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喫茶店百景-うちの場合・2-

 最近このマガジンの記事を書いていなくて、なんとなくさみしい。以前書いた、かつてうちの店にあったメニューをまた、思いだしながらいくつか書いてみる。

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 両親がやっていた喫茶店は、自家焙煎珈琲が売りものだった。もちろんその他にも、軽食やデザート(というほどでもないけれど「スイーツ」は違う)などといった、いくつかのメニューがあった。子ども時代に、多くの時間を店で過ごした私は、両親たちがお客の注文に応じて飲み物や軽食を作るさまをしょっちゅう眺めていた。
 そんなイメージのなかの喫茶店メニューから、いくつか書き出してみたい。

 ホットサンドというものは、私にとってはチビのころからなじみ深い食べものだった。
 ホットサンドのバリエーションはいくつかあって、うちの店ではタマゴ、ハム、野菜、チーズ、及びそれらの組合せといったふうだった。たまにツナやハンバーグを詰めたのを裏メニュー的に出すこともあった。
 ホットサンド(タマゴ)の作り方はこうだ。

 注文が入ると、小さなボウルに卵を2つ割り、塩コショウをし、牛乳を少量入れて混ぜる。フライパンをあたため、サラダ油をひいたところに卵液を流し入れる。フライパンは円形のを使っていて、卵がいい具合に焼けてきたら素早く四角に、パンに収まるかたちに整えて折りたたむ。父や母は菜箸をうまく使ってそれをやった。
 卵が焼けるまでの間に、スライスした角食パンの一方にマーガリンを塗り、もう一方にはマヨネーズとからしを混ぜたソースを塗る。うちで使っていたのは練りからしで、これはとてもツンとした辛みがある。
 ソースを塗ったパンに、イボを取って斜めに薄く切ったキュウリを3枚ならべ、焼きたてほかほかの卵焼きを乗せる。もう一枚のパンを重ねる。
 いつの間にかホットサンド用のグリルパンが火にかけられていて、股を開くみたいに柄を持って開いて、バターを落とす。すぐにいい香りがたつ。
 サンドイッチをグリルパンに乗せ、もう片方の面にもバターを塗ってグリルパンの蓋をぎゅっと閉じる。柄の部分には金具がついていて、焼いている間はこの金具でもって閉じ合わせることができるのである。

 ときどきグリルパンの中の様子を見ながら、両面を焼いていく。このときの開いたり閉じたりして確認する動作がすきだった。
 パンの表面がこんがり焼けたら、両手で股開きに柄を持って、まな板にサンドイッチをポンと取り出し、パンの対角線に包丁を入れて切り分ける。
 葉物野菜とくし切りのトマト、タマネギで作った簡易なサラダが準備された白いディッシュプレートの隣に、三角形にされたあつあつのホットサンドイッチが、交差して盛られる。サラダにドレッシングをかけ、フォークを添えて客に出す。

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 チーズケーキやガトーショコラ、パウンドケーキなどの、材料と作り方の簡単なケーキは店で作った。
 フィラデルフィア・クリームチーズ1箱(200gくらいだっけ)を室温においておき、やわらかくなったそれを大きなボウルに開ける。大きい泡だて器で撹拌していくと、次第になめらかなクリーム状になる。そこに砂糖を加え、またすり混ぜる。つぶつぶの砂糖が入ることで、撹拌のときの音が変わる。
 クリームチーズと砂糖がなじんだら、卵黄と生クリームを入れ、そこにバニラエッセンスをひとたらしと、大匙一杯くらいのレモン汁を加えてまた混ぜる。
 次は粉をふるい入れて、泡だて器からヘラに持ち替えて生地を混ぜ込んでいく。これで生地の準備はおしまい。

 ビスケット(マクビティとか、マリーとか)をてきとうに砕いて、そこに少量のバターを混ぜたものをケーキの土台にした。
 15cmくらいの丸いケーキ型の底にビスケット生地をしきつめる。型の側面に油を塗り、クッキングペーパーを貼り付けておき、その状態で型にケーキ生地を流し込む。
 型をとんとんして、生地の空気が抜け表面が平らになったら、予熱しておいたオーブンに放り込み、焼く。30分か40分くらいで焼きあがる。

 焼きあがったベイクドチーズケーキは、しばらく冷まして型から外す。冷蔵庫で保管し、注文があれば切り分けて盛り付け、提供する。

 ベイクドチーズケーキは実に簡単であるから父も母も(私も)よく作った。いまでも母は、ときどき焼いて友人知人にふるまっているらしい。
 夏の暑い時期などは、これも手軽なレアチーズケーキを作って出すこともあった。

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 甘い飲み物はあまりすきじゃなかったけれど、ときどきココアを飲んだ。
 ミルクパンにココアパウダー、砂糖をミニ泡立て器で混ぜ合わせる。その鍋に、はじめ少量の牛乳を注いで粉をといてから、弱火にかけて温めながら牛乳を注ぎ足していく。右手は牛乳を注ぐたびに、ダマにならないようにココアを混ぜ続けている。鍋の中のものは、こげ茶色だったココアパウダーの色から、だんだんミルクココア色に変わっていく。いい匂いがしてくる。
 パウダーが溶け、ココア液の温度が適温になったら火からおろす。温めたカップには濾し器がセットしてあって、そこにココアを注ぐ。
 甘みをつけないホイップクリームをのせ、シュガーポットとともに客席に運ぶ。

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 ロイヤルミルクティーというものがどういうものか、よく知らない。うちのメニューにはロイヤルミルクティーがあった(ミルクティーじゃなく)。
 ミルクパンにたっぷりのアッサム茶葉を景気よく入れ、いつも沸騰させている銅ポットのお湯を少量注ぐ。茶葉を蒸らすようにして広がったら、牛乳を鍋に注ぎ入れる。そこからさらに茶葉を煮出し、ミルクティー色の液体を沸騰させないようにくつくつさせる。
 葉が開ききって、香りがたち、頃合いになったら火からおろして茶漉しをセットした温かいカップに注ぐ。
 紅茶の香りが苦手だったけれど、ミルクティーにしてあるとやわらかい匂いがして、いかにも温かそうで好ましかった(飲まなかったけど)。

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 こういうのを、情景と共に思い返しながら書くのはなかなか愉しい。サンドイッチは、他に薄切りのパンで作る通常のものがあった。ソースや中身は大体同じで、パンの厚みが違った。こちらのサンドイッチには小瓶に入れた塩を添えて提供していた。
 パンが届いたばかりの新鮮(でいいのかな)な状態のときは、耳もやわらかいから落とさずに出していた。耳を残すお客はほとんどいなかった。
 おやつサンドイッチのフルーツサンドも出していた。こちらは、薄切りのパンに生クリームを塗り、季節ごとのフルーツを挟む。私はおそらく、店で食べたことはない。

 先日父と会ったときは、平井さんの店に行った。平井さんの店のメニューは豊富で、フレッシュジュースの種類も多い。バイタミックスで作るそのジュースはおいしいと聞いたことがあって、頼んでみよう、と思いつつ、気がついたらいつもコーヒーを頼んでしまっている。
 次こそジュースを、と思いながら今回はここで筆をおくことにする。

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↑ 平井さんの店

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今日の「ロケ」:先日ある教会でドラマの撮影をやっていたところに遭遇しました。「片山さん! ◯◯ちゃんがきてますよ!」と言われたけど、その◯◯ちゃんがわからず困惑しました。

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