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「#7 険悪な雰囲気のなか名物パフェの登場」



 今日は久しぶりに佳奈とのデートだ。本当は先週デートのはずだったけど、バイト先のコンビニで体調不良が二人も出て、どうしても僕が代わりに出なくちゃいけなくなった。佳奈に事情を説明すると、次のデートでレンタカーを借りて海まで連れて行ってくれるならという約束で許してもらった。

 海沿いの道を車で走ってる間、佳奈はずっと窓から青い海を眺めてはしゃいでいて、僕が佳奈の好きな曲ばかりを集めて作ったプレイリストをほとんど聴いていなかった。僕が車の駐車に手間取ってる時も、早く、早く、と掌で膝の辺りを叩いて急かし、砂浜に着くと僕の手をとって海に向かって駆け出した。砂浜を踏む度にスニーカーが埋まって中に砂が入り込んくる。ちょっと待ってよと言っても佳奈は無視して僕を引っ張り、やけくそになった僕はスニーカーを両方脱ぎ捨てて佳奈に飛びついた。小柄な佳奈は僕を支えることなんて出来なくて、二人で柔らかな砂の上に寝転がって大笑いした。見て!と佳奈が指差した空があまりにも青すぎてまた二人で大笑いした。
 それから二人でしばらく海を眺めて、その後は貝殻を拾いながら海岸沿いを手を繋いで歩いた。欠けたり、割れたりしていない綺麗な貝殻を見つけるのは結構難しくて、顔を上げると駐車場近くの砂浜からずっと遠くまで来てしまっていた。縦に線が入った白くて大きい貝殻が欲しいと駄々をこねる佳奈を、今度は僕が引きずるようにして海岸沿いを歩いて引き返した。

 車に戻ると砂浜を歩いたせいか足がだるく疲れていて、どこかで休憩して甘いものが食べたいと佳奈は言った。きっとそう言うだろうと思っていた僕は海が綺麗に見える丘の上のカフェを事前に調べていて、良いところがあるよとだけ言って車を走らせた。
 15分ほど車を走らせると、一軒家をリノベーションして造られたカフェの真っ白い外壁が見えて来た。僕らは海が一望出来る大きな窓際のソファー席に通してもらい、向かい合わせ座ろうとした僕の隣に飛びつくように佳奈が座った。
 どれにしようかとメニューを開いて佳奈に見せようとした瞬間に、これがいい!と佳奈は通常のメニュー表とは別になっている、一枚だけのメニュー表を指差した。そこには左上に大きく「名物オーシャンパフェ!」と書かれており、真ん中には海をイメージしたのだろう涼しげで綺麗なパフェの画像があった。
 じゃあこれにしよう!と言うと佳奈はやったー!と両手を上げて大袈裟に喜び、お決まりですか?と笑顔で注文を取りにきた店員さんにパフェとコーヒーを二杯注文した。
 ネットなどに載せられている写真は実物よりもよく撮れていることが多いが、ここから見る海の景色は僕が佳奈を連れて行きたいと思ったそのままの美しさだった。

「この景色を佳奈に見せたかったんだ」

 海と空の境界を探しながら僕は言った。

「へ〜誰かと来たことあるの?」

「初めてだよ、スマホで色々調べてた時にいいなぁって思ったんだ」

「ここに来るまでの道は調べずにすんなり来たよね」

「海沿いずっと走って左に曲がるだけだったから覚えてたんだよ」

 佳奈はたまにこうしてヤキモチを妬くことがあるけど、そんな幼さが残る部分も魅力なんだと思う。

「ほらっ昨日の検索履歴でめっちゃ色々調べてるの分かるから見てみなよ」

「そのシール何っ!」

 僕が佳奈にスマホの画面を見せようと開いた手帳型のケースの、カード入れ部分を指差して佳奈は語気を強めた。

「えっ、あぁこれは先週シフト変わって夕方出勤した時に一緒だった女の子が勝手に貼ったんだよ」

「勝手にってなに?てか女の子と入ってたの黙ってたんだ?」

「黙ってというか・・そもそもコンビニなんて男ばっかりが働いてるわけじゃないから」

「隠してたんでしょ?そんな大事にシールなんて残して」

「隠してないし、シールの存在なんて忘れてたよ」

「今すぐ剥がして謝ってよ!」

「いいよ、ほら。ごめんね」

「・・・・・」

「もう仲良くしようよ、せっかくデートに来てるんだし」

「・・・・・」

「黙ってないでさ、全く喧嘩する必要なんてないのに、この時間が勿体無いよ」

「分かってるって!」

「分かってるなら普通にしようよ」

「分かってるって言ってんじゃん」

「いや分かってないから言ってんだよ」

「もうしつこいなぁ・・」

「ちょっと待って、何がしたいの?問題や不満があって怒ってるのはギリ理解が出来るんだけど、全部違うって説明して、疑わしくなってた部分は謝ったよね?わざわざここで喧嘩するのが目的なの?」

「だから分かったって」

「いやいや、だからじゃあ普通にしてよ。その態度取っても誰も得しないから。それを続けてここから何かが好転すると思ってる?」

「もういいよ、はいはい」

「もういいよじゃないんだよ。俺がややこしいこと言ってんじゃなくてお前が言ってるんだよ!」

「ごめん大き声出さないで」

「だからお前が出させてんだよ!散々無視して煽っといてせこい言い方してくんじゃねーよ、頭わりーな!」

「最低だね」

「あのな!もっかいだけ説明してやるよ!俺はずっとこの場や二人の関係を良くする為に意見して、こうして声を荒げてんの。お前なの!お前はずっと自分の不満や気に食わないことを激情に任せて口にするか、ただ相手を傷つけたり嫌な想いをさせる為だけに言葉を発してるの、どっちが最低か理解できる?」

「お待たせしましたー!オーシャンパフェです!こちら一番底の青い部分は、深海と地球をイメージしたソーダゼリーになっております。そこから徐々にグラデーションしていき最後のエメラルドグリーンの部分まで生クリームを使ったムースになっております。ムースの中には海の珊瑚礁をイメージした色鮮やかなフルーツがふんだんに使われてますのでお楽しみに!そこから上は海に浮かぶ孤島をイメージした4種類のアイス、雲の生クリーム、太陽やヨットそしてパラソルも全部焼き菓子で作られてます!3〜4人前のジャンボパフェになってますので、こちらの取り皿をお使いください!パフェ、二人の真ん中に置いちゃいますね、ごゆっくり!」

「・・・・・」

「・・・・・」


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