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アクセサリーを探して①

信号待ちして周りを見渡すと、
「あ、私、本当に東京に居るんだ」と心底実感できる。

周囲にある高い建物ばかりが私を見下ろし、イヤホンをしても車の騒音は消える事が無い。
信号待ちには大勢の人が並び、同じ方向に向かって行く人も居れば、違う人も、急いでる人も、マイペースに歩く人もいる。

似ている服装をしている人や、持ち物はそれぞれ違う為、
毎日一緒の通勤を繰り返す日々では、この人は駅行きとか、あの人は待ち合わせとかまで覚えてきた頃だった。



東京へ引っ越し。



ーーー2か月前

「あの」

信号待ちの今、そう声を掛けてきた一人の男が居た。


人一倍肝が据わっている私でさえ、
初めての東京で楽しみと不安と不安と不安が重なり、突然話しかけられたことに驚き、私ではないと思い無視してみた。

東京での初日は、洗濯機やら掃除機やらを買いに大型家電量販店に行き、
人の多さと、慣れない標準語に囲まれている事に息が詰まり、
全て後日郵送をお願いしてきた日で、

”家に帰っても、フライパンは無いから、コンビニで何か買うか”
そんなことを考えていた時だった。



「あの」

まさか、私に声を掛けてきているとは微塵にも思わなかったが、2回も声を掛けてきたので念のため返事をした。

「・・・え?あ、はい」

”今ちょうどサビのいいところだから聞きたいなぁ”と思いながら、片方だけイヤホンを外し、
話しかけてきた彼の顔を覗き見た。

”平日の昼間っからナンパか?”
そんなことを考えながら見た彼の見た目は
すらっとした高身長に、おしゃれそうな服を着て、黒の帽子を深くかぶっていた。

”うわ、トウキョウのヒトって感じの人だ・・・”
結構分かり易い顔をしてしまったが、マスクをしているおかげで助かった。


「・・・なんでしょうか?」

「これ、さっき落としてましたよ」

そう言われて手渡されたのは、「嵐」のストラップで、私がいつも鞄に付けていたものだった。

「え!!あ!あああありがとうございます!!!」

急な体温上昇に身体が付いてこず、目を見開いたと同時にちょっと大きな声を出してしまった。
恥ずかしくなった私が周りを見回すと、大勢の人がこちらを気にするでもなく、
イヤホンや車の騒音のおかげか、もしくは慣れているのか、気にも留められていなかった。

すみません・・・。
そう呟いてから

「本当に、ありがとうございます!」

そう彼にお礼を伝えた。

じゃあ、それだけなんで。
そう言われて、彼は真逆の方向へ歩いて行ってしまった。


”あ、信号待ちしていたわけでは無くて、追いかけてきてくれたんだ”
”あれ?東京ってもしかして、結構優しい街??”

そんなことを暢気に考えながら、
この切れてしまったストラップの修復を試みようと、ソーイングセットを買いに行った。




東京へ来て2か月が経ち、やっと行きつけのスーパーのポイントカードの作った頃だった。

有難いことに会社は定時上りが殆どで、
しかも外食を控えるようにと、親睦会も細々と1回した程度で、
精神的にも肉体的にも、思っていた以上に穏やかな日々を過ごしていた。


ただ、友人が居ない。


どうやって友達を増やすか。そんな事を考える日々で、地元が恋しくてならなかった。

毎日が会社と家との往復で
駅までの道のりで必ず止まる交差点に居る人は、話したことは無いが、何故か毎日見る安心感があった。
この人、最近見てなかったなーとか、待ち合わせの人の数が増えたなーとか
人間観察マニアの私は怖がられるだろうなと思い、話しかけないようにしていた。


「あ」

ふと声が出た。
平日の夜道、同じ交差点で信号待ちをしている私は、向こう側に見覚えのある黒色の帽子を深くかぶる男性を見つけた。

”あ・・・あの人だ”

そう気づいたが、声を掛けるのもおかしいかと思い、
いやでも・・・、と悩んでいると信号が変わっていた。

後ろから押されるかのように歩き出し、彼とすれ違う形になった。


声を掛けるか迷っていた時
目の前で”久しぶりだねー!”とハイタッチしながらはしゃぐ女性同士が現れ、
一旦その二人を避けて通る人だかりができた。

そのおかげか、
下を向いて歩いていた彼が、はっきりとこちらを向いたので会釈をした。


「あ」

彼の口元はマスクで見れなかったが、声が漏れていた。
私の事を認識している。
相変わらずの男性にしては高い声で、耳にすっと入ってくる。


「あの、この間は」

そう話しかけた時、「ここ、交差点だから、こっちに」

と指差し、私の行く方向へ戻ってくれた。


交差点を渡り終え、すぐに人が信号待ちをし始める。
それを分かってか、交差点から少し離れたしっかりと街灯や店の灯りがある路地で彼は立ち止まった。

振り向く彼を見て、相変わらずおしゃれな服装してるなと思ったが、
少し心配になるほどに細い体型を見て、
振り向きざまに骨が折れないか?と思っていた。

「嵐さんのストラップの子です、よね?」
そう言われて、そうですと応える。

「あの、これ、拾って頂いたので、まだ一緒に居れてます」
そう伝え、鞄の内側に括り付けているストラップを見せた。

「いいよ、大したことしてないですし」

「いや、そんなこと無いです。東京に来て初日で失くしていたらきっと、今頃やばかったです」

「初日?」

私が東京へ転勤になって初日だったこと、嵐は好きだけど
友達とのお揃いで貰ったやつだから大事にしていたことを伝えた。

「あ、なんだ。嵐さん好きだと思ってました」

「まぁ、テレビで見る程度でいい感じの好きです」

「そーなんだ」

「ほんと、だから、その、なんでもいいんで、お礼させて頂けたら・・・」

「え?いや、ほんと、本当に大丈夫ですから。気持ちだけ貰っておきます」

はっきりと断られたので、そうですかと一旦引く。
でも何となく寂しい気持ちになったので、めげずに話を続けてみた。


「あ、では、もし。もし、うちのグループのホテルを利用する時はご連絡ください」

そう言って、私は名刺を胸ポケットから取り出し手渡した。

「この間まで大阪に居たので、大阪のホテルなら大抵融通が効くので、遠慮せずに言ってください」

「え?ホテル?あー。はい分かりました」

名刺を見てすぐに合点がいったのか、納得していた。
嫌がったかもしれないが、受け取ってくれたことに関して嬉しく思い、胸を撫でおろた。
自然とマスク越しに口角が上がる。

「では、お礼だけ言いたかったので、これで」

そう伝え、
”最後まで目が綺麗なイケメンだったな”と改めて顔を見てお辞儀だけをし、
落ち着いた人だと感心しながら帰ろうと後ろを向いた時だった。


「あの」

はい?
次はすぐに反応できた。

「東京で、簡単に、知らない人に名刺なんて渡さないほうが良いと思います。これ、お姉さんの電話番号ですよね?」
そう言いながら彼は名刺をまだ大事そうに持ってくれていた。

「え?そうですね。でも社用携帯ですから問題ないです」

「あ、社用です・・・か」

「あ、私用のほうが良かったですか?」
なーんて。
そう軽口を叩いた後、ふふと笑い
いつでもご連絡お待ちしております。
と、現場で働いていたようにサービス業感丸出しで伝えた。


”まぁ、社交辞令だから連絡はしてこないだろう”
そう脳内で思いながらも、
お礼をきちんと伝えられたことへの嬉しさからか、家までの足取りが軽かった。




チョコレートに牛乳



次に続きます。

ちょっと長めのを書こうを決めましたが、
何を題材にと考えた時に、やっぱり私にはこれかな!となったので
こういう形にました。


全く考えずに書いてるので、どうなる事やら。

オチなしかも知れないという恐怖を抱えながら、次回も書きます。



p.s.
何度も校閲して下さった親友がいます。
ありがとうね!







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