくら魅力的でも、輸入した更紗をそのまま着物や帯にすると、それはそれで珍奇な感じで面白いのですが「和的」ではないのですね。

だから、日本で「和装に完全に取り込むには」調整が必要です。

フォリアではそれを強く意図して制作します。

実際、昔の更紗が輸入品しか無い頃でも、各国でそれぞれの好みに注文したり、自国好みのものをチョイスしていて、そこで各地の好みが出ます。

創作は「作る」ことだけでなく「価値観の創出」も創作ですので・・・

インド更紗やバティック、インド更紗がヨーロッパで発展したヨーロッパ更紗、日本で日本の型染め技法などを駆使して制作した和更紗など、それぞれ特徴がありますが、それぞれの特徴の背景には、その地域の文化があります。建築、音楽、美術、宗教、料理、その他。

当たり前なのですが、やはり文様もその地域の環境や文化と連動しているのです。それによって、例えば同じインド更紗でも、使われる地域によってキャラクターが変化します。

その辺を、研究者のような調べ方はしませんが、ちゃんと観察して体感することが制作者として大切だと思っています。

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(上・インド更紗 中・インドネシアのバティック 下・ヨーロッパ更紗)

例えば、ヨーロッパ更紗なら、インド更紗が素晴らしいとヨーロッパで人気になった、そしてヨーロッパの地域の好みに注文してインドで制作してもらった、そこでヨーロッパの美意識に変わります。さらにヨーロッパでも作られるようになり、銅版プリントに発展し・・・といった「現地化」する時に、さらに色濃くその地域の特性が刻み込まれ「ヨーロッパの更紗」になります。それは、元がインド更紗でも、違うものなのです。

そこをキチンと体感して、文様に起こし、制作する必要があります。

古典的なインド更紗やバティックを元に制作する際には、その魅力の根幹を創作的、技法的に良く観察する必要があります。

例えば、更紗の面白さの一つは「文様の線や色がズレていること」(ヨーロッパ更紗は、初期以外はズレは特徴ではない)ですが、ズレているからといって、あざとくズラしてそれっぽくしたものは安物にしか観えません。

例えば、インド更紗の制作は分業ですから、それぞれの職人がそれぞれのクセや考え方やリズムを持っています。それぞれの個性が重なり合って、その「ズレ」を起こしている感じなのです。そのズレによる魅力を良く理解した上で制作している感じです。

そのズレ方が、インド音楽の即興演奏と似ています。基本的な決まりはあるけども、即興でその場その場の展開がある。それが折り重なり生育し、出来上がる感じです。

インド音楽の複雑なリズムや、ポリリズム的(違う拍子を同時に演奏することで独特のうねりが出る)な要素もあります。

「いろいろなものが、複雑に重なり合い、一つの大河になり流れていく」

そのような感覚が、インド更紗やバティックにはあります。

インドネシアのバティックは、技法が超絶的ろうけつ染なので、もう少しカッチリした感じがありますが・・・

ヨーロッパ更紗は、西洋的宗教観などに基づいた独自の整合性があります。

和更紗は、豆柴犬のようなちんまりした可愛らしさがあります。丸っこくまとまった感じです。日本化すると、多くは「豆柴化」します(笑)

・・・といった「背景」を良く感じて自分なりの更紗を制作する必要があります。

フォリア工房で制作する際には、和装での命題=「何を題材にしようと、それが日本の美意識のフィルターを通っていなければならない」を実現する必要があります。(かといってフォリア工房では和更紗的なものは作りません)

例えば、インドやインドネシアの古典の更紗は、いろいろな題材がありますが、基本的な具象系の文様は、現地の自然環境にあるものを元に制作します。そうなると、植物や動物が、日本のものと違い「濃い」のです。形もかなり「強い」のです。ヨーロッパのものは、もう少しスッキリしていますが、しかしアンティークレースのようにやはり「濃い」のですね。どちらも日本の環境や文化に比べると密度が濃くうねりが強い。

日本人の感覚からすると、効果として使うのは良いのですが、全体になると「口に合わない」感じになるのです。

なので「微調整」が必要になります。例えば葉っぱの形や葉脈の密度、文様と文様との間の密度、そういったものを「日本人が好む空間密度」に調整します。そして、文様の形も、激しい曲線ではなく、もっとゆったりした曲線にします。文様の細部の分裂も元の更紗よりも少なくします。その他その他・・・

かといって、それをただやみくもに日本化しただけでは「形は更紗っぽいけども中身は違うもの」になってしまいます。それでは更紗ではなくなってしまいます。

そこで、上に書いたような「その更紗の文様の背景」を尊敬をもって受け止めその根幹は変えないように、日本化するわけです。

私はそれを

「ペルシャ猫を、三毛猫化する」

と説明します。笑

ゴージャスなペルシャ猫のような文様を、まったりもふもふの三毛猫のような文様にするわけです。

しかし「猫であることは変えてはいけない」わけです。

独特の拍子、ポリリズム、重なりの味わい、独自のユルさ、宗教的背景、その他を日本の技法を用い、更紗の価値観で「日本人の口に合う形にしたもの」にするわけです。

そうすると「パッと見た感じは本格的な更紗なのに、和装に合う」ものが出来上がります。かつ、本歌の古更紗と並べても遜色ないものに出来上がります。それは結果「新しい更紗」になります。

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(フォリア製更紗・名古屋帯 部分)

そのように作られたものが「フォリア工房の更紗」です。

なんにせよ、最初にあるのは「古典の更紗の美に対する敬意」です。

それが起点です。


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