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安身之地ーーあなたは、どんな「ただいま」を経験してきたのだろうか

(961字・この記事を読む所要時間:約2分 ※1分あたり400字で計算)


【安身之地】

ピンイン:ān shēn zhī dì
意味:身を置く場所。生活や暮らしのよりどころとなる場所。

『あなたは、どんな「ただいま」を経験してきたのだろうか』

 私にとっての「ただいま」。
 
 それは一時、行き場のない隅に追いやられることだった。
 冷たさに放り込まれることであった。
 
 
 支離滅裂だった。
 油断すれば、怒鳴り声に押し潰された。
 気を逸らすことなく、一人ぼっちを思い知らされた。
 息苦しかった。
 
 帰り道に遠くから自宅の窓に明かりがついているのを見ると、泣きそうになった。
 
 家の中で名前を呼ばれただけで、震え上がった。
 
 
 逃げ出す勇気でさえも、殺されかけた。
 こんな日々を辞めようと思っても、頭を下げて言うことを聞くことだけが、自分の生活を維持出来るものだと思い込んでいた。
 
 
 追い出されるまでは。
 
 
 あの日、ありったけの荷物を背負って、私はあの場所を出た。
 
 薄給で賄える範囲でやっと借りられた部屋は、狭くてかび臭くて、音漏れがひどい安アパートの一室だった。
 
 
 でも、その日から私にとっての「ただいま」が変わった。
 
 
 帰宅しても、もう急に大声を張り上げる人はいない。
 もう暴言を吐かれない。
 熱を出して寝込んでも、もうたたき起こされて「飯を作れ」なんて言われない。
 
 自分以外の誰かの気まぐれによって、振り回されることもない。
 
 
 自立してからの「ただいま」。
 
 それは、私のわがままを、私自身が満足してあげられる世界に入ること。
 理想のリズム通りに奏でた暮らしを繰り広げること。
 
 自分色だけで固めた、私だけの「城」に守られることだ。
 
 
 「ただいま」
 
 上記4文字を目にした時、あなたはどのようなイメージを思い浮かんだのだろうか。
 
 
 心いっぱいに広がる安らぎか。
 家族で囲む食卓か。
 雑音だらけの世界から逃げ切った、心静まる静けさか。
 ぬくぬくと力を抜けて楽しむ、誰にも邪魔されることがない時間か。
 
 「ただいま」とは安全基地、回復の場に戻ることだ。
 私が私でいられる、そんな空間に入ることだ。
 
 
 あなたは、どんな「ただいま」をイメージしただろうか。
 どんな「ただいま」を、実際に経験してきたのだろうか。

 
 それは、暖かかったのだろうか。
 
 
 今の私は、「ただいま」で思いっ切り羽を伸ばせる。
 
 呑気に寝転がって、部屋いっぱいを大好きなモノ達で埋めて。
 
 
 そして、ふとした瞬間にポツリとこう願うのだ。
 
 「いつか、私だけの家、私だけの家族を持とう」と。

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