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公園は丘の上

  休日午後三時頃、大学の課題をさっさと済ませ、よく行く公園へ出掛けようとしていた。

  クタクタのパジャマからデニムに履き替え、靴下に関しては目もくれず、ごそごそと引き出しに手を突っ込んで手に取れたものを履いた。上は面倒なので、パジャマの上からハリントンジャケットを羽織り、寝癖が着いたままの髪を押さえるようにペイヴメントのキャップを被った。ショルダーバッグには百円玉2枚と、スマホとイヤホンと小説『西の魔女が死んだ』を詰めた。

  家にある貰い物のMINIのチャリは祖父が大事にとっておいたもので、管理についてはよくグダグダ言われる。私の部屋は二階、祖父の部屋は一階にあるため、こっそりと階段を降りて見つからないように玄関へ向かう。
 誕生日に友人2人が割り勘で買ってくれた黒色のAIR MAX95を履き、チャリに跨いでようやく出発した。

  自宅から公園までは、グソクムズのファーストEPを聴くことにした。道の途中で自販機に寄り、先程の百円玉二枚を投入。カフェオレのボタンを押した。これを飲みながらベンチに座って優雅に小説を読もうと、この時はまだワクワクした想像を膨らませいた。
 公園は丘の上にあるため、いくつかの坂を登るたび、何度も太ももが疲労困憊しかけた。ようやく丘の上に辿り着き、足を着いたときにはすでに激しく息切れしており、吐き気すらあった。こんな時にミルクが入った飲み物など飲めたもんじゃない。普通の水にしておけばよかったとすぐに後悔した。

  ようやく呼吸が落ち着いたところで、公園のベンチに座り、カフェオレを飲む気になり、FKJ,(((〇)))のYlang Ylangを聴いた。
 自然に涙が出たと言うよりは、特に何かあった訳では無いけれど、「最近ちゃんと泣けてなかったし、せっかくだからこの自然に囲まれながら泣いてみたい」という感じだった。
  こぼれ落ちた涙は顔のくぼみを伝って口の端に辿り着いた。カフェオレがかなり甘かったからか、余計にしょっぱく感じた。肝心の小説は一頁程度しか読めなかったが、次の課題曲は決まった。

  しばらくすると西日はオレンジ一色になり、その左横には白の膜を張ったような三日月が映し出されていた。周りの木々は緑から黒に色を変え、三日月も次第に光を伴い、その更に左横にはすぐ見失ってしまうほどつぶらな金星だけが、一点を煌めかせていた。

 空き缶を持った左手が冷えてきた頃、帰ろうとする。しかし帰るには惜しいくらい虫や鳥の鳴き声は心地良過ぎる。帰ってから何かしなきゃいけないような気がして、帰りたくない。

  しばらくすると、夏はとっくに終わり、こんなに寒くなったのにも関わらず、蚊が寄って来た。「今更痒くなりたくないだろ。さっさと帰れ」と迫られているような気がして、このことが帰るきっかけとなった。

 帰りは下り坂となっているため、風を切り過ぎたのと、日がとっくに沈んでいたことも相まって、家に着く頃には耳が冷えきって痛かった。

『冷えた耳』
『透けた白の膜』

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