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『マチネの終わりに』を読んで

読書感想文

はぁ~(溜息)
こんな話があるんだ……と思ったと同時に、運命の悪戯と言って良いのか、あらゆる出来事に翻弄され、すれ違い、実話を元に書かれた本だと書かれていたが、読み進める度に、私は精神的に疲労困憊していった。

「ギターリストとジャーナリストとの恋愛話」と簡単には片付けられない、人間の心情がありありと描かれた小説だった。
大人だから選ばなければいけない選択、恋愛、仕事、結婚、出産等が関わり、ねじれて、どうにもならない現実。
これら全ての渦の中で、お互いがただ一人を想い磁石のように引き離されたり、引きつけられたり……。

「とにかく、どんな方法でもいいから、彼の側に居続けたいと思っていました。たとえそれが、人として間違っているとしても。正しく生きることが、私の人生の目的ではないんです。私の人生の目的は、夫なんです!」(←二人の関係を邪魔する女性の言葉)

こうはっきり言える彼女がすごいと思った。手段は間違っていたし、腹が立ったが、彼がいない人生が考えられない!と、神様がどう判断しようとも、間違った道を選んだ彼女の一途な気持ちが私は羨ましくもあった。

真実を知ってからも彼女を憎むことをしない二人の大人な対応に、私ならこんな冷静で居られるだろうか……無理かもしれない、と思った。相手を想うから故、離れる事を選択する時の気持ちの辛さには、若い頃の自分と重ねてしまい、胸を締めつけられる思いだった。

また、ギターリストの蒔野が言った言葉が脳裏に残った。
「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去はそれくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

抽象的なものをこんな風に言葉にスラッと言えるカッコ良さ。
この言葉には共感させられた。心情の変化で過去は塗り替えられるのだ。つまり、辛い経験でもあとになれば、その経験を乗り越えてこそ今がある、と気付かされる事が多々あるからだ。

✜✜✜

この話はクラシック音楽がとても関わっている。
娘を見ていて、クラシック音楽家は生きていくのにとても難しいという事を実感していて、この本に描かれている音楽家の苦悩は容易く理解できた、と同時に改めて自分が好きな自分でいるために生き残るのは大変だと思った。
ギターリストの蒔野がギターを弾けなくなった時訪れた心の葛藤、1年半後にやっとギターを触れた時の高ぶる気持ちと不安な気持ち。弦を触った時の指の感触まで、一つ一つが娘と重なり、泣きそうになった。
でも蒔野は、そのギターを触れなかった時間が、今の自分の音楽に良い影響を与え、より深みのある演奏が出来るようになったと言っている。それは正しく、バイオリンを再度手にして弾き始めて少し経った時に娘が語った心境と全く同じだった。

✜✜✜

私が読書にのめり込み始めたのは、娘が入院した頃。ただ、現実逃避の為にあらゆる本を読み漁った。でも、音楽に関する本は一切読まずに避けてきた。読むと、娘の苦しみに触れてしまいそうだったから。でも、今は娘は再びバイオリンを楽しんでいる。だから、音楽関係の本を読んでみようと思った。読んでみたいと思った。

私もまた、過去を変えられた気がする。

また素敵な本に出会えた。いつか読み返したいと思う。



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