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夜のとばりが降りる頃

 田舎暮らしなので車がないと生活が大変不便である。

 頼みの綱の公共交通機関はバスは幹線道路沿いしか走っておらず電車も三十分に一本と不便極まりない。

 なので近所へのちょっとしたお出かけでも車に頼ってしまう。
 
 歩いて十五分の最寄りのコンビニでさえ運転していく。

 そうなると当然足腰が弱っていく。
 
 若い頃東京に住んでいた頃は一駅位ならば歩いて移動したものである。

 都会は駅と駅の間隔が短いのでそれが可能だが、田舎の電車は駅の区間が長いことが多いので気軽に歩こうと思ったらとんでもない運動になることがある。

 若い頃隣町の飲み屋街で飲んだくれて終電を逃したときによせばいいのに歩いて自宅まで帰ろうとして三時間歩いたことがある。
 
 あれは今思い出しても無駄な時間だったが酔っ払いに理屈は通用しない。

 息も絶え絶えに自宅に着いた時には空が白々と明けてきていた。
 
 どう考えてもタクシーか代行を使うべきで愚かだったと思う。

 コロナの影響で飲み屋に行かなくなって三年が経つが世の中の情勢的にはそろそろ少人数での飲み会ならば開催してもいいのかなと思っていた。

 しかし昨日のニュースで東京で患者数が千人を超えたという話を聞いたので再び自粛の日々が始まるのかと思ってやるせない気持ちになっている。

 もうすっかり家飲みが定着してしまったが馴染みの居酒屋で飲む温度管理が完璧にされた生ビールの味が恋しい。
 
 キンキンに冷えたジョッキを掲げてキュィーッと飲み干す快感は家ではなかなか得られない快感である。

 これからの時期のつまみは海のものが美味しい。

 特に貝類は栄養を蓄えているので食べごろである。

 アサリの酒蒸しなんか出された日にはおじさん感動して泣いちゃうかもしれない。

 そんな行きつけのお店を応援したい気持ちは常にある。
 
 若い頃だとお酒の後にお姉ちゃんのいるお店に行く事もあった。

 先輩のお供にくっついていくだけで私はいまいちその手のお店にはハマらなかった。

 意中の女の子とねんごろになろうと必死で口説く先輩を見ながら薄くてあまり美味しくない水割りをすすっていると、お兄さん退屈なの?と聞かれることもあった。

 基本的に朴念仁なのでこういう時に気の利いた会話が出来ずにさりげなく放置されることが多かった。

 そして黙々と飲んでいると先輩のお気にがよそのテーブルに呼ばれて行って何となく白けてお勘定になる。

 帰り道にもう少しで落とせそうと楽しそうに語る先輩を見て、いやぁそれは難しいんじゃないかなと思いつつ決して口には出さなかった。

 それから駅前の屋台でおでんとラーメンを食べてお開きである。
 
 いたって健全な飲み会でお金もほとんど先輩が出してくれたので頼もしかった。

 今はもう屋台も無くなったしお姉ちゃんのお店も代替わりして顔ぶれはすっかり変わったらしい。

 夜の街が遠くなっていくのは少し寂しい気分がする。

 ああ、これも年を取ったという事かなと思いつつ昨日の晩御飯を振り返ってみる。

 昨日は桜見物ツアーをしたので桜餅を買った。

 後はお値打ちの商品を選んで購入。

 帰宅後手洗い、うがいをして晩御飯を作る。

 まずは副菜から小松菜を根元までよく洗ってざく切りにする。

 それをレンジに入れてチン。
 
 加熱し終わったら水に晒して粗熱を取る。
 
 ボウルに入れてそこに鶏がらスープの素、酢、醤油、ごま油、にんにく、ラー油を加える。

 仕上げに手捻りのゴマをパラパラと散らしたら小松菜のナムルの出来上がり。

 次はメインの料理に取り掛かる。

 鍋にお湯を張って昆布と鰹節の出汁を取る。

 そこに醤油、砂糖、塩を入れてつゆを作る。

 レンジでうどん玉を二つ温める。

 アツアツになったら丼に入れる。

 そこに卵を割り入れる。

 つゆをたっぷり注いで仕上げに揚げ玉を乗せたら月見たぬきうどんの出来上がり。

 昨日は潔く二つの料理で済ませる。

 妻を呼んでいただきますをする。

 昨日のお酒はビール。

 ピッシュシュとプルタブを起こしてコッコッコッとグラスに注ぐ。

 泡が落ち着いたら一息にグイーッと飲み干す。

 クフゥ、ビールは美味いなぁとしみじみ思う。
 
 それからつまみにナムルを食べる。

 ショリショリとした食感でごま油の風味が良くてラー油入りなのでピリッと辛くておつまみにもってこいである。
  
 これはお酒が進むなぁと言いつつ二本目のビールをペシッ。

 キュキュッと飲みながらメインのうどんをすする。

 まずは汁を飲むと揚げ玉の油が溶け出しており香ばしい味がする。

 うどんは一玉三十円の激安品だがちゃんとコシがあって噛み心地がいい。

 卵をいつ崩そうかと楽しい悩みごとをしていたらいつの間にか割れていた。

 なのでつゆ全体に混ぜて卵をいきわたらせた。

 するとまろやかな味わいが加わって優しい味になった。

 ツルツルと啜ってつゆも最後の一滴まで飲み干すとお腹いっぱいになった。

 うどんと小松菜だけの晩御飯だったがたまにはこんなシンプルな夜もあっていいと思う。

 食後に妻と二人でお茶を淹れて桜餅を食べた。

 しょっぱい葉っぱとあんこの甘さがよく合っていいお茶うけになった。

 ああ、美味しかったと大満足でご馳走様。

 さぁて今日は何を食べようかな。

 お肉がいいかな。

 魚がいいかな。

 お店に行く前のこのワクワク感が大好きだ。

 いい出会いがありますように。

 ではでは。

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