密かな習性

夫が着た寝巻きのTシャツの匂いが好きだ。
いい匂いというものとはまた違うように思うが、例えるなら乳白色の甘くないおまんじゅうみたいな匂いがする。
私は家に一人でいるときは、夫の寝巻きのTシャツを肩にのせて行動したりする。
台所やトイレに行く時も、そのTシャツをのせている。
休日の午後、リビングのソファーに寝そべりながらなんとなくテレビをつけ、Tシャツをお腹の上にのせてうとうとしている。
冬にはそれが、ふわふわしたフリースに変わる。
丸まったフリースに手のひらをのせて呼吸していると、何かの動物と一緒にいるような気分になる。
私の呼吸に合わせて少しだけ動いて見えたりして、ひっそりと息をしているような気さえする。
たまに、一人で実家に帰る時もそのTシャツをこっそりタオルに包んで鞄に入れている。
前にそんな私の姿を夫は、昔実家で飼っていた犬のようだと言っていた。
私は昔祖母の家にいた雑種の柴犬みたいな犬を思い出していた。
薄茶色の毛を撫でてやると、目を細めて丸まって眠たそうにしていた。
外にある犬小屋のなかには、丸まったベージュの花柄の毛布があり、いつも毛布のそばで寝ている姿は、犬が2匹互いに寄り添っているみたいだった。
ふいに思い出して、なんとなくその光景が自分の記憶に残っていたことがうれしく、いとおしくなる。
もし、昔の記憶に戻れることになったら、その犬も毛布も同じように撫でてあげたいと思った。
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