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【短編小説】 大掃除の迷う重力と、空の澄んだ青

会社も年末休暇に入ったので、
星凛果セリカは大掃除をしていた。


星凛果は、とくに欲しいものも
日頃からある方ではなく、
持ち物も少なかった。


しかし、片づけを始めてみると
あれやこれや捨てるものが
意外にあった。



日頃から捨てようか迷っていたものを
ここにきて捨てるかどうか
決断を迫られている感じがした。



捨てるのも、
残すのもなんだか納得がいかず
どうすべきか悩んだ。


きっとこのチャンスを逃したら
あと1年間は、この扉をひらいて
捨てるかどうかを考えることはないだろう。


ならば今捨てる、と決めた方が心は楽だ。



でも、思い出もあるし、
あとでまた自分にとっての
重要なことで参考になるかもしれない。

捨てたことを後悔するかもしれない・・・


などど考えると、
意外とサクサクと進まないのである。

そして、なんだか苦しくもある。



うーん……
手が止まってしまった。



気分転換にサンダルを履いて外に出てみる。

土を踏みしめる感じが心地いい。



12月が閉じようとする
季節の空気は切るように冷たく、
少し傾きかけた太陽は
ひかえめに温かく
星凛果セリカを包んだ。



なにげなく遠くの空をみると、
雲一つない緩やかな
ブルーの空が広がっていた。



冷たく凍るような空気が空を、スーッとどこまでもどこまでも
澄ませていた。




明らかに、秋の空とは違っていて
冷たい空気がちりを排除し、
遠くまできれいに
透明に澄んだ青が見えた。



「なにもないな。」

そう星凛果セリカは思った。



「ただ、……



あるのは、底がないくらいの美しさだけだ。





星凛果セリカは、そらを見上げながら
目をとじた。



ふわりとあたたかな
太陽のひかりをまぶたに感じる。





ふと、星凛果セリカ
自分がもっている持ち物の中に
溺れていくような感覚をおぼえた。



自分がいらないと思っている持ち物のなかに。
どうしようかと迷っている持ち物のなかに。




それは、自分の生き方と直結していて
そのものと自分が、
太い綱でつながっているような気がした。

ものは、ただのものではないような気さえした。



ふたたび目を開けると
そこにはまた延々とあふれ出るように続く
薄い青のやさしくも
容赦のない深い空があった。


星凛果セリカは、その空の底を探すように
透明な青を見つめた。

見つめても、見つめても
ただ青だった。



ただつかみ切れない
誰の物にもすることのできない
言い表せない淡いあお。



そこには何もない。雲さえない。


ただあるのは、美しい溢れるような
ひかる青




自分がもっている、綱とからまった
ものからの重力から逃れ
その溢れる美しさの中にはいって行きたい。
そう思った。



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