【読書記録】2020年12月(前半)

ごきげんよう。ゆきです。

12月前半の読書記録、スタート。

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SNS、クラウドソーシング、人工知能、フェイク・ニュース、管理・監視社会、電脳世界――現実のリアルな事象をモチーフにした話から、近未来、超未来を舞台にした物語まで、SF、ブラックジョーク、パスティーシュなど様々なジャンルを横断する短篇集。

本に賞味期限はないと思っている。いくつも前の元号の時代に書かれた書籍でも、いまだに色褪せないものが多く残っている。学びがあるものは教科書に載せられ、私たちはそれを通って大人になる。

だがこの本は今だからこそ読むべき本だ。これが20年ほど前に発売されていたら数あるSFのひとつとして埋もれていただろうし、20年後に発売されたら時代遅れだと笑われる話もあるだろう。今読むからこそ17の全ての物語が生き生きと引き立つ。最高の食べ時だ。

あまりにも現実味を帯びすぎて鳥肌が立った物語もあれば、意味が分かると怖い話的なショートショートもあり、ふいに未来の世界への想像力をかき立てられる創作も現れる大満足の1冊。ショートショートは小学生の頃に星新一のものを読んだ以来久しぶりに手を出したが、1冊にたくさんの世界が詰まっていて楽しい夢を見せてもらった。

Twitterでは名の知れた、ダ・ヴィンチ・恐山さんが品田遊名義で著した本作、ぜひ友人にも勧めたい。

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蛇のように舌を二つに割るスプリットタンに魅せられたルイは舌ピアスを入れ身体改造にのめり込む。恋人アマとサディスティックな刺青師シバさんとの間で揺れる心はやがて…。第27回すばる文学賞、第130回芥川賞W受賞作。

あれは小学校低学年の頃だろうか。「若くて可愛いお姉さんたちが、私でも聞いたことのある有名な賞を獲ったらしい」とテレビのニュースに釘付けになったことがあった。第130回芥川賞授賞式である。綿矢りさと金原ひとみが並んで報道陣のフラッシュを浴びている様を、今でも鮮明に憶えている。

ただ、その時は受賞作を読むことはしなかった。当時、宗田理や東野圭吾の比較的軽い文庫は読んでいたので余裕で読破できただろうが、当時は芥川賞の本なんか難しくて読めるはずがないと思い込んでいたのだ。勿体ないことをした。

綿矢りさ『蹴りたい背中』は学生のうちに読んだものの、『蛇にピアス』は手に取れなかった。センセーショナルな内容であることも知っていたし、有名過ぎる実写映画の存在が私をそれから遠ざけていた。心も体もオトナになったら読もう、と決意して今に至ったわけである。

さて、読後の感想だが、リアルをここまでリアルに切り取った小説を私は他に知らない。私には縁遠い世界の話なのに、ルイもアマもシバさんもそこに生きていた。正直読み始めた頃は「これが芥川賞を獲ったのか……?」と首を傾げるくらい語り口も軽妙で、舌ピアスを開ける痛々しい描写やギャル、パンク、刺青といったワードが悪目立ちしていた印象だったが、途中から「こんなもの常人には書けない」と思わせる筆致に舌を巻いた。とにかくリアルなのだ。愛、痛み、苦しみ、悲しみといった感情がどんどん突き刺さってくる。

ルイという少女の全てを、筆1本で100ページにもみたない世界に書ききった筆者に脱帽である。今も私の中で、ルイが気だるそうに酒を煽りながらこちらを見ている。

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ビストロ・パ・マルへようこそ。絶品料理の数々と極上のミステリをどうぞ! 客たちの巻き込まれた不思議な事件や不可解な出来事。その謎を解くのは、シェフ三舟。傑作連作短編集。

いろいろな作家に触れると、文章ってその人の名刺代わりになるよなと変に感動することがある。辞書で引かないと読み方も意味も知らない単語を列挙する癖や、フィクションだからこそできるクセのあるセリフを登場人物に言わせる癖、尋常ではない情報量で風景描写をする癖など、人の癖を文章は顕著に現す。著者を確認せずとも本を開けば「ああ、あの人の本ね」となるものも少なくない。

恥ずかしながら本書の作家は初めましてだったのだが、非常にわかりやすい癖がすぐに見つかった。句読点がめちゃくちゃ多いのだ。それがくどいわけではなく、リズムよく読めるので心地よいものではあるのだが、短いところで5.6文字に1つの点が挟まってくる文体は新鮮だった。でもその癖というのがその作者の味となり、名乗らずとも誰もがその作者の作品だと気が付き作品が愛されることに繋がるのだとすれば、オイシイものだなと思う。

『タルト・タタンの夢』は作者の癖の話だけではない、本当に美味しい物語の詰め合わせだ。小さなフランス料理店で起こる些細な事件や客の悩みを、侍めいた風貌の無愛想なシェフが鮮やかに解決していくビストロミステリー。読むだけで涎が出そうなフランス料理が提供されるのと同じテンポで滑らかに謎が解けていく、このハーモニーは絶品である。

書店で平詰みにされていた棚には「ミステリーが苦手な私もサクサク読み終えてしまった」という書店員のポップが添えられていた。でもしっかりと謎解きはあるので、ミステリー好きにもぜひ手に取っていただきたい。フランス料理に明るくない私でもお腹いっぱいになる、素敵な店が待っている。読み終えたら一緒にヴァン・ショーを飲みながら語ろう。ちなみに、私が1番好きな物語は『割り切れないチョコレート』。

話は逸れるが、遂に誰も死なない本に出会えた。Kindleを買ってから初めての事態。和やかに本を閉じたのは久しぶりな気がする。とても気持ちがいい。

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十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける! 1987年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作が新装改訂版で登場。

『タルト・タタンの夢』でほっこり温まった後は、がっつりミステリーが読みたくなったので購入(結局人が死ぬ本に戻る)。

あまりにも名作だった。こちらが名作過ぎて、次に読む本はそんなに頭に入ってこないことが容易に予想できる(嘘ですちゃんと読みます)。読み終わって数日はずっとこの本に心が囚われていた。夢にまで見た。それくらい、久しぶりに震えるくらい好きな作風と物語だった。感動しかない。

この本に出会えた幸せを感じると同時に、有名過ぎる著者なのに何故今まで読んで来なかった?!と自分を責め立てた。こんな素晴らしいミステリーを横目に私は今まで何をして生きてきたんだ……(膝から崩れ落ちる)。

無人島、密室、未解決事件、ミステリ研究会、名探偵……もうミステリ好きならたまらないテーマの目白押しである。1文というか登場人物の一言で一気に物語が急展開する叙述トリック系。想像していた可能性はおおかた覆されてしまった。犯人が明らかになった後も、丁寧に事件の経緯を記してくれているので投げっぱなしの伏線は無く「あの時こうなっていたのか」と1つ1つ紐解かれるのが気持ちいい。

個人的には物語の終わり方がとても好きだった。名探偵が犯人を追い詰めて裁いて終了、ではないのだ。そこにある葛藤や愛や後悔や自責や、とにかく様々な印象を与えてくるラストシーンは初めて出会うもので、とても印象深い。

好きな作家は紙で買う、と決めている私。これはぜひ紙で手元に置いておきたい。続編がKindleに入る日はきっと来ない。

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運命の出会いはいのちがけだ――この人となら―と思ったその時、
あなたはもう騙されている!人生はどんでん返しの連続。
『暗黒女子』著者が贈るサプライズ満載の〈婚活〉ミステリー。

婚活をテーマにした短編集。もちろんここに描かれているものを婚活のリアルだとは思っていないが、それでも「有り得るかもしれない」と思わせてくるリアリティが全編にある。

4編収録されている中で、私は『婚活マニュアル』が1番好き。

私は婚活をしたことがないので、理解しかねる登場人物の行動や心理もあった。でもそれは人間が誰しも持っている心理で、自分をよく見せようと思って取る行動なのだろう。身近にいたら「ちょっとイタいよねあの人」と険しい顔になるところを、フィクションだと客観的に、クスッと笑いながら傍観出来る。人間の見栄を見るのはフィクションの中だけで充分だ、とつくづく思う。

学生の頃に読んだ『暗黒女子』のダークイヤミスな雰囲気は健在だった。次にこの著者を選ぶ時には、違うジャンルの書籍にも触れてみよう。

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今月は色んな作家さんに触れてみよう月間なので、初めましての方を中心にセレクトしました。

先月後半の読書記録に書いた「誰も死なない本が読みたい」という願いも叶ったし、たくさんの感動の出会いもあったし、大満足な12月前半です。今年を締める1冊は何にしようかなと考えながら、後半もゆっくりページを捲ります。

See you next note.

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