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松下幸之助と『経営の技法』#95

5/20の金言
 販売に対する基本方針を生かすためには、まず販売にあたる人の誠心誠意が必要になる。

5/20の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 落語家の話は、聞いていると面白いが、それを文字で読むと、聞く時の面白みは少しも味わえない。販売にあたるのも同様である。いかに立派な筋書きでも、味よく先方にお届けできるかどうかは、それだけの訓練を自ら培うかどうかにかかっている。筋書きのちょっとした生かし方にも興味をもって研究すれば、それに成功するだろう。その根底となるものが、誠心誠意だ。それが根底にあってこそ深い味わいも出てくる。誠心誠意がなければ、どんなに立派な筋書きも、実を結ばないアダ花となる。
 どこの会社、商店でも販売に対する基本方針があるが、それは筋書きであって、それを生かした味は百人百様のあらわれ方をする。その味は、仕事に対する熱心さ、努力から生まれてくる。販売の技術を自ら培い、備えている人によい筋書きを与えれば、”鬼に金棒”となり、販売に成功すること間違いなしだ。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 営業など、人と接する仕事で、松下幸之助氏が度々取り上げるのが、その人の誠意や人柄です。これも、(ビジネスマンとしての)在り方に関するコメントですので、他の多くのコメントと同様の含意があるでしょう。
 けれども、ここでは経営の観点から考えてみます。
 言わば、マニュアルやトーク集、募集資材などに振り回されている営業担当者と、それを超えて、逆にマニュアルやトーク集、募集資材などを使いこなしている営業担当者を対比すれば、松下幸之助氏のイメージする営業担当者が後者であることが、理解できます。
 これは、経営上の施策として見た場合、従業員の主体性や積極性を育てる、という施策と整理できます。会社組織を人体に例えた場合、現場従業員がリスクを感じてその情報を適切に上げてくることは、身体中に張り巡らされた神経の機能であるリスクセンサー機能として、極めて重要ですし、営業的にも現場の問題意識を上げ、新たなアイディアにもつながる重要な情報流通活動であるボトムアップとして、経営的にも、極めて重要です。しかも、このような機能は、従業員が言われた通りにやればそれで充分、と開き直っていて、お客様意識しかない場合には、ほとんど機能しませんが、自分も会社のために、仲間のために何か役に立ちたい、という気持ちが入っているときには、とても有効に機能します。
 すなわち、マニュアル通り、というお客様意識におさまらず、自分自身の成長のためにも、マニュアルを使いこなすぐらい頑張れ、という励ましや動機づけとして見れば、松下幸之助氏は、組織の活性化を目論んでいる、と評価することができるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、従業員を上から押さえつけ、命令によってやらせるタイプよりも、盛り上げて、主体的に取り組むように上手におだてる経営者の方が、松下幸之助氏の好みに合うようです。
 このことに関し、人事系の経営コンサルが好んで引用する言葉が、山本五十六の言葉です(地元の人気者で、沢山この歌の色紙を書いているので、沢山のバージョンがあります。さらに、この歌の続きもあります)。
 やって見せ、言って聞かせてさせてみせ、
 褒めてやらねば人は動かず。
 戦前の軍部の上層部ですが、開戦に反対していました。しかし、開戦したら現場を重視し、自分自身も南の島の移動中に、飛行機が撃墜されて死亡しました。
 ここで特にこの言葉が注目されるのは、厳しい規律で縛り上げ、上官の命令は絶対で、その命令によって動くはず(死ねといえば死ななければならない、など)、という傾向が特に顕著だった戦前の軍部にありながら、①自分がやって見せる、②説明する、③実際にやらせる、④褒める、ここまでしなければ人は動かない、と言っている点です。
 人を動かすにも、命令で動かすタイプと、おだてて動かすタイプがある、と整理されることがありますが、両者は質的に対立しているものというよりも、それぞれの経営者の個性と会社の社風に応じてブレンドの割合が違うという、量的な差の問題、と理解すべきでしょう。山本五十六氏のように、軍部にあって、おだてて動かす要素が必要と言う幹部が存在するからです。
 このような観点から、命令で人を動かせる部分と、おだてて人を動かせる部分のバランスが、その会社の経営者としてマッチするかどうか、という観点が、経営者を選ぶ際のポイントの1つになるように思われます。

3.おわりに
 さらに、大きな会社になると、全ての従業員を直接コントロールできませんから、組織作り、プロセス作り、社風作り、が重要になります。そのような管理面を任せられる優秀な中間管理職を発掘し、育て上げ、組織化していく能力も、経営者の資質です。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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