宇宙人ビンズと虹色果実

この物語は、惑星テコヘンがありとあらゆる星々を調査するために結成した「惑星調査団」に所属する能天気な宇宙人ビンズと、その友ベーリッヒの活動報告である。


どうもこんにちは、惑星調査団のベーリッヒだ。今日はすこぶる機嫌がいい。何故なら我が友ビンズが日頃の感謝を込めて私に酒を振舞ってくれるらしい。宇宙船の中はほぼお洒落なバーへと改造され、ビンズはスーツを着てカウンターでシェイカーを振っている。これ戻すとき手伝わないとダメだよな。ビンズは果物の果汁をグラスに注ぎ、酒と混ぜ合わせる。そして出来たカクテルは私に手渡され、それを飲む。さっきからこの繰り返しだ。彼曰く素材にこだわっているらしい。確かに、高そうな果物ばかりだ。そしてなぜかこいつの腕も良い。練習したんだろうが、その分の労力をたまには仕事に費やして欲しいものだ。一通り振る舞われた後、彼は古い新聞の記事を私に見せてくる。内容は虹色果実、豊作というタイトルだった。惑星ジュウシィで育つ虹色果実、その名の通り虹色の果実だ。だが、ただ虹色というわけではなく甘さも凄まじいらしい。その濃厚さ故に果汁一滴で1年甘味がいらないとまでされている。胡散臭い、1年以内に絶対甘いもの食べたくなるって。もう30年以上前の記事じゃないか、どこから持ってきたんだ?それに、ジュウシィ星人が今もこの果実を管理しているとは思えない。私は今回はやめようと申し出たが、私に何かを手渡してくる。領収書だ、つまりなんだ、飲んだ分を支払えと。しかもまぁまぁ高い。ビンズはいう、一緒にジュウシィに行こうと。ぶん殴りてぇ。私は渋々、彼の果実探しに付き合うことにした。


惑星ジュウシィ、甘ーい果物がいっぱいある惑星と覚えておいてくれればいい。ジュウシィ星の人間は背が低くいつもニコニコした連中だ。基本果物ばかり育てては他の星に売っている。だが、彼らが育てなくても惑星自体が果物で溢れかえっているため、まさに収穫し放題の星なのだ。とある部分を除いての話だが。正直私はこの星に来たくなかった。理由としては危険度Aの星だからだ。我々のいう危険度Aは、簡単にいえば大勢死人が出ることを意味する。惑星調査団の中にもこの星に来て殉死した者がいるほどだ。ジュウシィ星人が管理する安全地達を除けば魔の巣窟に等しい、それ程までに危険な生物がひしめいているのだ。住む環境が良ければ、その分そこに住む生物も大きく多く育つというわけだ。私とビンズは宇宙船でジュウシィに降り立った後、麦わら帽子を被りジュウシィ星人と話をする。ジュウシィ星人は我々を歓迎し相変わらずの笑みを浮かべてこの星のルールを聞く。安全地帯で手に入る果物は収穫した際、その分の金を払わなくては外部に持ち出す事はできない。なるほど、管理はきっちりされているようだ。このルールを敗れば生きては帰れないと、私の右斜め向こうの看板に書いてあるほどだ。だが、ジュウシィ星人が管理していない、いわば危険地域に指定されている場所の果物はお金を払わなくても収穫し放題。そのかわり危険生物の餌食になっても一切保証はしないという。長い説明を受けてどちらを選ぶか、どう考えても我が友は危険地帯に行こうと考えるだろう。なんか、収穫し放題の部分を聞いて隣で興奮しているやつがいるのだ。ビンズがジュウシィ星人に虹色果実の場所を聞くと、向こう側の山の頂上にあると指を差し教えてくれた。本当だ、高く幅の小さい山がある。意外なものだな、そういうのは教えたがらないと思ったが。だが、山にはそれを守る番人がいるという。それでもいいなら取りに行けばいいとジュウシィ星人はいう。なるほど、聞いた通り自己責任というやつか。ビンズはジュウシィ星人が示した場所へ向かう。私は嫌々その後を追う。


しかし驚いたものだ、道中果物と化物しかないぞ。ビンズは前進し光線銃を撃ちながら獣達を一掃しつつ果物を頬張っている。私も走りながら果物をもぎ取り機械でスキャンしてから食べる。ビンズ、ひとまず安全が確認出来た奴から食えばいいのに。するとビンズは近くにあった茂みの中に隠れ、数分後に出てきた。ほら言わんこっちゃない。知らない土地の買い物を食い漁るからこうなる。ビンズは流石に反省したのか、私が確認した果物しか食べなくなった。


道中巨大なダンゴムシやカナブン、モグラなんかに襲われたが、なんとか山の目の前まで来ることができた。なんか、急に静かになったな。さっきまであんなにいた生き物達はどこへやら。ビンズは藁の籠を背負い山に近づいていく。私も山を機械でスキャンするが、生体反応はない。なんだ、番人とやらは近くにいないのか。我々は山の中に入り頂上を目指す。


なんだ、生き物が1匹もいないじゃ無いか。ただ高いだけの山だ。山の頂上目前、木も無くなりそこには平原と畑の様なものが広がっていた。誰かいるのか?相変わらず生体反応はないが、ひとまず畑が怪しいな。我々が畑に近づこうとした瞬間、上空からどしんと大きな音を立て何かが落ちてきた。大きな鋼鉄の腕と脚、赤く光る一つ目、我々の何倍もの大きなあるロボットだ。ボディについた傷が、今まの壮絶な戦いを物語る。理解した、こいつが果実の番人だ。型は古そうだな、誰かが果実を守るために配置したのか。その時、ロボットから音声が流れる。

果実ハ、私ガ守ル。

ビンズは光線銃でロボットを攻撃する。ロボットのボディには焦げた跡がつくぐらいで効いてる様子はない。ロボットはビンズに襲いかかり、彼を殴ろうとする。ビンズは辛くも避けるが、先程まで彼が立っていた場所は大きくヒビ割れていた。ビンズは少し考えたかと思えば一目散に山を降りていく。私も慌てて彼について行く。1人だけで逃げんじゃないよ!


我々は息を切らしやっとの思いで集落に戻ってくる。ビンズですら歯が立たないのは相当な事だ。流石危険度A。だが、これで帰る口実が出来た。相手があれではビンズも帰らざるを得ない。果物がなんだ、他のも美味しかったじゃないか。それ以上を求める必要はない。すると先程我々を案内してくれたジュウシィ星人がやってくる。彼は相変わらずニコニコしながらロボットにやられたかとつぶやく。ビンズがジュウシィ星人を問いただすと、あれはかつてあの山で虹色果実を育てていたジュウシィ星人が配置したものらしい。あのロボット、持ち主がいたのか。そういえば新聞記事にジュウシィ星人の生産者が載っていたな、恐らく彼だろう。だが、山にはあのロボット一体だけだった。ジュウシィ星人は続けて話す。あのロボットはいわば果実を守るために配備された防衛兵器。配置される前はかなりの頻度で動物達に荒らされたため、ロボットのお陰で荒らされる事は少なくなった。そのかわり、ロボットに組み込まれたAIは少しずつ人すらも脅威と認識し、ついには生産者までも殺したという。AIの暴走か、質の悪い学習プログラムを使ったからだろう。しかしまぁ、人が死んでもよくニコニコしていられるなジュウシィ星人というやつは。さぁて、虹色果実に関してはあのロボットがいる限り手に入る事はない。相当な年月は経っていると思うが、ロボット自身の攻撃力は健在だ。私はビンズの手を引き帰ろうと言う。だが、ビンズは手を振り解き宇宙に1人乗り込む。そしてものの数秒で大きな箱を背負い山に戻っていく。あいつ、正気なのか?私も後を追う。


うっへぇ、戻って来てしまった。まずいぞ、あのロボットは戦闘態勢だ。光線銃も効かない相手なのにどうして勝負を挑もうとするのか。そんなに、果実が食いたいか?しょうがないから私のへそくりで買ってやる。そう言っても彼は聞かないのだ。

果実ハ、私ガ守ル。

その声と共にロボットはビンズに襲いかかる。ビンズは箱の中から巨大なバズーカを出して発射する。ロボットの体を直撃し大きな音と共に巨体が倒れる。こいつ、明らかに調査団支給の武器ではない。また闇市で買ってきたな。公務員が闇市で買い物するな。しかしロボットは立ち上がり、今度は背中からミサイルを何発か放つ。我々は辛くも避け、ビンズはバズーカを放り捨てガトリングガンを手に持ち攻撃を掻い潜りながら放つ。ロボットに少しずつダメージが蓄積し、ビンズは最後に爆弾を膝に設置する。爆弾は膝を破壊し、ロボットは膝をついて倒れる。ビンズは箱から大きなハンマーを出してロボットを思い切り殴りつける。ロボットが動けなくなると、ビンズは私にロボットのバッテリーはどこだと聞いてくる。私はロボットをスキャンし、弱点を探る。

ロボットのバッテリーは、背中にある、、、。

そういうとビンズはロボットの背中に乗り、背中のバッテリーを発見しそれを取り除く。

果実ハ、私ガ、、、。

もう、いいんだ、、、。

ビンズがそう言うと、ロボットは静かに電力を失い動かなくなった。するとビンズは畑の方へ走り何かを掘り起こす。それは虹色果実だった。ビンズが皮を剥き食べると、彼はやはりなと言う。私が分析した所、やはりその辺の果実達と変わらない。きっと人の管理がなくなり、記事通りの甘さが維持できなくなってしまったのか。するとビンズは籠いっぱいに果実を詰め込み、ロボットの頭からチップを取り出し私に渡してくる。そうか、ロボットのAIチップ。粗悪なプログラムさえなんとかすれば、またロボットに組み込める。こういう仕事は得意だ、すぐに改良しよう。


その夜、我々は集落に戻り虹色果実とチップを先程のジュウシィ星人に手渡す。生産者の意志を継いで欲しい、そう願って。ジュウシィ星人は相変わらずの笑顔で対応し、我々は星を後にする。


ビンズはバーに改装された宇宙船を1人片付けていた。なんだかんだ気にしてはいなさそうだ。しかし、果実はまだしも、なぜロボットまで助けようとしたのか。ビンズに聞くと、あの時の新聞を渡してくる。

こういう感じがうまそうに見えたから。

新聞記事の下には、生産者であったジュウシィ星人と倒したロボットが果実を持って仲良く写真を撮っている姿が写し出されていた。私は、我がビンズと共に虹色果実の収穫を待つことにした。


調査報告

粗悪なAIプログラムの暴走は使用者をも殺めてしまうという事件の発生を確認。調査中に発見した場合は、なるべく改良に努めるように周知を広めるものとする。


宇宙人ビンズと虹色果実〜完〜



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