【フィクション】常連ぶらない蓮菜さん。第5話

※この物語はフィクションです。

第5話 王様ゲーム

「俺は、カネならあるし。」
「あのさー。クリームいらないのよぉ。」
「あの子。めっちゃ可愛いじゃん。店長あの子に注文してもらいたいんだけど。」
「俺、常連なのよ。ここに30年ぐらいは通ってんじゃないの?」
店長さんが偽りの笑顔で対応しています。
裏に戻る瞬間。げんなりしています。
お疲れ様です。

そこにいたのは、テレビでよく見る芸能人。
それと取り巻き2人。
その芸能人は、この辺の出身だそうで。
どうやら、講演会帰りだとか。

「あの人。芸能人の人だよねぇ。」
「そーね。」
明らかに、今日。
蓮菜さんは機嫌が悪いのです。

「ごめん。なんか変なこと言ったかなぁ・・・。」
「ゆっちゃんは、何にも悪くないから!」
小声でヒソヒソ話します。

店員さんがこちらにアイコンタクトしてきました。
険しい顔をして4回会釈したのです。
「あー。やっぱりね・・・。」
「どうしたの?」
「いやね。やっぱりあの人には気使ってるっぽいね。」
「なんでわかるの?」
「険しい顔の4回会釈は、ゴ・メ・ン・ネのサインなの。」
「それって・・・もしかして。」
「そう。あの曲をモジったもの。慣れればわかるっしょ。」

理由が分かりました。
ただ、分かるわけねぇっす!とは言えませんでした。
あくまで、心の中でツッコミましたが。

すると、対応に追われてた店長さんが動きました。
ウォーターポットを持って、私たちの席に来たのです。
「お冷、おかわりお入れしますね。」
「ありがとうございます。」
蓮菜さんは、笑顔で会釈しました。

2杯のコップに水を注ぎ終えると、店長さんが追加でこういいました。
「もしよければ、制服汚すとあれなのでコレ使ってください。」
差し出されたのは、2枚の紙ナプキン。
私は、いきなりで驚きました。
でも、蓮菜さんは動じません。
「恐れ入ります。」
「ごゆっくりどうぞ~。」
店長さんは、去っていきました。

「そっか・・・。」
蓮菜さんは、考え込んでいます。
「どうしたの?」
「ゆっちゃん。別ん所行かない?」
「えっ?なんで?」
私は、状況が分かっていません。

「ゆっちゃん。ちょっと近づいて。」
「なに?」
さらに小さな声で、蓮菜さんは話し始めました。

「このままだと、うるさいままね。」
「どういうこと?」
「店員さんが紙ナプキンくれたでしょ。」
「うん・・・。くれたけど?」
「それは、メッセージなのよ。」
「えぇ!?」
「店長さんの経験と勘で、どのぐらいいるか計算したの。」
「そんなことできるの?」
「まぁ。経験値は高いしね。」
「そうなんだ。」
変に、納得してしまいました。

「で、見極め方は折ってなかったら1時間。半分だったら30分。4分割なら15分前後。」
「だから?」
「折ってないのが2枚だけ。つまりあの人は2時間前後は店を出ない。」
「そんな長居すんの?」
「恐らく。店長さんは今日、アイツを独演会モードと見たんだろうね。」
「なるほど。」

今回は、そのまま退店することにしました。
レジの店員さんも、アイコンタクトでエア謝罪されました。
真の常連。
おそるべし・・・。

つづく。

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