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アクセサリーを探して④

ストーカー被害の相談を先輩にして以降、
「東京の夜道は話しかけられても無視しなさい。危ないからね」と忠告されていた。

私はそれをずっと守っており、今夜もまた守って帰宅するはずだった。


カイロ



実家で年末年始を迎えた時に、妹にあるお願いをされていた。

「誕生日プレゼントは、SNOWMANの3rdシングルの初回限定版を含めた3つのCDが欲しいから、予約して郵送して」と。

まさか妹がいつの間にかSNOWMANのファンになっていたとは知らず、
「私はしょっぴー寄りの箱推しなんだ」と明かされた時には、ガチなんだなと思った。

「それと、可愛い妹の為ならって思ってくれるなら、1stシングルと2ndシングルのCDも喜んで貰ってあげるからね?」

と脅された後、
本当は初回限定版が欲しいけど、もう手に入らないからさぁ、といじける姿を見て、
"はいはい、それくらい買ってあげますよ"と、まんまと末っ子の掌で踊らされていた。



仕事終わり家でくつろいでいると、予約したCDの受取日だったことを思い出し、
慌てて着替え直し、タワーレコードへ向かった。

閉店間際にも関わらず、人が大勢居り、
特にSNOWMANファンの子たちが、彼らの等身大パネルと一緒に写真を撮っているのを見て、可愛いなと思った。

妹のお遣いである事を忘れ、"人生でこんなにCDを買ったのは初めてだ"と、無駄にわくわくしながら会計を済ませていた。

"折角だし、この等身大パネルの写真も送ってあげよう"とファンに混じり、写真を1枚だけ撮影した後、
"寒いし早く帰ろう"と急ぎ足でいつもの道を歩いた。



その夜は1月の中でも、1秒でも早く帰宅したいと思わされるくらい寒い日で、
数メートル先の信号待ちをしている集団に混じる為に早歩きを始めた時だった。


「あの」

と左後ろから声を掛けられた。

「夜道では話しかけられても無視をする」これを勿論今夜も貫こうと心に決めていた。


「あの」

"しつこい。何度目だ?
こんなにしつこい人は珍しいな"
と思いながらも、目を合わせないようにして無視を繰り返す。

信号が青になり、人がぶつかりながら進むにつれ
話しかけてくる様子も減ったので、安心して路地へ差し掛かったところだった。


私の足を止めるかのように、すっと人が目の前の道を塞ぎに来たので、ぶつかりそうになった。

さっきから話しかけてきている奴だな、と直感で感じ、嫌でも顔を見ないといけない体勢になり、私は威嚇するかの様に睨みつけた。


「ちょっ、」

ちょっとしつこいですよ、なんですか!?
そう怒鳴りつけようとしたが、目の前の人物を見て、すぐにその感情は消え去った。

路地は人通りが少なく、人混みが減ってから話しかけてきたのかと一瞬にして理解出来た。
それと同時に体温が上がり、凍りついていた空気が解き放たれる感じだった。


「あ、あー・・・」

まずは知人だった事に安心を抱いた。
その後は和かな目をしている彼を見て、冷えていた身体と心が温かくなる様な、そんな吐息が漏れた瞬間だった。

「・・・阿部さん、だ」

以前会った時は名前も分からず、ただのオシャレな良い人だったが、今は違う。
私は彼を<SNOWMANの阿部亮平>と認識をしている。

「あ、覚えてて下さったんですね。そう、阿部です、こんばんは」

こんばんは。
・・・じゃなくて、・・・え?

「あ、え?あ、もしかしてずっと話しかけて下さってました?」

答えが分かりきっている質問の答えは勿論「はい」

"そうだよね"と思いながら、
"今日は帽子被ってないんだ"と冷静に彼を見た。

嫌味のない表情を浮かべ、まるで子犬かの様にへへっとマスク越しに笑ってみせられたのを見て、
"これがジャニーズか"と納得させられた。


「すみません、変な人だと思って無視してました・・・」

「変な人・・・、まぁ僕も夜道に女性に声を掛けるなんて珍しいことしてるな、と改めて今思ってます」


返答しづらい事を言うなぁと困る瞬間、彼が相変わらず何故か嬉しそうに話しているのをみて、
まぁこれについて返答しなくてもいいか、と思った。

一般女性なら、
話しかけられた事に関してテンションが爆上がりになり、穴という穴から緊張と興奮の汗が出てくると思うが、
生憎私はそっち派では無い。


「仕事終わりですか?ご苦労様でした」

ありがとうございます。阿部さんも。
そう言った後、

「いや、仕事は17時に終わってたんですけど、その後にタワー・・・」

タワーレコードと言おうと思ったが、
今日買ったのは阿部さんのグループだった事を思い出した。

「タワー?」

「タワー・・・レコードに・・・」

「あ、タワレコ?何か買われたんですか?予約ですか?」


"言っていいものなのか?"
こんな答えは教科書や面接対策には載っていなかった。
芸能人と話した事のない私には答えが分からない。荷が重すぎる。
そう思ってしまってか、顔が引き攣りまくっているのが自分でも分かった。


「いや、その。嘘は良くないと思うので正直に言いますが」

その前置きをつけた後、話す事よりも話す内容に緊張しながら
妹がSNOWMANのファンでCD購入を依頼された旨を話した。

「え、ありがとう。俺、購入した人とこんなちゃんと話したことないかも」

ちょっとテンションが上がった様な口調に変わり
すごい嬉しい。と何度も言う彼を見て、
言っていいものなんだな、と私の脳内辞書に追加しておいた。


「すみません、買っておきながら殆どSNOWMANの曲をそんなに聴いたこと無いし、映像も見たことなくって」

良いですよー、まだデビューして1年しか経ってないですし。
そう明るく言われたが、先輩が薦めてくれたYouTubeで勉強しておけば良かった、と本気で後悔した。


「ちなみに今日は何を買われたんですか?」

尋ねられても答えが分からず、これですと5枚のCDをビニール袋から取り出し手渡す。

「お!最新じゃん!え、予約までして買ってくれてたんですね!」

はい。妹にしつこくせがまれて。
と妹を想い愛おしく言うと、
彼はCDを見ていた手を止め、こちらを真っ直ぐに見て
可愛い妹さんと優しいお姉さんだね、と首を傾げながら付け加えてきた。


・・・あ、ダメだこれ。
イケメンに、こんな事を言われて照れない奴がこの世に居るだろうか。
冷静を保とうとするが、頬が上がる事をやめられない。
相変わらず体温は上がり続け、寒いと思っていた背中が汗をかく程にまでなっていた。


ありがとうございます、と若干小さめの声で伝えると
彼は、そうそう、と思い出したかの様に付け加え、淡々と話し始めた。

「この間のホテルのお礼をずっとしたいと思っていたんです。
もし迷惑じゃなければ、俺たちの3rdシングルのCDあげようかと思ってたけど購入して下さったみたいだから、
もし良かったら1stシングルと2ndシングルの初回限定版あげましょうか?
たぶん、俺の家に余ってるし」



え?



その後に、
初回限定版って言うのはね、というジャニーズの常識と
きっと妹さんが喜ぶと思うよ、と添えられた。

そして
「今日寒いからもし良かったら使ってね」と
今使われていたであろうカイロをポケットから取り出し、CDを持つ手に被せる様に手渡された。


気づいた頃には、彼は私に対して良い距離感を保ったまま、敬語ではない言葉で話しかけてきていた。


私はというと、高揚した気持ちと耳と脳、そして手が追いつかず、いい意味で開いた口が塞がらなかったが、
私の心はカイロの温もりと同じ様な、ほっこりと落ち着く、心地の良い感情に変わっていた。




チョコレートに牛乳



2021年1月20日に3rdシングルが出たので、その時期ですね。

ちなみに
本文の妹推し「しょっぴー」は
渡辺翔太さんで、メインボーカル。
塩顔×美声となれば彼で、歌番組だとアップで映る事が多いですね。

「SNOWMANは知らないけど、阿部さん覚えました」
というような声があったのでお伝えしますが、
阿部亮平さんは
上智大学院卒の気象予報士の資格持ちの優等生で、バラエティーではクイズ番組に主に出演されてます。
努力家×空気を読む天才だと思ってます。

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