食いしん坊の神様
とてもお腹が空いている、しかし美味しい物しか食べたくない。
が、土地勘のない場所にいるので店のアテがない…
そんな時、どうするか?
自分の場合は、神頼みだ。なんて非科学的な…と思われるかもしれないが、これがなかなかに有効な手段なのだ。少なくとも自分にとっては。
数年前に初めて京都に一人旅に出たとき、夕暮れ時に街中を歩きながら困り果てていた。疲れ切ってよろよろでバテバテで…空腹過ぎて今にも倒れそうなのだけれど、食事の気分ではないと舌が主張する。というか、甘いものしか口にしたくないと言い張る。さらに食い意地が張っている為、美味しい物しか食べたくないんだと重ねて主張してくる。
でもここは旅先。しかも初めての土地、店の当たり外れの見当もつかない。
仕方が無いので「美味しい物が食べたいんです!!」と心の中で神様に全力で主張して、足の向くまま気の向くままに歩き始めた。ふらりふらりと歩き続けて、大通りを外れて路地裏を通りがかったときだ。クレープの専門店という看板が、ふと目にとまった。
路地裏のカウンターしかない小さなお店、なんとなく敷居が高そうだ。知らない土地の知らない場所で、知らないお店というのにも…なんだか緊張してしまう。入っちゃおうかな、どうしようかなと逡巡しつつ。心を決められず、1度はお店の前を通り過ぎた。けっこう小心者なのだ。
しかし食いしん坊の勘が妙に騒ぐ。「ここは…良いお店な気がする!」という予感が、怯む心を叱咤してくる。うん、迷っていてもしょうがない。空腹がピークに達したこともあり、えいやっと心を決めてドアを開けて店に入った。
入ってしまったからといって、あっさりドキドキがおさまるものでもない。カウンター5席というこぢんまりとした店構えに、そして予想外に格好良かった店主さんにますます緊張感が高まりつつ…とりあえず席についてメニューを眺める。
そうしているうちにも、ふわりと甘やかな匂いが漂ってくる。その香りにお腹も気分もどんどんワクワクしてくる。うわここ、絶対美味しいお店だ…そんな予感がますます高まる。
期待に胸を弾ませながら、悩みに悩んで決めたのは。
煮バナナと自家製キャラメルのクレープ。
インスタ映えしそうなクリーム盛り盛りフルーツどっさりのスタイルではなく、見た目はとてもシンプルで。しっかりとキツネ色に焼かれたクレープ生地が見えるのみだ。
だけれども、ナイフで切って口に運ぶと…ああ、なんて美味しいんだろう。生地の間にそっと挟まれた、酸味のあるとろりんバナナにキャラメルのどっしりとした甘さのコラボレーションが疲れている身体にしみいるようで。あっという間に、幸せな気持ちでいっぱいになる。
そんな気持ちがそのまま顔に出ていたのだろうか、お店の常連さんらしき女性が笑顔で告げてくる。
「ここは京都で1番美味しいクレープが食べられる店よ?フランス人を連れてきたら、本場より美味しいって言うんだから。偶然入るだなんて、京都の神様に愛されてるわね!」と。
どうやら先ほどの切実な願いは無事に聞き届けられたらしい、と彼女の言葉から知れた。さすが多くの神々がおわす京都、街中から発した願いだったけれども優しいどこかの神様が拾って下さったようだ。
京都にはちゃんと神様がいるのだ、それも食いしん坊の神様が。
そう確信した出来事だった。
★☆★ギャルソン クレープ★☆★
この時は河原町の辺りにあったけれど、翌年に八坂神社の近辺へ移転されたようで。また食べに行きたい…。
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