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短編小説:中村はサンタになる

 今日は12月25日。

 何の日でしょう?

 正解は…、
 もちろん決まってます、推しのサンタコスを拝む日です!!

「うるせえよ、全部声に出てるんだよ」
 僕は、ベッドでごろごろしながらひとり騒いでいる中村に向かって言った。スマホを眺めていた中村は、不満げにこちらを見る。
「なんだよ、別に良いだろ」
「声がでかいんだよ。うるさいな」
「なんだお前、ルームメイトに向かって」
「何がルームメイトだ!お前は居候だろ!」

 中村は、数か月前から僕の家に居候している。
 なんでも、バイト先をクビになり、ギャンブルで金を使い果たしたうえに、家賃を滞納して大家さんから追い出されたらしい。金も住む家もないからしばらく泊めてほしいと泣きつかれ、仕方なく泊めてやっている。
 ときどきバイトには行っているが、どれも長くは続かず、いまだに居候を続けている。迷惑な話だ。
「まあ、でもさ、今日が推しのサンタコスを拝む日ってことに代わりはないだろ」
 話を変えてきた。僕には推しもいないし、誰かのサンタクロースのコスプレを見る趣味もない。僕にとってはそんな日ではない。
「てかさあ、」
 中村は起き上がりながら話し始めた。ああ、なんだか面倒なことになりそう。
「お前、サンタといえば何色?」
「え?そりゃ赤だろ」
「だろ?普通、赤だろ」
「それがどうしたの」
「なんでアイドルのサンタコスってのは、赤じゃなくてメンバーカラーでやるんかな、と思ってさ」
「はあ」
 ほら、見てみろ、と中村がスマホの画面を見せてきた。そこには、中村が推しているアイドルグループ。全員サンタクロースの衣装をまとっているが、確かに赤はひとりだけで、それぞれ違う色を着ている。
「俺が見たいのは、純粋なサンタコスなんだよ。でもメンカラ(メンバーカラーの略)でやっちゃうと、ちゃんとしたサンタになれるのはひとりだけじゃん」
「はあ」
「まあ、百歩譲ってピンクとかは良いよ。かわいいし。でも、メンカラが黒の子とかひどいじゃん。ブラックサンタじゃん」
「はあ」
「俺はみんなに赤を着てほしいんだよ!」
「はあ」
「お前さっきからテキトーな返事してるけど、興味ないだろ」
「うん」
 中村には悪いが興味がない。確かに、ブラックサンタは気の毒な気がするが、仕方ないだろう。
「あーあ、つまんねえなあ」
「うるせえな」
 中村は再び寝転がったが、またすぐに起き上がった。起き上がりこぼしかよ。
「なあ、何かクリスマスっぽいことしようぜ」
「え?」
「だってさあ、何にもしてないじゃん、クリスマスなこと」
「しなくて良いだろ」
 男ふたりで何しろっていうんだ。
「いや、なんか腹立つじゃん。俺たちはいつも通りなのに、世間はクリスマスなんだぜ?」
「仕方ないだろ、クリスマスなんだから」
「なんかむしゃくしゃするし。そこのコンビニのゴムでも買い占めてやろいかな。世のカップルへの逆襲だ」
「馬鹿野郎」
「あ、それはするならクリスマスイブか」
「そうじゃねえよ」
 相手にするだけ無駄だ。
 すっかり忘れていた。中村とは、こういうやつだ。まともに話を聞いたら負けだ。時間の無駄だ。
「せめて、チキンでも食おうぜ」
「なんで」
「クリスマスって言ったらチキンだろ。お前、チキンなしで今日を終えるつもりか?」
「今から?もう夕飯食べたじゃん」
「食ったけどさ。なんか腹減ってるんだよ」
「食べ盛りかよ」
 でも、言われてみれば、なんだか僕もおなかが空いてきた。しっかり夕飯は食べたはずなのだが。いつもより少なかったのかもしれない。
「はあ、行くか、コンビニ」
「お!いいね!」
 中村はもう立ち上がっている。僕は財布をズボンのポケットに突っ込むと外に出た。もちろん、中村は手ぶらである。

「ないじゃん」
 なかった。
 すぐ近くのコンビニに入ったものの、チキンは売り切れていた。チキンだけではない。揚げ物類が全然ない。ついでに、肉まんたちもない。
「どうするよ」
 中村は不満そうな顔を僕に向ける。いや、僕のせいではない。
「どうしようもないでしょ」
「…ゴム買い占めるか」
「売ってる場所知らないくせに」
「…」
 あきらめたのか、中村はカップ麺のコーナーに歩いて行った。僕は適当に目に入ったホットドッグを手に取る。
 レジに向かうと、中村は当然のように自分の商品も置いた。カップ麺の、少しサイズの大きい高いやつ。…仕方ない、クリスマスだし、今日だけ許してやろう。
「それ、温めた方がうまいよ」
 コンビニを出た帰り道、中村は僕のホットドッグを指さした。
「そうなの?」
「うん、パッケージにも書いてあるぜ」
「なんでレジのときに言ってくれないんだよ」
「今思い出した。家でチンしたらいいじゃん」
「まあそうだけど」
 自分はちゃっかり、コンビニでお湯入れてきたくせに。

 帰り着くなり、中村はどかっと座るとテレビをつけ、さっそくカップ麺をすすっている。うまそうな音だ。
 僕はホットドッグを温めようとキッチンへ向かう。その時、
「おい!見ろよ!」
 と、中村の大きな声。
 ああ、今度は何なんだ。しぶしぶ中村の方へ行く。
「なんだよ」
「ほら!見ろ!赤い…!全員、赤いぞ!」
 中村は興奮気味にテレビを指さした。
 ちょうど、音楽番組をやっているようだ。そして、画面に映っているのは中村の推しのアイドルたち。サンタクロースの格好をしている。衣装の色は、メンバーカラーではなく、赤。ボタンの色だけそれぞれのカラーになっている。
「俺の…、俺の理想だ…、赤だ…」
 興奮しすぎて、中村は絞り出すような声になっている。
 中村にとっては嬉しいことかもしれないが、僕にとっては本気で、本当に、どうでも良い!!
 というか、そんなに珍しいことでもないだろう。
「はいはい、よかったね」
 また時間を無駄にした。
 僕はホットドッグを温めようと電子レンジを開けて…、「あっ!」と思わず大声を出した。
「どうしたんだよ」
「これ…、忘れてた」
 電子レンジの中には、大皿。その中には、大盛の冷凍から揚げたち。そうだ、夕飯に食べようと思って温めていたのに、そのまま忘れてしまっていた。どうりで夕飯を食べたはずなのにおなかが空いたわけだ。メインのおかずがなかったんだもの。
「おー!チキンじゃん!」
「いや、まあ、一応鶏肉ではあるけど」
「それ食える?」
「冷めてるけど…、もう一回温めたら大丈夫かな」
「よっしゃー!」
 やたらと中村は嬉しそうだ。
「そんなにから揚げ好きだったっけ?」
「いやいや。完璧じゃん」
「何が」
「ちゃんとした赤のサンタコスも見られて、チキンもあって…」
「から揚げだけど」
「俺の理想通りじゃん」
「は?」
「俺の理想のクリスマスになってんじゃん!」
「…はあ」
 ああ、また何か騒ぎ始めた。面倒くさいなあ。っていうか、本当にうるさいなあ。
「やばい、俺、ちょっと能力があるのかもしれない」
「何の」
「俺は自分の理想を叶える能力があるかもしれないってことだよ!」
「…何かキめてる?大丈夫?」
「シラフだわ!いや、これはすごいぞ。今のところ俺の思い通りになってるぞ」
「本当にお前の思い通りになるなら、今頃僕の家に居候とかしてないと思うけど」
「もしこの能力がもっと開花したら…、俺はサンタになれるかもしれないぞ。世界中を幸せにできるぞ!」
 あ、だめだ。全然聞いてないな。
 というか、どうやったらこんな思考回路になるんだ。どれもただの偶然じゃないか。僕にもその馬鹿みたいなポジティブを分けてほしい。

 そんなことを考える僕のことなど眼中になく、中村は幸せそうにから揚げを頬張っている。


 さて、この中村の言う「能力」。実はあながち間違ってはいないもので、本当に彼には自分の理想を叶える能力を持っており、それを使って世界の子どもたちを救うことに…、

 なんていう展開には、ならない。
 なるはずがない。



同じ世界線の話。今回は1円玉のくだりは出てきませんが。


 


※フィクションです。
 定期的にしょーーもない話が書きたくなります。許してください。

 さて、今日は何の日でしょう。
 M-1グランプリから1週間が経った日ですね!!
 あれからすっかり 男性ブランコ さんにはまってしまい、夜な夜な動画を観漁っております。おかげで寝不足です。今日も観ます。明日も寝不足です。

 え?今日はクリスマス?
 …知らん知らん、そんなもん。

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