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【読書】大槻文悟 『ランニングの処方箋』 、ランナーとして繰り返し読みたい名著

ときどきランニング本を読みます。ノンフィクション、小説、そして走り方などのテクニックを解説する本まで、幅広く。最近「これはすごい本だ!」と読んでいて嬉しくなったのが、大槻文悟さんによる『ランニングの処方箋 医者の僕が走る理由』です。

著者は京都大学に勤める整形外科医。フルマラソンはサブスリー、超ロングの大会ではUTMB完走など、相当な実力を持つランナーでもあります。そんな方が、医師としての知識とさまざまな論文などからの知見を集めて、速くなるため、健康に走るための術を科学的にまとめたのがこの本です。

徹底的に科学的、というのがこの本のポイント。特に前半では、こういう根拠だからこんな走り方がいい(あるいは、これは意味がない)ということがスパッと語られています。体の仕組み・使い方とランニングを結びつけて考えたい人には、ものすごく参考になる一冊です。

例えば、こんなことが書かれています。

重心の真下に着地しろと書いてあるランニング本が多いが、着地後に膝や股関節が曲がって着地の衝撃を吸収し、次のジャンプのための準備が行われるから、重心の真下に着地したら、関節を曲げている間に身体は着地した足を支点に前に回転して転倒してしまう。(中略)足は必ず重心より前で着地し、着地した足の真上に重心が来た時に、脚の関節が最も曲がり重心が最も低くなる。

『ランニングの処方箋』p22

踵着地と前足部着地の話もよく話題になる。(中略)色々研究されているが、みんなが思っているほど、前足部着地が効率的ではなく、ランニングエコノミーはほとんど変わらないとされている。少なくとも普段踵着地の人が前足部着地にすると、ランニングエコノミーは悪化する。(中略)僕が考える前足部着地の最大のメリットは、足関節での吸収が増えることで、膝にかかる衝撃が減少し、半月板障害などの怪我を防ぐ可能性があることだ。

『ランニングの処方箋』p79-80

このように説明が丁寧で、納得感がとても高まるのです。

科学的とは、「現時点で最も確かだと思われている仮説に基づいている」ことだと私は理解しています。絶対に正しいのかどうかはわかりません。でも科学的な根拠が示され腑に落ちるものならば、そこを起点にした走り方や練習方法などを試してみようと感じます。

上の引用で言えば、重心の真下に着地するのが私は以前からできず、もっと前傾すべきなんだろうか、でもそれだと走りづらくなるなと感じてきました。この記述を読み、重心より少し前に着地する自分のスタイルをそのまま続けて行こうと自信を持つことができました。

2番目の引用で触れている接地についても、長らく気になっていました。私は母指球あたりで着地します。ときどき膝痛になる身としては半月板への負担を少しでも減らしたいところ。やはり自分は踵着地ではないほうがいいなと再認識しました。

このほかにも、歩行とランニングの違い、ミトコンドリアやATPとランニングの関係、汗をかくことによるランニングへの影響など、気になるテーマがさまざまに語られています。一度読んだだけではとても理解しきれず、今後2度、3度と読み直すつもりです。

著者の大槻さんは整形外科医で、本人も書かれている通り、運動生理学の専門家ではありません。なのでこの本の記載は、オリジナルの主張を展開するものではないのかもしれません。でも他の専門家による著書や論文に幅広く目を通し、それを徹底的に「ランニングとの関係」という視座から見つめて解説してくれています。そこが、他のランニング実用書にない大きな強みです。

内容を気にしながら走ってみました。すぐすぐ何かが変わるわけではありませんが。

少々値は張りますが、それだけの価値があると思います。しばらくはこの本をバイブルにして、自分の走りをより良い方法へ向けていくつもりです。

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