見出し画像

【映画感想文】 『THE BATMAN』 ハードボイルド青春映画

 今年のゴールデンウィークはどこにも行けないので、家で気になっていた映画を観ることにしました。
 
 第一弾は『THE BATMAN』(2022年公開)。いい歳して、気になる映画の筆頭がスーパーヒーロー物なのか、と思ってしまいますが、先日『ザ・フラッシュ』の予告編でマイケル・キートン演じるバットマンを観て以来、彼(バットマン)のことが頭にこびりついていて。

 その件についての投稿で「最近DC映画を観てないけど、今のバットマンはロバート・パティンソンだっけ」と書きましたが、どうやら、ロブがバットマンを演じる『THE BATMAN』は、DC映画の本流とは世界が違うみたい(本流では、ベン・アフレックのまま)。個人的に、バットマンには集団行動は向いていないと思うので、このまま別の世界で活動してほしいです。

 それにしても、この映画は、本流ではなくても一応DC映画に含まれるのに、スーパーヒーロー映画を観ている気がしませんでした。
 ハードボイルドタッチの青春映画という表現が、この映画の印象に一番近いかな。ざっくり言えば、バットマンが連続殺人犯を追う話なのですが、ハードボイルド物としても、暗いトーンの青春物としても、王道の映画だと思います。ある意味、王道すぎて既視感があるほどに。うまい監督なら(タランティーノとか)、既視感ではなく、オマージュと感じさせるのでしょうが、残念ながら、この映画はその域には達していません。
 また、バットマンの方は、もともとあまりスーパーヒーローらしくないキャラクターなので、この映画の描かれ方にも違和感がありませんでしたが、作品によってはバットマン以上の存在感を放つヴィラン(悪役)が地味だったのは、物足りなく感じました。人気ヴィラン・リドラーを芸達者なポール・ダノが演じているのに、普通の連続殺人犯にしか感じられないなんて。

 でも、魅力的な悪役の不在や王道すぎるストーリーにもかかわらず、この映画を観てよかったですし、バットマン映画のシリーズ第一作としても、クリストファー・ノーラン監督の『バットマン・ビギンズ』よりも気に入りました(ビギンズは、渡辺謙さんが変な忍者集団のリーダーを演じている時点で、テンションが下がってしまいます)。

    *

 私にとって、この映画の一番の魅力は、俳優たちの演技でした。
 バットマンには、ゴードン刑事という警察内の協力者がいるのですが、この映画のゴードンは、単なる協力者ではなく、バットマンの相棒と言ってもいい役柄でした。悪人を捕まえるという目的のために、年齢や立場を超えて助け合う男たち。演じたジェフリー・ライトは007シリーズでも、ボンドを助けるFBIエージェントをうまく演じていましたから、こういう役が合っているのかな。
 バットマンに仕える執事アルフレッドを演じたアンディ・サーキスもしみじみした役回りがとても良かったし、キャットウーマンを演じたゾーイ・クラヴィッツも「謎めいた雰囲気と悲しい過去を持つファムファタール」というよくある役柄を個性的に演じていました。

 それに、何より主演のロバート・パーティンソンが素晴らしかったです。
 過去にマイケル・キートンやクリスチャン・ベールが演じたバットマンには、仮面をかぶったバットマンと街の名士であるブルース・ウェイン、二つの人格がありました。どちらが自分の本当の姿なのかわからなくなったり、自分の二面性に悩んだりするブルース=バットマンの姿がとても印象的でした。
 それに対して、ロバートのバットマンは、まだアイデンティティーが定まらない…自分がバットマンの仮面をかぶる理由もわかっていないし、表の顔がないので、自分の二面性に苦しむこともない、未熟なバットマンです。
 何者かに両親を殺された孤独な青年。年の近い仲間も女友達もいない生活、一人で身体を鍛え、両親を殺された復讐のために、悪人たちと戦う…(他のスーパーヒーローもそうですが、バットマンも基本的に人は殺さず、警察に引き渡します)。そんな新しいバットマン像にすぐなじむことができましたのは、ロバート・パーティンソンの説得力のある演技のおかげだと思います。
 

 映画では、まるでバットマンのテーマのようにニルヴァーナの『サムシング・イン・ザ・ウェイ』が流れます。また、リドラーがシューベルトの『アヴェ・マリア』を口ずさんでいたり、ベートーヴェンのピアノ協奏曲皇帝の第二楽章やフォーレのレクイエムが流れたり…とプレイリストを試聴してもらえばわかりますが、甘く、メランコリックな雰囲気がこれでもかというほどに、かもし出されています。それに沿った演技だと、いい歳したおばさんは鑑賞するのが小っ恥ずかしくなったと思うのですが、ロバートの抑えた演技のおかげで、私にとって三人目のブルース・ウェイン=バットマンの物語を心から楽しむことができました。




 


この記事が参加している募集

映画感想文

読んでくださってありがとうございます。コメントや感想をいただけると嬉しいです。