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装画『猫町くんと猫と黒猫』-メイキング

『猫町くんと猫と黒猫』
著:樒屋京介 氏
刊:小学館
発売日:2018/07/18
ISBN:9784093865166
デザイン: bookwall 

装画を担当させていただきました。

試し読み↓

「不意に猫の血をこじらせて、人間相手の恋に落ちた」

猫町夫妻に助けられた捨て猫の僕は、人間に化けられるという特技と、猫ゆえの成長の早さで、二歳半ながら高校に通っている。そして密かに同級生に恋心を抱いていた。
猫町君の切ない恋の行方と短すぎる青春模様を活写し、第17回小学館文庫小説賞優秀賞を受賞。尾道出身作家のデビュー作は、
「読んだ人が、もっとペットを好きになる」
尾道と猫への愛に満ちあふれたファンタジックな青春小説の傑作です。

bookwallさん&小学館さんとのお仕事、
かつ猫にまつわる物語のお仕事
第二弾。
ちなみに第一弾はこちら↓


以下、紆余曲折メイキングです。
今回はかなり長い…


とりあえず最初は
あまり内容に縛られすぎず自由にネタ出しを…
とのことだったのでざっくりと

アイディアスケッチ

・物語の舞台である「尾道」を描く
 (できれば空と海の両方を見せたい!)
・表紙で海まで続く下り坂、裏表紙で家屋の密集した上り坂
・一目で「猫」にまつわる話だとわかるように
 猫の肉球型の窓から爽やかな街並みがのぞいている
・カラーの部分で人間の現実的な世界、
 線画の部分であやかし達の非現実な世界を描く
・主人公・猫町くんはそのふたつの世界をまたぐ存在であると示す

化け猫、猫又、天狗や河童などのあやかしと人間がふつうに共存する世界。
ファンタジー色が強く個性的なキャラクターがたくさん登場するので、
コミカルでかわいく賑やかに…というイメージでした。
 完成版と比べるとほんとうにまったく違いますね。

これに対するディレクションは

・妖怪もののファンタジー色が強く出過ぎている
・現実的な風景にほんの少し違和感があるくらいで
・表紙では猫町くんの青春、恋、切なさが感じられるように
・猫町くんの外見は内省的でまじめな雰囲気に

とのことだったので、
ナチュラルで叙情的な方向へ修正することに。

ラフスケッチ1

・表紙で下り坂、裏表紙で上り坂という構図はそのまま
 密集した尾道の街並みを描く
・青っぽい影を落として初夏の爽やかさと怪しさを演出
・日向が人間の世界、日陰があやかしの世界というイメージ

猫町くんの表情やしぐさも修正。

これに対しては

・青い影のホラー感が強すぎる、おどろおどろしい
・尾道は密集した街並みのイメージがあるが、
 これでは閉塞感が強すぎるのでもっと開放感を出してほしい
・猫町くんがヒロインの「美夜子さん」に恋をしている、
 その関係性を象徴的に描いてほしい
・猫町くんは猫の姿のままにしてみてほしい
・表紙が上り坂のパターンも作ってみてほしい

とのことだったのでラフを修正しつつ
新しい構図を複数案作ってみます

ラフスケッチ2 & アイディアスケッチ2

最初のラフから遮蔽物を取り払い開放感を出したA・B案、
上り坂にしたC案、
下り坂のバリエーションD・E・F案。
猫から人間への叶わぬ恋…となると猫町くんは後ろ姿のイメージでした。

これで採用になったのがC案

・下から見上げる猫町くんが愛らしい
・セーラー服の女子高生がいれば、それだけでもほのかな青春感が出る
・空まで伸びていく階段がちょっと不思議で面白い
・これでさらに空のスペースを広げて欲しい

しかしC案の上り坂だと
どうしても手前に建物がそびえ立ってしまうので、
裏表紙でかなりの閉塞感が出てしまうのでは…?
と思ったのですが

裏表紙のほうで、最初のラフの「海へ続く下り坂」を描いてはどうか

つまり表紙と裏表紙で
正反対の構図のイラストを2枚描くことになりました。
最初のラフの左右がそっくり入れ替わるかんじですね。
最初に自分からそんなかんじの構図を提案しといてなんなんですが
「oh...大変そうだな...」
と思いました。
そしてとりいそぎ表紙のラフを描き進め…

ラフスケッチ3

ナチュラルで叙情的なかんじに…と意識して描き
これでようやく本番制作に進めるかな?と思っていたのですが
これに対して

現実的すぎる

とのコメントが。

・この物語の魅力は、「現実と異界の間」にある
・尾道のリアルな街並みをそのまま描いたのでは面白みがない
・こぢんまりとした日常でなく、ちょっと変わった印象がほしい
・直感的に引き込まれる感じ

納品した後ならまさにおっしゃる通り!と思えますが
この当時は
「普通ではありえないくらい長く伸びた坂道=”現実と非現実の間”感
 ではないのか?」
「妖怪ものっぽいファンタジー感が強くなってはダメ」
「影のつけ方などで異界感を出そうとしたらホラーととられた」
「現実ではありえないカラーリングや模様でチグハグ感を出してみるか…?」
「でもそうするとナチュラルな叙情性とかふっとぶな???」
「現実感って何???非現実ってどこから????」

と大混乱でした。

その後、デザイナーさん・編集さんとやりとりを重ね
「何を描くか」でなく「どう描くか」
に重点を置かれているんだなと再認識

デザイナーさんにデザインラフを作っていただき
空間を魚眼っぽく歪ませることになりました。
一番最初の「キャラクター推し」という発想から修正に修正を重ねて、
主観としては「非現実的な要素をどんどん削っていく」作業だったのと
ここにくるまでタッチについての指定はほぼなかったので
こういう発想はまったく浮かびませんでした。
過去作に空間を湾曲させたものはありますが、

「実在の町を描く」場合は「模写」に気を取られがちで
最初からご指定いただいていないとなかなかこういう発想に至れないなぁと感じました。
(無意識に『本を守ろうとする猫の話』のイメージに囚われていたというのもあるかもしれません)

ラフスケッチ4

そしてようやく至ったのがこちら。
寒色中心で切なさ・儚さ・透明感を出せたらなと。
デザイナーさんと「背景は線画だけでもおもしろいかも」とお話ししていましたが、こちらは不採用。別の機会でこういうのもできたらいいな。

デザイナーさんによるレイアウトラフ。
ここからようやく本番制作に入れました。長かった…
今回は想定以上に時間がかかって、先方様にもずいぶんご迷惑をおかけしてしまいました。すみませんでした。。。
それでもやっぱり出来上がった絵を見ると

最初よりずっとよいものができた!と実感できます。

ご依頼されてすぐ読後の感想で

彼女(美夜子さん)と猫町くんの時間の流れが違うという切なさと、
それ込みでも「今」いっしょにいることが大事
というスタンスが個人的にぐっときました。

と お伝えしたのですが。
それは読み進めて初めて「こういう話だったのか」と思わせるところで、
表紙ではあやかし達がたくさん登場する華やかな画面で目を引くイメージでした。
今ふりかえるとこの感想のあとであのアイディアスケッチを出されたら
「詐欺かよ」てかんじですね。
完成品では帯のキャッチコピーも相まってとても切なく
この季節にぴったりな、爽やかで涼しげなビジュアルになりました。

猫好きさん、だけでなく動物とともに生きるすべての人へ。
どうぞよろしくお願いいたします。



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