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書評 #78|探花 隠蔽捜査9

 爽快感とともに一気に読み通した。今野敏が紡ぐ小気味良い文章は背中を押す風のようだ。その風に乗って『隠蔽捜査』シリーズの主人公である竜崎伸也が『探花 隠蔽捜査9』でも存分に個性を発揮し、事件の解決に主導的な役割を担う。

 活躍もさることながら『隠蔽捜査』シリーズは竜崎の成長の物語でもある点が読者を魅了する。警視庁と神奈川県警の違い。昇進したことによって生まれた役割の違い。不器用な真面目さが印象に残るが、未知を学びと捉えて成長へとつなげる姿に真摯な人間性が垣間見える。

 竜崎は完璧ではない。しかし、それを自覚しているからこそ、原理原則を軸とした裏表のない人格が道を作り、周囲の信頼や評価を引き寄せる。そんな明瞭な人間と複雑な組織と社会との対比や掛け合いが痛快であり、面白おかしくもある。

 本作で竜崎は日米地位協定に踏み込む。彼の原理原則を国境も妨げることはできない。そして、神奈川を起点に彼の影響力は福岡、千葉、東京へと拡大していく。
 
「迷惑がられようが何だろうが、やるべきことはやらなければならない」
 
 この言葉に竜崎と『隠蔽捜査』シリーズの魅力が凝縮されているように感じる。舞台の大小は関係なく、竜崎が新たに活躍する姿を一刻も早く見届けたい。涼風が全身を駆け抜ける体験が待ち遠しい。


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