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霞始靆‥かすみはじめてたなびく

『霞始靆‥かすみはじめてたなびく』

           2月24日から28日頃


春の女神と呼ばれる「佐保姫」が
厳しい寒さの中わたしたちの元へ春を届けにやってくる季節が来ました。

「佐保姫」とは霞の衣を纏い
柳の糸を染め花を咲かせ
春の山野を司る神と呼ばれており

この時期になると遠くの山々にうっすらと白い靄(もや)がかかり山全体がふんわりと
そして雲や霞が横にたなびく様子が
衣の裾のように見えることからそう名付けられたと言われています。
 

やわらかなベールに包まれ
ふわりと優しく微笑む
そんな佐保姫を心に描くとあたたかな春が
もうすぐそこまで来ているようで
まだまだ寒い空気もほんの少し
和らぐような気持ちになります。



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春に霞と呼ばれるこの現象は
秋には霧。
そして夜には朧(おぼろ)と‥
同じ様子なのに季節や時間によって
呼び名が変わるのですが


『朧月夜』という童謡には
その「霞」と「朧」が相まって
詠われています。


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菜の花畑に入り日薄れ
見渡す山の端 霞深し
春風そよ吹く空を見れば
夕月かかりてにおひ淡し

里わの火影も森の色も
田中の小路をたどる人も
蛙のなくねも鐘の音も
さながら霞める朧月夜


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実際にこの風景の中にいた記憶などないのに
どこか懐かしく
目を閉じると色彩豊かな風景画としてその情景が広がり思い描くことができる‥


白い靄がぼんやりと山を霞め
菜の花畑が夕日に照らされ金色に輝く様子
夕方になり少し冷たく頬に当たる風

鐘の音が鳴り家路を急ぐ子供たちの声
ゲコゲコ鳴く蛙の声‥。

そんなひとつひとつの音も風も
風景もすべてそのまま
おぼろ月夜に包まれその日一日が終わっていく‥


なんとも美しい古きよき日本の景色がそこにはあります。
だからこそ今もなお愛され続ける歌なのでしょう。



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霞といえば
もうひとつ紹介したい和歌があります。

 


春立つといふ許(ばかり)にや
三吉野の山もかすみて
今朝は見ゆらん

        壬生忠岑


現代語訳は

立春を迎えたというだけで
雪深い吉野山も霞みがかかって
見えてしまうのだろう


暦の上では立春を過ぎ
そして雨水になりましたが

実際の日常は春の気配どころか

雪が降り吹く風は強く冷たく
寒さに凍えるそんな毎日なのに
それでもどこかに春の気配を探してしまう‥‥。小さな小さな変化を
春の知らせだと思い込んでしまう‥。

そんな今のわたしの心情が

まだ霞などかかっていないのに
春を待ちわびる気持ちから
山に霞がかかっているように見えた‥と詠った
壬生忠岑の心情とリンクするのです。


春を心待ちにする気持ちに昔も今も違いはなく
こうして和歌や俳句などに触れるたび、どんなに時代が変わろうとも奥深い部分はやはり通じるものがあることを知るのです。


そしてそれは決して消えてしまわぬよういつまでも大切にしたいものであることを
改めて再認識するのです。



そして春といえば桜

桜といえば薄紅色で儚いイメージのソメイヨシノが一番に浮かびますが

早咲きの河津桜も可愛らしく2月初旬から3月初旬までゆっくり満開になっていくのが特徴です。 


わたしの住むこの辺りでも、少し足を伸ばせば咲いている場所がありますが、いつかいつか‥と思いながらも寒い時期の休日は冬ごもりばかりしていて本物を見たことはありませんでした。

そんな中、一昨年の春偶然車で15分ほどの場所で海沿いに咲く河津桜を見つけたときは嬉しくて嬉しくて‥。

これは後から知ったのですが近くのその辺りには四ヶ所ほど咲いている場所があるようです。今年もまた見に行けるといいな。



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わたしたちは今いつまで続くのか分からない終わりの見えない長い長いトンネルの中。

遥か遠くに見えるほんのわずかな‥ほんの微かな光を頼りに誰もが皆不安な日々を過ごしていると思います。

わたしの住む鳥取県でも連日のように小中学校、高校などでも多く感染者が発表されていて明日どうなるかさえ分からない現実。

桜の開花や春の訪れはそんなわたしたちにきっとやわらかな希望の光と明日への力をくれるはずです。そう信じ穏やかな日常が戻ることを祈りつつ‥。



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あおさんのフォトに添えて‥。




霞始靆‥かすみはじめてたなびく

春霞や雲が薄く層を成してたなびき、遠くの景色にに白い靄がかかりぼんやりとかすんで見える頃。




読んでいただきありがとうございます。




           photographer‥あお

              writer‥るん

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