見出し画像

村上春樹『街とその不確かな壁』を読む 海外文学と音楽 プレイリスト付き 前篇

 普段は『村上春樹の短編を読む』というタイトルで、村上さんの短編に登場する海外文学や音楽について書いていますが、今回は村上さんの新作『街とその不確かな壁』に登場する海外文学や音楽について取り上げます。ストーリーなどには極力触れないようにするつもりです。

フロベール『感情教育』

 主人公が読んでいる小説です。
 フロベールは19世紀フランスの作家で、無駄を排した緻密な文体で知られます(日本語ではよくわからないのですが、単語一つたりとも削るところがない作家だそうです)。『感情教育』は『ボヴァリー夫人』と並ぶ代表作。主人公フレデリックの青春の日々が、二月革命前後のパリを舞台に描かれています。
 村上さんの小説では、『風の歌を聴け』でも主人公が『感情教育』を読んでいます。また、芥川龍之介作品集の英訳本に寄せた前書きで、村上さんはフランスの国民作家としてバルザックとフロベールを挙げていらっしゃいました。個人的にはスタンダールが大好きなので、フロベールの代わりに挙げてもらいたかったですが(バルザックは多分日本の夏目漱石的な揺るがぬ立ち位置)、それだけフロベールを作家として認めていらっしゃるんでしょうね。
 村上さんのお墨付きということで、先日フロベールの『三つの物語』を読み直したのですが、心なしか以前読んだ時よりも面白く感じられました。『感情教育』も読み直してまた感想文を投稿したいと思います。


デイヴ・ブルーベック・カルテット『Just One of Those Things(よくあることだけど)』

 カフェで流れている曲。その時点では「コール・ポーターの古いスタンダード曲…ポール・デズモンドのアルトサックス・ソロ」と考えながらも、主人公はタイトルが思い出せませんでした。
 デイヴ・ブルーベックはウエストコースト・ジャズの代表的なピアニスト、コール・ポーターはミュージカルや映画音楽の分野で多くのスタンダード・ナンバーを残した作詞・作曲家です(代表作の『キス・ミー・ケイト』は今の日本でも時々上演されています)。『Just One of…』は、元はミュージカルナンバーですが、歌手やジャズバンドの録音が数多くあるようです。

ビートルズの「イエローサブマリン」

 ある登場人物が、イエローサブマリンが描かれたヨットパーカーを着ています。
 「イエローサブマリン」はビートルズのアニメ映画で、同名の曲やサウンドトラックもあります。
 海の底にある平和な国ペパー・ランドを侵略者から守るために、ビートルズのメンバーがイエローサブマリンに乗って、海の底へと出発するという話のようです。ビートルズは父が好きなので子どもの頃からよく聴いていましたが、この映画の内容は初めて知りました。観てみたい…。
 パーカーの絵柄がわかるようにDVDジャケットを張っておきます。


『レインマン』

 1988年公開のアメリカ映画。トム・クルーズとダスティン・ホフマンのW主演、アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演男優賞(ホフマン)等を獲得しています。古い映画ですが、ストーリーも、ホフマンとトムの演技も色あせない名作だと思います。
 小説では、ある登場人物について説明する際に、語り手がこの映画を引き合いに出します。また、個人的には、内容面でも村上さんの小説とリンクする部分があると感じます。(小説の内容に先入観を持ちたくない方は、以下の説明をとばして下さい)



 知的障碍者である兄をウザく思うチャーリー(トム)。彼の頭には、父の遺産の受取人である兄(ホフマン)を利用して、金を巻き上げることしかありません。ところが、レイモンドが口にしたある言葉から、幼い日の思い出がよみがえり…。掘り起こされた過去の記憶が、現在のチャーリーを大きく変えることになります。現在の自分の性格や人生との向き合い方が、過去の出来事によって変化する。今この時も、自分自身も、そして過去の出来事さえも不変ではない、常に揺らぎ、うつろうものなのだと感じさせる映画だと思います。


マザーグース

 英国の童謡。シビアな内容の歌も多く、アガサ・クリスティーのミステリ小説には、マザーグースの内容通りに殺人が起きるという話もあります。『街とその不確かな壁』には「月曜日の子供は(月曜日に生まれた子供の意味)美しい顔を持ち、火曜日の子供はおしとやか、水曜日の子供は苦しいことだらけ…」という童謡が出てきます。なんだか自分が生まれた曜日を知りたくなくなる歌ですね…。詩人・谷川俊太郎さんの日本語訳が有名です。


『スター・アイズ』

 カフェで流れている曲。
「ピアノ・トリオの端正な演奏だったが、ピアニストの名前まではわからない」とあります。『I Dood It』というミュージカル映画の曲で、ジャズやポップスのスタンダードになっているようです。ピアノ・トリオではビル・エヴァンスのが有名とネットに書いてあったので、それをプレイリストに入れておきました。

エロール・ガーナ―『パリの四月』

 これもカフェで流れる曲。エロール・ガーナ―はジャズピアニスト&作曲家。とても有名な『ミスティ』はこの方の曲だそうです。『パリの四月』は、『神の子どもたちはみな踊る』収録の「タイランド」にも出てきます。

『ユー・ゴー・トゥー・マイ・ヘッド』

 同じくカフェで流れる曲。ポール・デズモンドのアルトサックス、ギターはジム・ホールだと主人公は語っています。この曲もジャズとポップス、両方のスタンダード曲だそうです。

プレイリストには、後篇で取り上げる曲も入れてあります。


 
 後篇はこちら


この記事が参加している募集

推薦図書

海外文学のススメ

読んでくださってありがとうございます。コメントや感想をいただけると嬉しいです。