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ひつじたちの旅-FINAL

前回の記事はコチラ ↓↓


お望み通りワインと

お気に召すまま。
赤ワインなんてオーダーしちゃって。

チーズに蜂蜜と脂の多い生ハム

私たち夫婦は基本的に
お酒が飲めない種族に分類されます。
居酒屋さんの料理は好きですけど。


牛すじの赤ワイン煮込みかと


ちなみに私は飲んでいません。
お料理は意外と、というと失礼ですが
じっくり煮込んだ味わい深いテイスト。
柔らかく煮込まれた牛スジが
口の中でホロホロとなる。
濃厚なソースはクドさを感じず
華やかな香りが抜けていく。
おいしいです。

こんなのも食べながら、おしゃべりを
楽しんでね。いいね。いい感じ


ポルチーニ茸とゴルゴンゾーラのニョッキ


チーズとクリームソースの重厚感
かなり強めの癖を感じる上に
ポルチーニが仕入れコストを上回る
限界の仕事をしてくる。その中に
柔らかくも弾力性に富んだニョッキ
これらを上手いこと調和させている
シェフの腕

っココはいい店だったのかも?

そうしているうちに真ん中の
年カップルが退店。ようやく
お店は落ち着いた雰囲気になると
誰もが思った次の瞬間....


3人組が入店

店長の知り合いか、常連か、
それともいわゆる地域の...みたいな
まず男が1人小走りで厨房に入り
「○○さん来るからよ」
「いや俺はイイだけど○○さんだぞ」
などという誰が聞いてもわかる
職業:太鼓持ち
用件だけ告げると、彼はそそくさと出ていった。

そしてゆっくりと上機嫌で入ってきたカップル。
年の頃どれくらいだろう。
上にも見えるし、同じくらいにも見える。
○○さんは太めの短髪、ありがちなジャージ
おそらくは金のネックレスを下げているはず。
一緒の女性は水商売の方だろうか派手な格好。
うるさくなるなぁというところで

ティラミス

サッパリとしたマスカルポーネチーズ
ホロ苦いエスプレッソに浸したスポンジ
ラフに取り分けたシェイプ
一口食べたところで妻が


「ちょっとトイレに」

はいはい。


一人きりになると急に居心地が
悪くなる。ミスチョイスだったかな。
店選びに失敗したともいえる。
あの時、座らずにそのまま踵を返して
店を後にしていれば、気分を害することも
なかったであろうに。

「ガハハハハハッ」

女性の方もやけに威勢が良い。
聞き耳を立てなくても
隣のデカい声が店内を埋め尽くす。

まぁ、味は美味しかったし
旅先だしね。トイレにはスラムダンクの
ポスターがあったし、それだけでも
良しとするk....



おかしい


なかなか戻ってこない。
もしかしてスラムダンクのポスター相手に
山王のキャラの名前が思い出せない…などと
長考に入っているのだろうか。

でもわかる。長年の空気から。
コレはヤバイ。


幸いトイレは一つしかないので
席を立ってノックしてみる。
っと同時に妻が出てきたが



顔色悪ぅ(汗)

さっきまで上機嫌かのように見えた
彼女の顔が真っ青を通り越して
白より白い
これは良くないやつ。


会計をしてもう出よう!
声を掛けるも立っていられない様子。
私がレジで会計を済ませているときに
外へ通じるガラス戸を押している…
と思いきや
直立で前のめりになっていった。


アワワ

急いで抱きかかえると彼女は
完全に意識を失っている。
脱力しきった人間というのは
非常に重い。

「大丈夫か!大丈夫か!」
頬を叩いてみるも反応なし
身体も熱を帯びているようには感じなかった

すると異変を秒で察知した
女性がすっ飛んできた。

「大丈夫?けがはない?薬は飲まれていますか?」

即座に脈を測り出す。

この女性は店員でもなく店長でもなく

最後に入店してきたあの○○さんのツレの方


しばらくして一時、意識が戻り
外に出て車に乗ろうするが
駐車場でまた脱力して
座り込むような形に。
しかし、しゃがめるほどの意識はなく
私が後で支えてなければ、転倒していただろう。

○○さんとツレの女性は
店外まで出てきてくれて
「おそらく貧血だろう、慌てないように。」
「後部座席に横向きにね」「水を飲ませてあげて」

なんということだろうか
私はこんなに自分を恥じたことはなかった
そう、人を見かけで判断することの愚かさを。

事情はどうであれ、店の方よりも親身になって
声を掛けてくれたこの二人に対して
先程まで、私はなんという失礼な
思いを抱いていたのだろうか

この愚か者め!

数分前にタイムリープして
自分の後頭部をスリッパで叩きたい
人を見かけで判断してはいけないのだ。


ただひたすらに感謝したあと
コンビニまで車を走らせた。
水を買ってきたところでパートナーは目を覚まし、


「んンン?おやぁ?」


大事には至らなかったようだ。
水を飲ませ落ち着かせると
ディナーを台無しにしてしまったことを
謝っていた。いいのだそんなことは。
君が無事ならそれでいいのだ。

お酒を覚えたての若い娘が
ペースも分からずに飲みまくって
ぶっ倒れるかのような.…
もうそんなのはとうに通り過ぎた。
今はお互いにもう若くはない。

「飲ませすぎちゃダメよ!」

去り際にあの女性から言われたセリフに
私は「ハハハ…ィ」としか返事できなかった。


ワイン1杯も飲みきらずに
大騒ぎしたひつじ年夫婦のなんと滑稽なことよ。

○○二十年以上連れ添った私たちは
出会ったアノ頃から
何も成長していなかったのだ。



旅のはしゃぎ過ぎには注意しましょう。

-完-


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