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Le Chat Noir「黒猫」。

ママ、ママ起きて、早く起きて。温かい肉球が頬にあたる。

ちゃーちゃんが起こす冬の早朝。うっすら目をあけて部屋に飾っているフレームに入ったポスターが薄明かりの中、一番に目にはいる。ちゃーちゃんは早起きだから。
「ママ起きてよねーねー、僕起きたよ」
と、朝4時半頃から額をコッツンコッツンしたり、顔をペチペチ叩いてくるのでまだ、睡眠導入剤で鈍る頭を枕からは起こさず小さな頭を撫でながら寒いね、ちゃーちゃん、こっちおいで、とようやく上半身を起こした。私も一緒に猫になる。愛猫はちょこんと私の右横に来ていつもの可愛いフミフミをしてくれている。こんな時の私は母猫になってしまう。



               Le  Chat Noir.



黒い服を着ていることが多いのでちゃーちゃんは黒い母猫に寄り添いながら小さくうみゅ、と甘えた声で母猫になったつもりの私の膝の上や足元に、寝床の周りをうろうろしながら一番温かい場所を探しているみたいにみえてしまう。

小さな頭が冷たい手をあたためてくれている。ちゃーちゃんはいつでもお日さまのにおいがする。飾ってあるル・シャノワールのポスターをぼんやり眺めながら。頭の中ではいろいろなことを考えながら。
これもモンマルトルにあったキャバレーのポスターだったな。    
スタンランのル・シャノワール。スタンランがモチーフにしたものは「ネコ」が多い。
            
ムーラン・ルージュよりも古いル・シャノワール。娘も大好きだったポスター。一番最初に保護して飼った猫も黒猫だったな……。

あーちゃん。

彼女もやはりロートレックのポスターのプリントされた箱など小物入れを使っていたな、ロートレックもスタンランには影響を受けたらしい。

・・・

母親と娘、ってどこかやはり似ているんだな。

娘にいきなり会いたくなる。こんな朝早くは当然無理で。
ましてや孫の碧はミッション系の幼稚園に通っている。今日は一足早い、クリスマスのお祈りの会で。

私は乳ガンのための通院予約日で。付き添いは誰もいない。

・・・

母と娘。私にもかつては母が生きていたのだから。
何でも話せる友達母娘、って関係は聞こえはいいけど今でも綺麗事だと感じている。デリケートなことはなおさら母娘だからこそお互いを思い、話せない、話さないこともあるのだろう。

・・・

母親、つまりは私の影響は
彼女にもあったはずだから。
姫ちゃん、の愛称のあーちゃん……。デカダンな世界が好きな私に似ていて。彼女もやはり耽美な倒錯した世界が好きだったけど。今はエプロン姿で毎朝我が子を幼稚園に送り出している。どこにでもいるお母さんになれた娘。一人息子の碧を大切にしながら。そして母親の私を気遣いながら。

私だけ成長できていないね、と自嘲しているクリスマスの前。

周りから理解されなくてかまわないはずが一抹のさみしさを感じてしまう。

・・・

娘も部屋に飾っていたよね、と思い出す。
「ママ私、この絵が好きなの」
無邪気に笑っていたまだ学生の頃の娘の笑顔を思い出しながら。いつの間に私は歳をとったのかしら、あと、4年なんかあっというまで亡くなった母に追いついてしまうな、と蒲団の中に脚をいれたまま、白々と明けゆく空をみている。冬至、って終わったはずよね、これから陽は長くなっていくのだから。

         ぁ、やっぱり 温かい。

生き物のぬくもりはなによりの癒しになるから。

先日から痛ましいニュースばかりで心が痛む。朝から小さな音で教会音楽を流している。以前からアヴェマリア、グレゴリオ聖歌のCDをたまに聴くので私にとって今に始まったことではない。
ここ最近、自身のつらい思い出を口に出さずに訪れてくれる友人や電話をくれる友人には元気な「ふり」をしてはいるけれども。

・・・

静かな日にしたい。ランダムにCD引っ張り出したり。
苦しくてもずっと、永遠に生きていたいなんて思いながら音楽を聴いている。CD見つからないならYouTubemusicから引っ張り出す。やはり音楽が傷を癒している。

娘と一緒に聴いていたMALICE MIZER。映画、薔薇の婚礼はスカパーで観たな。それもやはり寒い冬だったことも。

ル・シャノワールとMALICE MIZERは世界観が違うけど共通項がいくつかある。

           第3期MALICE MIZERは漆黒の衣装でステージに立っている。そして彼らもやはり芸術家だから。そして前衛的な活動をしてきた。

              黒。Noir。

12月15日から今日までの一週間、人に話さなかったことがたくさんありすぎる。話せなかったこともありすぎる。

二回目の結婚。入籍した日。
その一年後に入籍した日すら私はガンで苦しむ愛猫の世話で毎日、亡くなった愛猫りりこの体重に一喜一憂していてすっかり忘れていて。昨日は彼女の月命日で。

・・・

大切なことを人はたまに忘れてしまう。それが所謂、記念日ならば相手は傷ついたかもしれない。

日記代わりになってしまったスマホの機能。

3年前はやはりこれを聴いていたんだわ、華原朋美さんがカヴァーしたのを。記録がスマホにある。


ポロポロ泣いた思い出やキッチンに座り込み、膝を抱えてこれらを聴いて年末をやり過ごしていたんだわ、3年前、あの人の前で初めて歌を歌ったんだわ、って。

明けない夜はない、って一級上の女性が言ってくれたことも。ゆー姉ちゃん、過去は変えられないけど未來は変えられる!って言ってくれた従姉妹の励ましにも感謝しながら。

音楽を流しながらル・シャノワールを眺めている。

どうせなら夜の来ない白夜にいたいなんて思いながら。

母黒猫が茶トラの子猫を撫でている。

・・・

母よりも先に我が子が逝く。

これ以上のつらさはないのではないか。

・・・

母と子、いや、母と娘にしかわからない愛や絆、深い想い。

自身を偉大なアイドル、松田聖子さんに重ねるのはおこがましいけどクリスマスディナーショーの終わった楽屋で我が娘の訃報を知った聖子さんにとって生きてきて一番つらいクリスマスではないのだろうか、と沈痛な気持ちの朝が続く。
地方にいる母黒猫の目に涙があふれている朝になった。

母黒猫は思っている。彼女は一足先に銀河鉄道で宙の汽車の中にいるのだ、と。

願っている。信じている。

 シリーズ・戦士の休息(伍)
                    ゆー。


「戦士の休息」から始まる一人きりになった私の日々。

マガジンにまとめました。
シリーズ・「戦士の休息。」



こちらは連作となっております。
「戦士」、私のことですが。乳ガンをきっかけに一人になってしまった時間をどんな気持ちで過ごしているのかを音楽の調べにのせて書いていきます。散文やエッセイ、詩など、クリスマスがやってくる前の憂鬱、そしていろいろな葛藤、自分の思いを素直に書いていきます。

                  姫崎ゆー。

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