宇宙人ビンズと宝石人の洞窟

この物語は、惑星テコヘンがありとあらゆる星々を調査するために結成した「惑星調査団」に所属する能天気な宇宙人ビンズと、その友ベーリッヒの活動報告である。

諸君、元気かい?惑星調査団のベーリッヒだ。私はすこぶる元気だ。もちろん、我が友ビンズも元気だ。彼は今宇宙船のモニターでビデオとやらを見ている。また闇市で仕入れてきたビデオか。内容は探検家が遺跡を掘り当てて宝を探すというものだ。おい待て、その類を見てるということは、お決まりのパターンだな。彼が何かに興味を持つ、すなわち私も彼に付き合わなければならないのだ。彼はドクロマークのついたバンダナを頭に巻き、ツルハシを手に持っている。公務員が異星人の発掘に触発されるんじゃあない。どうやらビデオの様に何かを発掘したいようだ。仕方ないので手頃な星に移動して穴でも掘らせよう、そう考えた。私は近くにあった惑星クタルに座標をセットする。


惑星クタル、危険度D指定の比較的安全な星だ。宝石資源が多いと昔話題になったが、すぐに音沙汰なくなった星だ。無人の惑星だ、ここならどこを掘っても文句を言われる事はないだろう。こらビンズ、宇宙船出て早々に穴を開けるんじゃありません。私はビンズを引き連れ近くの洞窟の入り口を機械でスキャンする。生命体反応なし、そのかわり特殊なエネルギーが出ている。人体に影響はなさそうだが、データがないな。少し不安を抱えつつも、探検家ビンズはお構いなしに進んでいく。私もやれやれと思いつつ後を追う。


洞窟を何分か歩くと、幻想的な世界が広がっていた。洞窟の地面や内側は青色に輝き、よく見るとより光る宝石の様なものが辺り一面に散らばっている。ビンズはツルハシで地面を掘り、いくつもの大きな青い宝石達を拾い始める。思った以上に多いな。成分を分析すると、やはり特殊なエネルギーが放出されている以外は宝石と変わらない。これだけサンプルがあれば、調査団として良い報告もできるだろう。私もビンズと共に宝石を拾う。しかし拾っているうちにちょっとした疑問が浮かぶ。なぜ誰も拾いにこないのだろうか。掘り尽くされてから人が来ないのはわかる、だが有り余っているほどの宝石、なぜ誰も取りにこない?そう考えている一方で、ビンズが宝石を山にしその上に座りコーラを飲んでいる。やりたかったんだろうなぁ。その時である。ビンズが乗っていた宝石の山は突然崩れ、ビンズはその山に埋もれる。その上から、信じられない生き物が現れる。青い宝石の体を持ち、手足があっても顔はない。体の中心には赤い心臓の様なものが僅かに光っている。おぞましい生物を見た私は光線銃を引き抜きその生物を攻撃するが、光線は反射し全くびくともしない。そんな馬鹿な、どうして効かないんだ。するとビンズが宝石の山から這い出て、光線銃を生き物に向け発射する。だが、ビンズの巧みな射撃能力をもってしても歯が立たない。流石のビンズも冷や汗をかいている。すると、宝石の生き物達が何体か洞窟から出てくる。私はビンズに腕を引っ張られて洞窟の奥へ逃げ込む。


危ないところだった。どう考えても危険度BかAクラスの生き物達だろう。物凄く巨大な生き物というわけじゃない、我々の2倍くらいの大きさだった。なのに光線銃を当てても無傷、それが何体もいる。幸いなのはあちらの攻撃手段が手足を使った攻撃のみである事か。我々は宝石の少ないいわばの陰に隠れていた。するとビンズは写真を何枚か私に渡してきた。見ると異星人のメス達の顔が写っていた。ビンズは間違えたと言って写真を取り上げる。おい待て、今のは何だったんだ?何でも次の合コンで会うメス達らしい。うるせぇ。しかしビンズはもう一度写真を見せてくる。それは先程の宝石の生物の写真であった。あの戦いの最中撮ってくれていたのか。あの時は生き物のスキャンどころではなかったからな。こういう所はビンズにいつも感謝できる部分だ。写真を見ると、最初に我々を襲った生物、その他の写真を見比べると、姿形が明らかに違う事がわかる。体の性質や赤い心臓らしきものがある点は共通している。それ以外は骨格が違うのだ。我々と同じサイズの生き物もいれば、背の高い生き物もいる。今見ているこいつに関しては手が4つもある。私は1つの仮説を立てた。先程の生物は、元は違う生き物なのではないかと。何らかの変化であの様な姿になってしまったのではないだろうか。そして鍵となるのが、この宝石達だが、他にも情報がいるな。その時、向こう側から誰かの悲鳴が聞こえた。


急いで駆けつけると、先程の様な広い場所に出た。宝石達が散らばり青く輝いている。そして先程の生物たちがガスマスクをつけた異星人達を取り囲んでいた。どうやら、宝石を狙ってきた宇宙海賊かなんかだろう。そして生物達は異星人の口をこじ開け手からジャラジャラと宝石を無理やり詰め込む。体に無理やり宝石を詰め込まれた異星人はボコボコと体を変形させ、辺りに散らばる宝石はその異星人の足から這い上がり取り付いていく。異星人は次第に周りの宝石を取り込みやがて1つの生物へと変貌する。体が宝石で出来ており、手足はあっても顔がなく、体の中心には赤い心臓の様なものが僅かに光っている。私とビンズは確信を得た、これを食べると、ああなると。次々と異星人達が宝石の生物にされる場面を見ながら、私とビンズはゆっくりと後ろに下がる。お互い近づいてはならぬと頭でわかっているのだ。だが、地面の音を完全にかき消す事は出来なかった。音を聞いた生物達はこちらを見て、一斉に襲いかかってくる。先程よりも素早くこちらを狙っている。我々は勢いよく走り出し、出口まで向かう。

生体反応が無い生き物に追われている、そんな話があってたまるか!我々は一刻も早くここを出てこの事を報告しなければならない。これ以上犠牲者を出させてなるものか!惑星調査団の意地にかけて!すると横でビンズが手榴弾のピンを引き抜き、生物達に放り投げる。思い切り爆発し、やったかと思ったがやはり無傷で追いかけてくる。しかし、爆発のショックで洞窟が崩れると、生物達は岩の下敷きになる。やったぞ、もうすぐ出口だ。追いかけてくるやつはいない。洞窟の明かりが見えたその時、それは現れた。先程の生物達とは明らかに覇気が違う。大柄の体に、宝石で出来た長い刃が手に付いている。光線銃が効かないのに、奴は武器を持っている。ダメだ、強行突破しようにも思った以上に大きい、あんなもの一振りされた瞬間にこちらが真っ二つだ。するとビンズは何を思ったのか生物に向かって走っていく。生物は思い切り横に刃を振るが、ビンズは宙返りし攻撃を回避する。アクション映画顔負けのスタントだ。そしてビンズは生物の膝にロープを巻きつけ別の岩場に括り付ける。生物は立ち上がりビンズに襲いかかるがロープのせいで転んでしまう。ロープを切れば良いものだがそれ程までの知性は持ち合わせていないらしい。ビンズは私を手招きし、私は彼のいる方向へ走った。


我々はやっとの思いで入り口付近にたどり着くが、後一歩のところで先程の巨大な生物が仲間を引き連れ再び追いかけてくる。我々はさらにスピードを早めようやく外に出る。すると、生物達がもがき始め、赤い心臓の様なものを守る様に洞窟へ帰っていく。生物達が帰っていった瞬間、今度はビンズが叫ぶ。何事かと思ったが、集めていた宝石達がゆっくりではあるがどんどんと黒く朽ち果てていく。そうか、この宝石は日光に弱いのか。なるほど、危険度D指定に認定される理由がわかる。あいつらは日光の下じゃ生きていけないのか。ビンズは黒くなった宝石を捨て涙目になりながら私と宇宙船に帰っていく。しかし、宝石のサンプルを一つだけ、密閉されたカプセルに入れている事はビンズには内緒にしておこう。


我々は宇宙船に戻り、宇宙に飛び立った後あの宝石について話し合う。あの宝石の発するエネルギーは人を宝石の生物に変化させる。しかし何故あの様な生物が多く生息しているのかは私にはわからなかった。だが、ビンズはこう答えた、きっと洞窟で迷った者があの宝石を食べたのだと。そして生物になり、洞窟へ来るものを襲っては仲間を増やしていくのだと。我が友はたまに確信を突く。そして友はこうも言った、きっと洞窟の奥には宝石の親玉がいると。だが、お互いそれ以上は語らず、あの洞窟には2度と近づかないと決めた。


調査報告

惑星クタルに宝石人の住む洞窟を発見及び危険度B以上の生物を確認。持ち帰った宝石サンプルを元に惑星の一部区域の危険度調節を行うよう上層部に通達するものとする。



宇宙人ビンズと宝石人の洞窟 〜完〜



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