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リハビリテーションに大切なFACTFULNESS

とても長い本でした。大切なお話ばかりでした。

理学療法士は数字が大好きです。「エビデンス」という、うっとりするような言葉に魅了されて、それで全ての患者様が救えるような言い方をされる方も多くいらっしゃいます。
だから「それって若年層に限ったことですよね?」とか「そんなn数で本当に信頼できますか?」とか水を差すような指摘をするのも大好きです。特に私は、笑。

でもこの本に書いてあるのはそういうことじゃありません。どんなに頭のいい人でも、ドラマティックなものが大好きだから、何者にも左右されないチンパンジーのほうが優秀な結果を出せるのです。

FACTFULNESSは「理系的な見方」とも少し違った様相を呈しています。私が理系代表のようなことを言ったら、それこそ世界中のチンパンジーに怒られてしまいそうですが、FACTFULNESSは単に数字を数字として捉えて未来を悲観するのではなく、その前後左右を見なさいよ、というメッセージが隠れているように思えます。「見え方」というよりは「感じ方」との付き合い方を教えて下さる1冊です。

本の最後にFACTFULNESSの大まかなルールがありました。それらをリハビリテーションに従事する私たちが惑わされそうなものに置き換えてみます。



1 分断本能を抑える

大切なのは「分断」を示す言葉に気づくこと。
大半の人は中間部にいる。がん患者も予後予測を見たときに、最も短く死ぬ人と最も長く生きる人の間に多くの人がいる。注目すべきはそれぞれにどのような特徴があるか、極端な数字の比較になっていないか。


2 ネガティブ本能を抑える

大切なのは、人はネガティブなニュースのほうが圧倒的に耳に入りやすいことに気づくこと。
がん患者の予後予測のグラフを見たとき、10年前のそれと比べたら予後年数自体がずっと長くなっているはずだ。「悪い」と「良くなっている」は両立する。そして「良い出来事」「ゆっくりとした進歩」はニュースになりにくく、悪いニュースが増えたらからと言って悪い出来事が増えたとは限らない。これは多分、数字に限ったことじゃなくて人の噂も一緒なのではないかと思う。


3 直線本能を抑える

大切なのは「グラフはまっすぐになるだろう」という思い込みに気づくこと。
グラフには様々な形がある。片麻痺患者の麻痺の改善具合が6ヶ月を過ぎると直線になることは良い例。ただこれに関しては賛否両論あるので、要注意。「悪い」と「良くなっているは両立する」ことも忘れないようにしたい。


4 恐怖本能を抑える

大切なのは「恐ろしいものには自然と目がいってしまう」ことに気づくこと。
片麻痺患者の麻痺の改善具合がプラトーになってしまうことは治療される側もする側もどちらにとっても恐ろしい。でも腕の良い人たちの話を聞くとそうでもないみたい。
それからリスクは「危険度」と「頻度」、「質」と「量」の掛け算で決まる。施設での転倒が急に増えるのは恐ろしい。管理者は現場のスタッフを責め、現場スタッフは疲弊して意欲を失うだろう。これはとても「恐ろしい」状態だけど、リスク=危険度×頻度だということを忘れてしまうと物事を正しく見られない。対策を立てる前に落ち着くことが必要だ。


5 過大視本能を抑える

大切なのはただ一つの数字がとても重要であるかのように勘違いしてしまうことに気づくこと。数字を単体で見てはいけない。10m歩くのに20秒かかってしまう人は、先月は何秒かかったのか、少しは良くなっているのか。はたまた1年前は?1年前から20秒かかっていたなら、介入すべき点は歩行速度だけではないはず。大きな数字はそのままだと大きく見える。


6 パターン化本能を抑える

大切なのは分類を疑うこと。脳梗塞患者の10年生存率を見て驚いた経験はあるんだけど、もっと驚いたのは生存率自体が低いこと(2割程度だったかな)。リハビリテーションが始まる段階の方ばかりと会っているから、そう言う感覚はなかったのだけど、反対に言うとその2割の方の再発リスクは更に高い、だから生存率も下がっていく。でもこれは年齢やその他の既往にも関わってくること。もうすでに、「強烈なイメージ」に注意しなくてはならない。


7 宿命本能を抑える

大切なのは、ゆっくりとした変化でも変わっていることを意識すること。装具は10年前から金属製で重いものばかりだし、見栄えもなんだかカッコ悪い。着けたくない、と言うクライアントの言うこともすごくよくわかる。でも、少し新しいカタログをめくってみると随分、違って見える。20年前から装具を使っている人(セラピストでも患者さんでも)に話を聞くと、選択肢は増えている。少しずつ、変わっている。
※ただ「変わっていない」と信じ込んでいるおじさんもいるから要注意、笑。


8 単純本能を抑える

大切なのは、ひとつの視点だけでは世界を理解できないと知ること。「知らないことがある」と謙虚に認めよう。何かひとつの道具がきように使える人は、それを何度でも使いたくなるものだ。あなたの大好きな治療手技だけで、全てのクライアントは救えない。
そして数字だけに囚われてはいけない。評価数値はちっとも良くならないけど、変わるものだってある。笑顔が増えた、も立派な効果。


9 犯人探し本能を抑える

大切なのは誰かに責任を求めるくせを断ち切ること。機能が上がらないときに、責めるべき人やアプローチを探してはいけない。その状況を生み出した、絡み合った複数の原因やシステムを理解することに力を注ぐべき。
そして上手くいったときも、「自分のおかげ」ではなくて、どうしてその仕組みが機能したのかに目を向けよう。


10 焦り本能を抑える

大切なのは「今すぐに決めなければならない」と感じた時に、自分の焦りに気づくこと。クライアントがちっとも良くならないのはアプローチのせいだけじゃない。「焦り本能」が顔を出したときは、その他の情報を手に入れよう。緊急で重要なときはデータを見よう。このまま悪くなる、と言う不安は捨てて不確かな予測を疑おう。未来が最高のシナリオと最悪のシナリオのふたつだけでないことに注意して、小さな一歩を重ねよう。




と、手前味噌ではありますが私自身が普段の仕事で感じる「リハビリテーションのFACTFULNESS」をまとめてみました。この本は誰もがああ、そう言うことあるよなぁと普段の自分を振り返れるとても素敵な1冊だと思います。

世界の見方を変えてくれて、それもちょっとだけ優しい見方に変えてくれる、そんな内容かと思います。ぜひ、たくさんの人に読んでほしい1冊です。



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