わたしとインターネット
1999年。
初めてインターネットに触れた時、まるで一気に世界が広がったような気がした。まだ10代の学生だった自分には、それまで身の回りの小さな世界と本の中の遠い世界しか存在していなかったのだけれど。インターネットというのは、そのどちらでもない中間にあるような世界だった。
身の回りでは出会えないような、様々な年代の様々な考え方の人達の発信した個性溢れるあれやこれやがそこかしこにあって。かといって、それは本の世界程に遠くはなくて。この新しい世界に夢中になるのに、時間はかからなかった。
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当時はWindowsのパソコンを買うと、MSチャットというMicrosoftのチャットツールが標準でインストールされていた。先にパソコンを使い始めた友達がアバターを使ったチャットを楽しんでおり、「知らない色々な人達とお喋りをするのも面白いよ」と話していたのを思い出して。色々なサイトを覗いてみるだけでなく、このチャットというものにも手を出してみることにした。
MSチャットではルームを作って待っていると、出入り自由なそこに色々な人がアクセスしてくる。
その仮想上の自分の部屋に入ってくる人達には。男性もいれば女性もいて、学生もいれば社会人もいた。毎日同じ名前で部屋を開いていると、そのうち常連といえるような人々も出てきた。下は中学生から上は30代まで、男性もいれば女性もいた。テレホタイムの始まる夜11時を過ぎると誰ともなく集まり始め、何ということもないお喋りを眠くなるまで続ける…環境が変わるまで、そういう日々が2~3年続いたように思う。
おすすめのサイト、好きな音楽、ネカマの存在と見分け方、バイトの経験談、恋愛相談、学校の話、ネット用語やネチケットやアングラサイトについて…毎晩毎晩よくも話題が尽きなかったものだ。
そのうちの何人かとは、直接会った。パソコンなんてレポートを書く時と調べ物以外では開かない、そういう実生活での友人達には「ネットで知り合った人と会うなんて信じられない」という顔をされたけれども。年単位で日々やりとりをしていた相手だ。悪い人は誰もいなかったし、嫌な思いもしなかった。
でも同じ日々は何時までもは続かない。
学生生活の終わる最後の1年に実家を出てからは、同じくひとり暮らしの友達と近所のカフェに入り浸るようになったせいかチャットは辞めてしまった。色々な年代の色々な職業の人がふらりと集まり常連同士でお喋りを交わすそこは、現実にあるチャットルームのようなものだったからかもしれない。
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今もネットに触れてはいるけれど、もうあの頃のような濃い繋がり方はしていない。SNSでだってお互いに顔を見知っている人と距離をもって繋がるか、相互フォローしているうちにお互いを緩やかに知りつつも踏み込みはしない繋がり方か、または相手の発信するものをただ享受する一方向的なものかで。あんな風にどっぷりやり取りをすることはない。
今となってはあのルームは、前世紀の夢か幻だったかのように思える。
スマホどころか写メが出来るか出来ないかだった20世紀の終わりには、YouTubeなんてものもなく。ネットで発信する人もまだ限られていて、今よりずっと便利なサイトもツールも少なくて、BlogやSNSのように手軽に発信したり繋がったりできる媒体も無かった。
だけれども、すこぶる楽しかったように思えるのは何故だろう。未知に触れ、知らない誰かと繋がって、ネットはリアルとはまた違う自分自身でいられる場所のように感じていた。
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しかしいつの間にか、その風景は変わってしまった。
今のネットはリアルと地続きだ、以前よりもずっと。もはやそこは土管のある空き地などではなく、店舗が立ち並び人々が往来する半公共の場所になっている。良い悪いという話ではなく、ただ形を変えてしまったのだ。
もはや初めて訪れた時の遊び場は存在しない。それでもまだ、相も変わらずここにいるのは。通り過ぎた日々も現在も、此処インターネットが最高の遊び場だという事実は変わらないからだろう。
これまでもこれからも、自分はただ変わらず遊んでいたいのだ。
この独特の空間で。
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ちょうどタグにぴったりの下書きがあったので、引っ張り出してみました。熟成1年物。
自分にとっての「はじめてのパソコン」はこれよりさらに10年前。父が職場から持ち帰ったフロッピーでは無くカセットを入れて使う化石のようなパソコンで、シンプルなスロットゲームができました。その後フロッピーまで進化して、ぷよぷよや信長の野望やパズルトピアで遊び倒した思い出。ネットのない頃から、自分にとってパソコンは最高の玩具なのです。
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