松下幸之助と『経営の技法』#16

 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。

1.3/2の金言
 仕事の使命感が分かってくると、その尊さもわかり、興味も湧いてくる。

2.3/2の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 仕事の使命感→尊さ→興味→熱意。
 これが無ければ、仕事が疲れる、肩がこる、スカタンする、能率が上がらない、叱られる、不平が起こる、評価が下がる、失敗する、世の中を難しくする。
 これが有れば、緊張を維持できる、成功する、世の中が簡単になる。

3.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏の金言が問題にしているのは、第一に、経営者の資質です。
 すなわち、資質の方から逆算すれば、経営者には熱意が必要であり、その熱意の源泉は好奇心、さらには仕事への誇り、と遡ると説明しています。
 このうち、経営者には熱意が必要であることは、実際に職業柄、多くの経営者に接してきて感じることです。多くの人達を目標に向かって動かし続けるためには、自分自身が疲れたりやる気を失ったりしている暇はありません。相当の熱量が必要となります。
 問題は、その熱意の源泉です。
 中には、お金を稼ぎたい、目立ちたい、モテたい、などのより俗物的な欲望が源泉となっている経営者もいるでしょう。そして、独りよがりな正義感を振り回す経営者よりも、このような俗物的な欲望の方が、ある意味で素直であり、良い面もあるでしょう。
 けれども、ここでは個人的には誇りや好奇心、社会的には仕事の尊さを熱源としています。
 この点を、内部統制が効いていて、経営者の思いや考えを会社組織全体が共有している場合を考えてみましょう。会社組織全体が、仕事の尊さや誇りを熱源に活動している状態は、現在の用語だとCSRが浸透している状態である、と評価できます。
 この状態の長所は、会社組織全体が社会から相当の評価を受けることが期待できる点です。社会的に有益な仕事をしていることになるからです。
 そして、この状態は会社がより永く社会に受け入れられ、利益を上げ続けられることを意味します。
 他方、お金儲けだけしたい、目立ちたい、等という俗物的な価値に基づいて活動する会社は、社会から反感を抱かれる危険が高まります。「顰蹙を買う」ことになるからです。
 そうなると、社会に受け入れてもらいにくくなり、まっとうな利益を上げることが難しくなり、仮に利益を上げられてもそれが長続きしない可能性が高まります。社会の一員と認められるからこそ、その社会の中で商売できるのです。
 このことを逆に言うと、経営者が抱く仕事への熱意は、好奇心や誇り、仕事の尊さが熱源であるべきであり、しかも、それを会社組織全体が共有し、会社の熱源とすべきであることが理解できます。

4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題から検討しましょう。
 投資家としても、投資した事業から長期間に亘って利益を得られることの方が、短期の場合よりも好ましいはずです。短期間に莫大な利益を得る、いわゆるハイリスクハイリターンの投資は、一般的な意味での投資ではなく、もはや「投機」なのです。
 したがって、投資家としては、投資対象となる経営者自身がこのような社会性を有するのかどうかを見極めるべきですし、さらに、会社もCSR活動に熱心であるなど、社会の一員として評価され、受け入れられているかどうかを見極めるべきです。
 さらに、既に投資した会社の場合には、株主総会や、株主に代わって行動する社外取締役などの機関を通して、経営者や会社に対し、社会の一員として受容されるべき活動をするように働きかけることが重要になってきます。

5.おわりに
 CSR等の社会的な活動は、単なる綺麗ごとではありません。企業が長く利益を上げ続けるために必要な環境づくりでもあり、経営上、合理性があるのです。
 どう思いますか?


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