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読書感想 『望まない孤独』 大空幸星   「支援の本質」

 ニュースなどで見て、著者のことは知っていた。

 ただ、失礼ながら、相談窓口をつくった大学生、というくらいしか知らなかったし、見た目もさわやかな、若いエリートだと思っていた。

 しかも名前が、おおぞらこうき。本名らしい。

 だけど、著書を読んで、人は表面的な見た目だけでは分からないことを、また知った。

『望まない孤独』 大空幸星

 著者本人は、それほどの強い表現をしてないのだけど、読者にとっては、著者は、かなりハードな家庭環境の中で育ってきて、生きる目標といったこともイメージするのが難しい年月が続いているように見えた。それでも、自分のことを本当に心配してくれる学校の先生に出会った。

先生は「過去を悲観するのではなく、これからの人生をどう生きていくかを決めなさい」という言葉をくれた。本当に「信頼できる人」を得たような気がした。

 こうした話を知ると、どれだけ厳しい環境に育っても、一人でも「本当に真っ当な大人」に会える事がどれだけ大事なのかを、改めて考えさせられる。しかも、その出会いが、著者は幸運に恵まれたが、あくまでも、運不運に左右される理不尽さも、同時に感じる。

 その後、著者は、大学に進学し、その上で「ひとり親家庭の子どもたち」の支援を始めることも決めていた。それは、やはりすごいことだと素直に思う。

大学入学時に固めた決意は、次第にひとり親家庭の子どもたちだけでなく、「問題を抱えるすべての人」に変わっていった。そして大学3年生になった2020年。問題を抱える人が必ず現れる人に出会えるための仕組みとして、NPO法人あなたのいばしょを設立した。早稲田大学に通う友人に声をかけ、たった二人で始めたNPOだ。普段電話を使わない子どもたちも含めて相談しやすいツールということで、「チャット」を選んだ。

 そこから、その相談窓口を、より有効な場所にするために、様々な工夫を重ね、多くの相談を受けられるようにし続け、2年で、成果を出している。

 それは、本当に難しいことを、実現させていると思う。

支援の問題点

 ここまで成果をあげられたのは、実際に支援に携わっている人間にとっては、耳の痛いことも指摘されているが、これまでの「支援の問題点」を、当事者として身に染みるように分かっていたからではないだろうか。

 例えば、その問題点の一つは、「児童訪問援助事業」を利用しようと、子供の頃に思ったときに、そこで見たのは「利用件数1件」という現実だった。

せっかく勇気を出して相談しようと思っても、相談までの道のりが長く、また必ず親の関与があるこの事業は、ひとり親家庭の子どもを救うために有効とはいえない。

 相談窓口があるのは、もちろん重要だが、そのサービスが利用しやすいかどうかが、さらに大事なことになるのは、他人事のようには言えないにしても、支援側が、おそらく、現時点では、その本質を十分にわかっていないのだと思う。

1995年に全国で立った154か所しかなかったスクールカウンセラーの配置は、2020年には3万か所を超えた。25年で約200倍に増加したのだ。しかしこの間、小中高生の自殺者数は3・6倍に増えた。このことについて、国会や有識者会議等では一度も議論されていない。

このケースは、子どもたちが抱える「スクールカウンセラーと話していることを友達や先生に見られるのが恥ずかしい」「誰かに頼るのは悪いこと」といったスティグマの存在に気づかず、これを放置している間に、莫大な社会的資源を消費して「使われない」支援制度だけを拡充してきた結果だ。一貫して子どもや若者の自殺が増え続けているなかで、何ら有効な支援策を示せずにいた人たちの一部が、いまさらのように「SOSの出し方教育」などと言っているが、子どもが誰かに頼る行為を「SOS」と定義している時点で、「誰かに頼ることは恥ずかしいこと」などの内向きのスティグマを強化する可能性があるし、そもそも誰かに頼ることのハードルを上げている。(中略)どんな気軽なことでも誰かに頼ることは、悪いことでも、負けでもないということを広めていかなくてはいけないのだ。 

理解の不足

 現在、細々とながら支援に関わっている人間の一人として、かなり反省が必要なことでもあると思うが、やはり現状に対して、また、困窮している当事者への、理解の不足があるのだろう、とは改めて考える。

実は、2020年の小中高生の自殺者数の原因・動機の上位10項目に、「いじめ」は入っていない。最も多かったのは「その他進路に関する悩み」の55人で、「学業不振」が52人、「親子関係の不和」が42人。一方で「いじめ」は6人しかおらず、「失恋」の16人より少なかった。 

問題なのは、いじめを原因・動機とする子どもの自殺はそこまで多くないにもかかわらず、「子どもの自殺=いじめ」という固定概念があることによって、ほかの原因・動機への対応や原因究明が進んでいない現状があるという点だ。(中略)実際、「生徒が自殺未遂をしたとき、教育委員会が原因を問い合わせてきたが、いじめでないとわかると対応は学校と保護者任せになった」という教員の話もあるほどだ。 

 それは、社会構造そのものへの指摘に及ぶ。

 いまの社会に根づいているこの自己責任論とは、「己の人生の責任はすべて自らが負うべきである」という考え方に基づき、不本意な結果への責任を懲罰的なやり方によって負わそうとするものである。この考え方は次第に「自業自得」という考え方へと変換されていく。結果への責任と行動への責任とが混在し、仮にネガティヴな結果が生じたとしても、それは個人が選択して行動した結果として起きたことであるため、社会の構造や環境要因に責任を求めるのは違うというわけだ。
 この懲罰的な自己責任論はいま、家庭内にまで蔓延し、多くの子どもたちを自己否定ループへと追いやっている。

 そして、著者は、孤独対策を立案し、永田町・霞ヶ関を走り回り、働きかけ、そのことが、世界で2番目に「孤独担当大臣」が誕生するきっかけになったと言われている。

 それは、こうして他人事のように語るのは無責任で失礼だけど、やはり、すごいことだと思う。

おすすめしたい人

 自分が今、悩んでいたり、困っていたりするのは、自分のせいだと思っている人。

 支援の仕事や、役割を担っている人。

 今の社会は、なんだかおかしいのかもしれない、と思っている人。

 特に、そうした方々におすすめしたいと思っています。


(こちら⇩は、電子書籍版です)。




(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。





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