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じゃがいもは入れないのがコツ。

 今日は台風の影響で朝から曇り空。

 気温は三十度に届くかどうか位だが濃厚な湿気を含んだ風が時おり強く吹き付けてきて緊張感を煽る。

 予報では今晩から明日の朝に県内に一番影響が出るそうでニュースから目が離せない。

 台風の備えはしてあるのだがどうしても浮足立ってしまう。

 国道沿いのガソリンスタンドには普段より長い列が出来ていた。

 雨も降ったり止んだりで時おり目の前が見えなくなるくらいの土砂降りになる不安定な天候である。

 今日は早めに用事を済ませたので明日の朝までは家から出ない。

 台風の時の晩御飯と言えば実家ではカレーだった。

 昔は台風が来ると高確率で停電していた。

 学校が急遽半ドンになって嵐の中帰宅すると母がタオルを投げてくれてお風呂が沸いてるから入りなさいと言ってくれたものである。

 平日の昼間からお風呂に入っていると何だか不思議な気分になった。

 雨で冷えた体をしっかり温めてあがると家の雨戸が全部締め切ってあった。

 電気をつけないと家の中が真っ暗でここでも時間の感覚が歪んでいるような気がした。

 お昼ご飯は大鍋一杯に作ったカレーである。

 お腹がペコペコなので兄弟でお代わりをして競って食べた。
 
 ご馳走様をするともうすることが無い。

 こんな天気の日に勉強をする気にもなれず、何も手につかずソワソワしたものだ。

 そのうちに部屋の電気がチカチカと点滅してバチンと音を立てて真っ暗になった。
  
 おおっ、停電と思っていると仕事を早引けしていた父が懐中電灯を持って子ども部屋に様子を見に来た。
 
 停電したらマンガも読めないし、本当に何もできなくなる。

 仕方がないので居間に行くとろうそくが灯されており柔らかい炎が揺らめいていた。

 じっとりと蒸し暑い部屋で小さなAMラジオが台風情報を伝えていた。

 余りに退屈でぼんやりしていると兄がトランプを持ってきたのでそれでババ抜きや七並べをみんなでやった。

 外はゴウゴウと風が吹きつけて家がギシギシと軋んでいて正直怖いと思っていたがトランプをしている時はそれを忘れる事が出来た。

 家の中が真っ暗なので今が何時なのかわからないのが不便だった。

 父が腕時計を見てそろそろ晩御飯にしようと言ったのは夕方の四時だったことを覚えている。
 
 そんな中途半端な時間でもちゃんとカレーをお代わりしたのは我ながらわんぱくだと思う。

 五時前にはもう寝ろと言われたので布団に入った。

 当然すぐに寝られるわけもなく兄と来週のジャンプの話を真剣にしているうちにいつのまにか眠りに落ちた。

 ふと目が覚めると騒がしかった外の様子が静かになっており、雨戸を少しだけ開けると外は満天の星空だった。

 町中が停電していたので見る事の出来た見事な光景を今でもしっかりと覚えている。

 それから安心してぐっすり寝て翌朝を迎えた。

 雨戸を思い切り開け放つと空がどこまでも高かった。

 朝ごはんは当然のようにカレーだったが文句はなかった。

 台風一過と言う言葉を知ったのはもう少し大人になってからだった。

 そんな事を懐かしく思い出しながら昨日の晩御飯の話を少しだけ。

 昨日もガスをなるべく使わないデー。

 鶏ささみを解凍して片栗粉をまぶしてお湯でサッと茹でる。

 火が通ったらザルに空けて粗熱を取っておく。

 後はわさび醤油をつけていただく。

 キュウリを細切りスライサーでカットしたら醤油、酢、砂糖で味付けをして酢の物の完成。

 再びお湯を沸かしてそうめんを茹でる。

 茹で時間は四十秒、蒸らしに三十秒でサクッと仕上げる。

 これで晩御飯は完成。

 火もほとんど使わず所要時間十五分で完成。

 妻を呼んでいただきます。

 昨日のお酒はビールで決まり。

 ポッシュッとプルタブを起こしてテッテッテとグラスに注ぐ。

 泡が落ち着いたら乾杯。

 ウビビビッと一気飲み。

 口開けのビールはいつ飲んでも最強に美味い。

 アハァとだらしない声が思わず漏れる。

 ではまずはキュウリの酢の物をつつく。

 細切りにしたので食感が面白い。
 
 味付けも酢が効いていて大人の味わいである。

 うんうんと納得。

 次は鶏わさ。

 茹でたささ身にわさび醤油をつけてアムリ。

 片栗粉の効果でツルリと柔らかで食べやすい。

 鶏を茹でただけのシンプルな料理だがなかなかいい。

 二本目のビールをシャカッと開けてグイグイ飲む。

 メインのそうめんいってみますか。

 薬味は叩いた梅干しとイワシの削り節。

 梅干をツユに溶いてツルリ。

 暑さを吹き飛ばす酸味が心地よい。

 ツルツルと箸が進む。

 途中で削り節をドサリと入れると出汁の風味が増してかなりいいお味になった。

 妻も削り節入りのツユが気に入ったみたいで美味しいねぇと言いながら麺を手繰っていた。

 二人分で四把茹でたのだがペロリと完食。

 お酒は控えめにビール二本。

 ご馳走様をして片づけをした。

 さぁて今日の晩御飯は何にしようかな。

 母譲りの伝統カレーを作ろうかな。

 豚肉がたくさん入っていてたまらなかったなぁ。

 非常時を忘れさせてくれる味でした。

 そういえば、もうずいぶん食べていない。

 今度リクエストしてみようかな。
 
 母ちゃん、カレー美味かったよ。

 

 

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