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書評 #38|ルカ・モドリッチ自伝 マイゲーム

 レアル・マドリードとクロアチア代表で活躍し続ける、ルカ・モドリッチ。三五〇ページを超える彼の自伝を通し、「モドリッチがモドリッチである理由」の断片を理解できた気がする。

 世界でも稀有な存在。それは間違いない。しかし、リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ネイマールといった「頂点の頂点」に位置する選手たちと比べ、どうしても華やかさに欠ける印象を受けてしまう。それは単純な見た目によるものかもしれないし、得点に直結しないポジションのせいかもしれない。しかし、僕が抱いてきた印象は変わらず、そこに絵の具の一滴が差すように、その印象は本著を通じて彩りを増した。

 冒頭に差し込まれた少年時代の写真の数々。その頃からモドリッチはモドリッチだった。俊敏な動きを最大限に生かしたドリフトのように鋭利なドリブル。語られる、山岳地帯での生活と空襲を受ける壮絶な環境。ストリートサッカーで鍛えられた肉体。そして、絶大なる家族との絆。小柄な体躯には似つかわしくない、力強さと頑強さを彼は持ち合わせている。そして、華やかさと実効的なプレーはとても雄大だ。彼は間違いなく「タフ」なサッカー選手である。それらは彼の原点と強く結びついていることを感じずにはいられない。

 モドリッチはサッカー界の階段を駆け上がっていく。もちろん、怪我や批判などの挫折も経験する。しかし、語られる彼の言葉から「むら」のようなものを最後まで感じなかった。モドリッチは継続性の象徴だ。地道に、黙々と。小さな肉体は懐疑的な眼差しを向ける多くの人々にとって格好の的となった。しかし、彼はその時々のライフステージで成長し、人々の猜疑心を賞賛へと変えてきた。

 ベールに包まれた選手の視点。それも本著の大きな魅力だ。クロアチア国内、トッテナム、レアル・マドリード。モドリッチの移籍は多難であり、想像しかできなかった移籍の困難さを体験しているような感覚を覚える。

 そして、選手や監督との関係。ジョゼ・モウリーニョ、カルロ・アンチェロッティ、ジネディーヌ・ジダン。数々の名将たちに仕え、彼らがモドリッチに注いだ信頼と紹介される対話はサッカーに限らず、一つ一つの人間関係が作る組織運営の難しさと素晴らしさを同時に語る。

 そして、モドリッチによって語られる数々の大舞台。国内のリーグ戦。チャンピオンズリーグ。そして、ワールドカップ。レアル・マドリードが十回目の戴冠を果たした、リスボンでのラデシマ。僕は観客であり、モドリッチはその舞台の主役だった。彼の情感にあふれた言葉は僕の記憶を蘇らせ、新たな色をもたらす。

 本著はたゆまぬ努力に支えられた栄光の物語である。しかし、それだけではない。ここにはルカ・モドリッチの純粋な愛情が描かれている。家族とサッカー。そして、自分自身への。その愛情がなければ、その栄光は成し遂げられなかっただろう。その愛情が土台にあるからこそ、彼は多くの重圧や痛みに耐え、新たな扉を開き続けることができたのではないだろうか。多くの読者に努力と愛の物語を体感してもらいたい。


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